サイコくんと一緒

TERRA

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恋人ごっこ

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朝の教室。
席に着いた瞬間、ふわりと香る柔らかな空気で気づく。
少し遅れて、サイコがいつものように、隣の席に腰を下ろした。

「おはよう、不破くん。」
「……ああ。」

口先だけで返事をする。
手元のノートを開いたまま、視線は動かさない。
顔を上げれば、きっと目が合う。
その時、自分がどんな顔をするのか。
それが、怖かった。

罰ゲームだった。
最初は、そういう事だった。
ただの冗談。
クラス友人たちのノリと空気で始まった偽物の関係。

しかし、気づけばもう「それだけ」じゃ済まなくなっていた。
サイコがこちらを見つめる時の目。
自分の机に当然のように座ってくる距離。
小さな言葉、癖、仕草。
全部が妙に、心に残る。

最近、それが息苦しい。
期待して、焦って、勝手に空回って。
そんな、名前のつけられない感情に、気づいてしまった。

昼休み。
サイコがいつも通り、弁当を持って歩いてきた。
「一緒に食べ──」

「……わり。今日は一人で食うわ。」

遮るように発した声が、思ったよりも冷たかった。
サイコの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
手に持った弁当箱が、軽く揺れた。

だけどサイコは、すぐに笑った。
いつもの調子で、変わらない声で。
「……そっか。じゃあ、また後でネ。」

その笑顔が本物かどうかは、もうわからない。
けれど、それを確かめようとはしなかった。

背を向けて歩いていくアイツを、不破はただ目で追った。
手を伸ばすことも、声をかけることも、できないまま。

(……なんでだよ)
(気になって仕方ないくせに)
(顔が見たい、声が聞きたい。隣にいてほしい)
(……でも、今のままで踏み込んだら、たぶん壊れる)

昨日までと何も変わってないのに、何かが変わった気がして。
それが何なのか、未だ言葉にできないまま。
少しだけ、距離をとってしまう。

測ろうとすればするほど、指先からこぼれていく感覚。

ただのごっこに慣れすぎて、その延長線上にあるこの気持ちが、本物かどうか、わからなくなっていた。

その夜。
サイコの観察ノートには、淡々と、けれど丁寧に、こう記されていた。

今日の不破くんは、少しだけ遠かった。
また遠くなるのかな。
また独りになるのかな。
……人って、いくら観察しても、結局よく分からない。
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