ーANDROIDAー 禁忌の“ココロ” 僕らは――もうどこにも存在しない 【完結】

ゆずたこぽんず

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4.目覚めト希望

33_未来の選択

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 俺の体は、仮想世界の中を流れていく……湖の上……オブジェクトだらけの森――最後まで、アバターで練り歩いて、笑い合う人々を眺め…………

 まるで、世界がプツリと消えたように……小さな埃だらけの部屋の中で俺は立っていた。

(ここ、アグレーの記憶のなか見た……俺の家の地下……)

 割れたコップ、砕かれた隕石……なにもかもが地面に転がり落ちていた。
 地面に横たわる鉄錆びの人形。その傍らには……すでに起動の止まった、未来へ託された筈の……棺。

 埃まみれの部屋は静寂さを保ち……天井の隙間から漏れ出た日の光が室内を照らしていた。 その中で、たった一つ……時計の秒針だけが響いていた。







「――全てが、最初から終わっていたんだな」






 視界は、深い霧に包まれた。 ひどく重苦しい眠気が、瞼を強制的に下ろし――再び目をあけると、俺はもとの自分の部屋に寝っ転がっていた。

「な……俺の、部屋……!?」
「あーー!!蓮斗やっとおきた~~!!」
「は……!?明美……!?」

 いつの間にか……明美の膝の上で眠りこけていたようだ。俺は、ゆっくりと体を起こした。

 それと同時に、カタンと手に持っていたらしい何かが、床へ転がっていく音が聞こえた――明美は背筋を伸ばし「ん~~」と声を上げている。

「ゲームに連勝したからって、あんたがおきるまで膝枕するのは二度とごめんよ!!あー、足しびれた!!」
「明美……!明美ぃ~~!!うおおお~~!!」

 俺は勢いよくギュッと明美を抱き締める……全てが夢だったと、信じたかった。

「ちょちょ、苦しい、苦しいわ!!」
「明美~~!!ぐすっ……」
「なんで泣くのよ~~!!君ってば情緒不安定なの~~!?」

 どこかで聞いたようなセリフ――夢の中であった出来事を思い出しては、クスリと笑う……ふと、さっき床に転がった何かに目を向けた。
 
 そこには、作りかけの小さなロボットが一つ、ぽつんと床に転がっていた。

「ロボット……?」
「へへ、忘れちゃった?一緒に作ったじゃんロボット!ほら、こっちがゼロワンちゃん、こっちがアグレー君」

 見た目こそ、彼らとは全く違った物だったが……既に知っていた名前に俺は再び、広角を上げた。

「ただいま……ゼロワン……アグレーも……それじゃあ、俺たちの新しい物語を始めようか」
「ふふっ……急にどうしたの?」

 小さなロボットは喋らないし、動きもしない……それでもこの時、俺の大切な友人となった。

「いや……な……長い夢を見ていた気がするんだ。 お前はその頃、もう随分といい大人になっててさ」
「私も……蓮斗の家に来る前、同じ夢を見ていた気がする。 そこに存在する人たちは皆……アンドロイドでね」

 もしかしたら、明美と俺は同じ夢を見ていたのかもしれない。 胸の奥がこそばゆくて、そして少しだけ締め付けられる。

「うん……彼女達とは……もう、会えない……よな」
「そうだね、アグレー・・・が生まれなければ……ゼロツー・・・たちは生まれない……でも、同じ未来を繰り返すのは、勘弁だよね」

 窓際に置かれた電子時計は、日曜日のお昼時を表示していた。 ぽかぽかと暖かい陽気が、どうやら眠りを誘っていたようだ。

「そうだな、あれが……夢じゃなかったら、何だというんだよ?なぁ、明美……?」
「あっははは、そうだねぇ、ほんとにそう……でも、私知ってた。 蓮人が必ず助けに来てくれるって」
「はは……やめてくれよな恥ずかしい」

 俺は、笑いながらゆっくりと座り、明美の顔を見つめながら……そっと手を握りしめた。 彼女の頬が赤く染まって行くのを、この目にしっかりと焼きつけながら……照れる顔すら隠さずに、スッと真面目な顔をして、じーっと明美の瞳の奥を覗き込んだ。

「未来なんてどうなるか分からないけど、たった一つ……叶えられる事がある」
「な、なあに……改まって……?」
「今すぐには無理だけど……俺、頑張っていい所に就職するからさ。 将来は、俺とっ――結婚してください!!」

――言葉を放つと同時に……俺はギュッと目を閉じた。
 しばらくの沈黙が流れた。 気恥ずかしさに、チラリと明美の顔を覗き込んで見ると……彼女の顔は、泣いたような、笑ったような……とても素敵な笑顔で、俺の事を見ていた。 

「はいっ!!絶対……私をもらって下さい!!」

 指輪なんて、まだ用意していない。 それでも……俺の意思は固かった。 二人肩を並べて、照れた笑いをしながら……触れた指先を繋ぎ合わせた。

『私……本当に、知ってたんだ。 未来でずっと……待っていたから。 ねぇ……レント、様?』

「ん?なんか言った?」
「ん-ん、よろしくね旦那様!」
「よせやい!!」









――これは、未来を旅した俺たちの物語。 この先に待つ出来事は――誰にも知られる事無く。
 そして二度と同じ未来を繰り返さないために、俺は歩き続ける。





――愛する人が消えて行く未来の選択を、間違えないように。







『 そして輪廻は繰り返す。 』







 遥か未来を旅した、おれたちの粒子は、ありし場所へ消えて行き……記憶の果てへと沈んで行く。 


『望みを叶えてくれて、ありがとう……』


『君を……永遠に冷たい棺の中へ納めるわけにはいかないからね』


『さようなら、愛した人……。 もう一度……君の望んだ未来で待ってるね』


 花に包まれた、最愛の人は微笑んで……まるで新たな生命の源が、空から降って来たみたいだった。 石の欠片は、小さく砕かれ、破片となって――砂塵となっていった愛する人の輝きと共に、海の底へ散って行った。


 もうここには、おれしか居ない。


 枯れ落ちた命は大地へ帰り、そして新たな命を芽吹く――流れて落ちた星々は、無価値のまま……誰にも拾われずに消えていく事を願う。


……選ばれた人生、選ばれた未来。 すべてを消しても……この場所で今という現実を生きる。








「 ねぇ、君に “ココロ” は存在しているかい? 」










―― END ――
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