23 / 26
恋人ごっこ
10
しおりを挟む
朝の教室。
席に着いた瞬間、ふわりと香る柔らかな空気で気づく。
少し遅れて、サイコがいつものように、隣の席に腰を下ろした。
「おはよう、不破くん。」
「……ああ。」
口先だけで返事をする。
手元のノートを開いたまま、視線は動かさない。
顔を上げれば、きっと目が合う。
その時、自分がどんな顔をするのか。
それが、怖かった。
罰ゲームだった。
最初は、そういう事だった。
ただの冗談。
クラス友人たちのノリと空気で始まった偽物の関係。
しかし、気づけばもう「それだけ」じゃ済まなくなっていた。
サイコがこちらを見つめる時の目。
自分の机に当然のように座ってくる距離。
小さな言葉、癖、仕草。
全部が妙に、心に残る。
最近、それが息苦しい。
期待して、焦って、勝手に空回って。
そんな、名前のつけられない感情に、気づいてしまった。
昼休み。
サイコがいつも通り、弁当を持って歩いてきた。
「一緒に食べ──」
「……わり。今日は一人で食うわ。」
遮るように発した声が、思ったよりも冷たかった。
サイコの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
手に持った弁当箱が、軽く揺れた。
だけどサイコは、すぐに笑った。
いつもの調子で、変わらない声で。
「……そっか。じゃあ、また後でネ。」
その笑顔が本物かどうかは、もうわからない。
けれど、それを確かめようとはしなかった。
背を向けて歩いていくアイツを、不破はただ目で追った。
手を伸ばすことも、声をかけることも、できないまま。
(……なんでだよ)
(気になって仕方ないくせに)
(顔が見たい、声が聞きたい。隣にいてほしい)
(……でも、今のままで踏み込んだら、たぶん壊れる)
昨日までと何も変わってないのに、何かが変わった気がして。
それが何なのか、未だ言葉にできないまま。
少しだけ、距離をとってしまう。
測ろうとすればするほど、指先からこぼれていく感覚。
ただのごっこに慣れすぎて、その延長線上にあるこの気持ちが、本物かどうか、わからなくなっていた。
その夜。
サイコの観察ノートには、淡々と、けれど丁寧に、こう記されていた。
今日の不破くんは、少しだけ遠かった。
また遠くなるのかな。
また独りになるのかな。
……人って、いくら観察しても、結局よく分からない。
席に着いた瞬間、ふわりと香る柔らかな空気で気づく。
少し遅れて、サイコがいつものように、隣の席に腰を下ろした。
「おはよう、不破くん。」
「……ああ。」
口先だけで返事をする。
手元のノートを開いたまま、視線は動かさない。
顔を上げれば、きっと目が合う。
その時、自分がどんな顔をするのか。
それが、怖かった。
罰ゲームだった。
最初は、そういう事だった。
ただの冗談。
クラス友人たちのノリと空気で始まった偽物の関係。
しかし、気づけばもう「それだけ」じゃ済まなくなっていた。
サイコがこちらを見つめる時の目。
自分の机に当然のように座ってくる距離。
小さな言葉、癖、仕草。
全部が妙に、心に残る。
最近、それが息苦しい。
期待して、焦って、勝手に空回って。
そんな、名前のつけられない感情に、気づいてしまった。
昼休み。
サイコがいつも通り、弁当を持って歩いてきた。
「一緒に食べ──」
「……わり。今日は一人で食うわ。」
遮るように発した声が、思ったよりも冷たかった。
サイコの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
手に持った弁当箱が、軽く揺れた。
だけどサイコは、すぐに笑った。
いつもの調子で、変わらない声で。
「……そっか。じゃあ、また後でネ。」
その笑顔が本物かどうかは、もうわからない。
けれど、それを確かめようとはしなかった。
背を向けて歩いていくアイツを、不破はただ目で追った。
手を伸ばすことも、声をかけることも、できないまま。
(……なんでだよ)
(気になって仕方ないくせに)
(顔が見たい、声が聞きたい。隣にいてほしい)
(……でも、今のままで踏み込んだら、たぶん壊れる)
昨日までと何も変わってないのに、何かが変わった気がして。
それが何なのか、未だ言葉にできないまま。
少しだけ、距離をとってしまう。
測ろうとすればするほど、指先からこぼれていく感覚。
ただのごっこに慣れすぎて、その延長線上にあるこの気持ちが、本物かどうか、わからなくなっていた。
その夜。
サイコの観察ノートには、淡々と、けれど丁寧に、こう記されていた。
今日の不破くんは、少しだけ遠かった。
また遠くなるのかな。
また独りになるのかな。
……人って、いくら観察しても、結局よく分からない。
24
あなたにおすすめの小説
振り向けば、そこに君がいる!!
大庭和香
BL
【美形×平凡】
ブサ寄り平凡なイソちゃんは、大学の初回講義で、グループワークが必須と知って詰んだ。
そこにすっげー美形の男が声をかけてくれて――。
美人系親友・刈谷、男前系の弄り担当・直武、
そして距離感バグりまくりのエルフ系美形・上田と送る、楽しい(?)大学生ライフ。
イソちゃんの平穏は、今日も顔面偏差値に蹂躙される――!
📌別サイトで投稿済の、現時点で一番新しい作品です。
はじめて「自分の好きなコメディ」が書けた気がしています。またいつかこういう話が書きたいです!
「短冊に秘めた願い事」
星井 悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。
落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。
……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。
残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。
なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。
あれ? デート中じゃないの?
高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡
本編は4ページで完結。
その後、おまけの番外編があります♡
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
君と僕との泡沫は
七天八狂
BL
【ツンデレ美貌✕鈍感平凡の高校生】
品行方正才色兼備の生徒会長と、爪弾きの底辺ぼっちが親の再婚で義兄弟となった青春BLドラマ。
親の再婚で義兄弟となった正反対の二人の青春BL。
入学して以来、ずっと見つめ続けていた彼が義兄弟となった。
しかし、誰にでも親切で、みなから慕われている彼が向けてきたのは、拒絶の言葉だった。
櫻井優斗は、再婚を繰り返す母のせいで引っ越しと転校を余儀なくされ、友人をつくることを諦め、漫画を描くという趣味に没頭し、孤独に生きていた。
高校で出会った久我雅利の美貌に見惚れ、彼を主人公にした漫画を描くことに決めて、二年間観察し続けていた。
底辺ぼっちだった優斗は、周りから空気のように扱われていたから、見えない存在として、どれほど見ていても気づかれることはなかった。
そのはずが、同じ屋根の下に住む関係となり、当の本人に、絵を描いていたことまでもがバレてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる