呪われた騎士と関西人

ゆ吉

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1章

16.「お宅訪問」

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 あの後、何かお礼をしたいと言うハイス院長に一緒にお茶出来たんで良いですよ、いやいやそれだけでは、じゃあ、今後何か困ったら助けて下さい、それでは余りに足りないです…、えーと…俺は旅人なんでアイスナーさんになんや返してくれたら嬉しいです!
 て、やり取りを繰り返してから移動する流れになった。

 治療院が街の中心部にあるとして、エーベルさんのお宅はその更に奥の区画、お城に近い一角にある。
 外門に近い程、可愛らしい民家が多かってんけど、街中に進んで行くに連れ、やや落ち着いた印象の大きい家が増えて来た。
 民家の間にも庭があったりと、正直、ちょっとお高いんでしょ?的な印象を受ける。

「ここだ。入ってくれ。」

 流石に門番はおらんけど、立派な門構えの扉にエーベルさんが手を添えたら、一瞬紋様が浮き上がって鍵の外れる音がした。
 ファンタジーやなぁと関心しつつ、押し開けて入った先にはレンガで作られた小道があって、庭を眺める形で玄関に続いてる。
 庭には花壇や観賞用の植物があり、よく手入れされてて、天気の良い日に日向ぼっこするのに最適空間やと思う。
 家自体はベージュ系の壁に白色の木の枠組み、屋根と煙突は藍色と全体的に清潔で落ち着いた外観やった。
 硝子嵌ってたんも他と比べて珍しいんやけど、窓の形も場所によって長方形、扇形、八角形と趣向が凝ってて素敵や。
 只、性故さがゆえにまた、お高いんでしょ?のフレーズが頭を過ぎった、俺の脳内にツッコミそうになる。

 そんな脳内勘定をしてるとは知らんエーベルさんに案内されるまま玄関に到着し、ベルを鳴らすと女の人の声が直ぐに返って来て扉が開いた。
 そして現れたんは、恰幅が良い健康的な感じのおばちゃんやった。
 おばちゃんは人懐こい笑顔を浮かべてエーベルさんに挨拶した後、俺の存在に気が付くと目をまん丸にして驚く。なんでや。

「まあまあまあ、エーベル様がお客様を連れていらっしゃるなんて!明日は雪が降りそうねぇ!」

 気心知れてるからの冗談を炸裂させたおばちゃんにエーベルさんは肩を竦める。

「アデーレ。ここは良いからお茶の準備でもして来てくれ。」

「あらま、そう邪険にしないで下さいな。皆も呼んで歓迎しますからね?さあさ、どうぞお入り下さい。」

 上手くエーベルさんをあしらいつつ、感じ良く接してくれるアデーレさんに肩を震わせながらも、暖かい気持ちで室内に招き入れられた。

 そして通された先で『皆』に当たる人を紹介されたんやけど、最初で撃沈してもた。
 だって、三歳ぐらいの女の子がモフモフの白猫を抱えてお辞儀してくれたんやけど、持ちきれて無くて猫がテローンと伸びてる状態やねんもぉおお!
 なんかコミカルやし、二人ともめっちゃ可愛いです!ありがとうございます!と、心の中で全力土下座感謝で悶える。
 はあはあ…おまわりさんこいつです、じゃなくて!ニマニマ状態でしゃがんで目線の高さを合わせると俺もお辞儀を返した。

「ダイチ言います。二人ともお名前なんて言うんかな?」

「クシェル…このこは、フェイ!」

 自分の名前は恥ずかしそうに、大好きなんやろうか、白猫ちゃんの名前は元気良く言うとかっ…萌ぇええ!逮捕ー!もういっそ逮捕されて良いんで抱きしめたいっっっ!!!

 この世界はなんて罪な存在が多いんや…と、悟りの心境を開いてればなんや視線を感じて正気に返る。
 冷たい視線かと思いきや、何故か猫がじっとこっちを見てた。探るような見極めるようなってのは思い込みかもやけど、澄んだ青い瞳が覗き込んで来る。
 暫く猫と見つめ合う謎の状態やってんけど、クシェルちゃんが首を傾げた所で終わった。

「ダイチおにーちゃん…おかお、みえない。」

 そう言えば、アイマスクしてたな。
 取ってええもんか悩んだ俺は、秘技!誤魔化しを発動させた。

「ごめんなぁ、おにーちゃん、お目目だけ隠れんぼ中やねん。」

「かくれんぼ?」

「そや!鬼さんから逃げるのに、隠れなあかん遊びやねんで。後で一緒にやってみる?」

「…おにさん、こわくない?」

 鬼さん発言てか、この世界やとオーガさん発言か?にクシェルちゃんが戸惑ったんでフォローを入れる。

「勿論や!俺が鬼さんの変わりするよって、全然怖くないで~。フェイと三人でしようや?」

「うん!」

 フェイの名前を出した途端、頬がバラ色に染まって満面の笑顔を向けてくれた。
 激カワやっ!こんな表情を引き出すフェイ先生マジぱねぇっす!
 そんな、危なくもほんわかしたやり取りをした後、クシェルちゃんのお父さんで、クリストフさんを紹介された。
 クリストフさんの次はアデーレさんのお父さんとお母さんのエトガーさんとラーレさんを紹介されたんやけど、エトガーさんの右腕、肘の下辺りから欠損してるのに気がつく。

「アイスナーさん。もしかして、患者さんてエトガーさんですか?」

「ああ、エトガーとクリストフだ。良ければ看て貰えるか?」

「クリストフさんもですか?どこ怪我してるんです?」

 俺の質問にクリストフさんは着てた薄手の長袖を脱いで背を向けてくれた。
 背中にはどう見ても魔獣の爪の傷跡が大きく残ってる。血は出てないものの皮膚が変に突っ張って痛そうや。

「えらい跡ですね…そのまま動かんといて下さいね?」

「何をされるんですか?」

「治療です。安心して下さい。」

 俺は格好と言動が怪しいし、不安げな声を上げるクリストフさんを宥めつつ【癒しの光】を使用した。
 直ぐさま、綺麗に治癒した背中を見た周囲の面々が騒ぎ出す。

「凄いよ!すっかり治ってる!良かったわね、クリス!」

 確かめるように背中を撫でてアデーレさんが歓喜した。
 なんや親しげやなとか思ってたら外套の裾をツンツン引っ張られる。視線下げた先にはクシェルちゃんとフェイがおった。

「ありがとう!おにいちゃん!」

「にゃー。」

 ここが楽園かっ!!!
 天使二人にお礼言われて昇天し掛けた。
 遅れてクリストフさんからも感謝と訝しんだ謝罪を受け、効果を見てたエトガーさんの治療にも直ぐに当たれた。

「本当に、凄い…。これで、また仕事ができます…っ、ありがとうございます。」

 震えながら再生した自分の手を見つめ、暫くして頭を下げたエトガーさんと奥さんとアデーレさん。
 なんや照れくさかったけど、感謝は受け取ってから一旦、夕食までお開きにする事になった。
 アデーレさんとラーレさんがお礼に腕によりを掛けてくれるとかで楽しみや。

 んで、空いた時間は有効活用って事でエーベルさんに許可取って、俺VSクシェルちゃんとフェイチームの隠れんぼ大会が屋敷で開催された。
 タッチ制度は身体能力的にどうよって感じやったから、見つけたら交代の簡単ルールで行った。
 初心者ながら二人は上手く隠れて中々に苦戦する。
 時には、アデーレさんのスカートの中とかエーベルさんの寛いでるソファの下とか、心理的に突っ込んで行く勇気が試され…一部、捕まるって!て、所に隠れられて難儀した。楽しかったけどな!
 フード取れても気にせず、素で遊んで最後はきゃっきゃうふふの追いかけっこに発展した。ああ、これがリア充か…とか謎な恍惚感に囚われながら気づいたら夕飯の時間になっとった。

 夕飯のメニューは白パンとホカホカのシチューっぽいスープと新鮮なサラダに、まさかの厚切りステーキやった。
 エーベルさんが種族的に主に肉食で、たまに狩りしてくるらしく肉が豊富やとか。
 皆で食卓を囲むと遠慮せず食べって言われたんで、ペロリと完食後、おかわりしたらなんやビックリされた。そんなに食べられると思わんかったらしい。
 俺的にも食べん時は食べんでも行けるから、なんでこんな入るんか疑問な所ではある。
 個人的にシチューっぽいスープが好みやったから、いつかフォルクと食べれたら良いなと思った。

 デザートのフルーツ盛り合わせまで美味しく頂いてから、風呂を勧められて入る事にする。
 湯船もあって、今まで体は【浄化】スキルで清めてたんやけど、実際にタオルでゴシゴシ洗って髪も専用の香油みたいなんで綺麗にしてお湯で流したら気分的にもさっぱりした。
 後はゆっくりお風呂に浸かったら心理的な疲労も減った気がする。
 大満足状態で下着と、いつものシャツ、ズボンスタイルでタオル頭から引っ掛けて案内された部屋に向かい、アイマスクとかベスト、外套、ブーツも脱いで夜が更けるのを椅子に座って待ってたら、グラスと瓶を持ったエーベルさんが訪ねて来た。
 彼も風呂上がりなんか、いつもしっかり整えてる髪は緩く下の方で結ばれてて、アオザイっぽい白の長上着の胸元を少し着崩したラフな感じや。

「どうしたんです、アイスナーさん?」

「いや、酒でも飲みながら少し話がしたくてな。良いか?」

「ええですよ。どうぞ。」

 家に誘われた時点でなんやあるんやろなとは思ってたんよね。
 俺は、さてどんな驚き話が出てくるんやろと薄く笑った。
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