『魔女のお姫様 ~数百年の孤独を埋めるのは、私が育てた「世界一可愛い女王陛下」だけでした~』

額田ハル

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第一章:魔女と幼き姫の邂逅・育成編

第1話「予知夢」

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人里離れた地に、天を突くようにそびえ立つ塔がある。
そこに住まうのは、一人の魔女。

ドミナ・アルカーナ。

濡れたような艶を持つ紫色の長髪。陶器のように白い肌に映える、真紅の瞳。  
その見た目は二十歳そこそこだが、彼女はすでに数百年という時を生きている。  
一国を一人で滅ぼすことすら可能な、絶大な魔力を秘めた「最強の魔女」だ。

「ふぁあ」

塔の最上階。窓辺の寝椅子に寝そべり、ドミナは小さくあくびをした。  
退屈だった。数百年も生きていれば、大概のことは経験し、見飽きてしまう。  
指先で弄ぶのは、彼女の魔力の結晶とも言える大粒の紫水晶アメジスト
それは冷たい光を放つだけで、何の慰めにもならない。

「(人間は、今日も今日とて愚かな争いか)」

窓の外に広がる下界の景色を、真紅の瞳が見下ろす。魔法の力で視力を強化すれば、遠くの街で人間たちがせこせこと動き回っているのが見えた。

「奪い合い、いがみ合い、そしてすぐに死んでいく。実に下等」

ドミナにとって、人間は自分より遥かに劣る存在。  
興味の対象にすらならない、路傍ろぼうの石ころだ。

「それにしても……退屈だ」

昨日も、今日も、おそらく明日も。 
何も変わらない、永遠に続くかのような時間。 
最強の力は、彼女に敵対する者をなくし、同時に、耐え難い孤独と退屈をもたらしていた。

「何か、面白いことでも起きないものか」

誰に言うでもなく呟き、ドミナはゆっくりと瞳を閉じた。  
心地よい午後の日差しが、彼女をまどろみへと誘う。  
どうせ見る夢も、見飽きた過去の焼き増しか、あるいは無だ。 そう思っていた。

 ―――その時だった。

「…………?」

意識が落ちる寸前、鮮烈な『色』がドミナの脳裏を過った。  
まるで、手の中にある紫水晶が内側から輝きを放ったかのように、鮮やかな光景が広がる。

銀色。月光を溶かし込んだような、柔らかな銀色の髪。

瑠璃色。澄み切った空よりも深く、吸い込まれそうな瞳。

一人の少女の姿が、夢の中に現れた。 
幼くも見えるが、芯の強さを感じさせる顔立ち。  
彼女がドミナに向かって、ふわりと微笑んだ。

『―――さま』

声が聞こえる。何を言っているかはわからない。  
だが、その声は、ドミナの凍り付いた心の奥底を、優しく揺さぶった。

「っ……!」

ドミナは勢いよく目を開けた。  
心臓が、ドクン、ドクンと嫌なほど大きく脈打っている。  
数百年、忘れていた感覚だった。

「(なんだ……? 今の夢は)」

ただの夢だ。  
そう切り捨てようとするのに、脳裏にはあの銀髪と瑠璃色の瞳が焼き付いて離れない。

「(予知夢……か。それにしては、随分と鮮明だったな)」

ドミナはゆっくりと起き上がる。胸の高鳴りが収まらない。  
退屈で灰色だった世界に、突如として鮮やかな色彩が差し込まれたような感覚。

「あの少女…」

もう一度、夢の少女を思い出す。  
あの無垢な微笑み。

「私の『最愛の伴侶』…?」

なぜ、そんな言葉が浮かんだのか。わからない。だが、ドミナは直感していた。あの少女こそが、自分の永遠の孤独を終わらせる存在なのだと。

「(人間など下等な存在。そう思っていたが……)」

ドミナは窓辺に立ち、再び下界を見下ろす。  
さっきまではゴミ溜めにしか見えなかった世界が、少し違って見えた。

「ほう。面白い」

真紅の瞳が、妖しい光を宿す。口元には、数百年ぶりに浮かべたであろう、楽しそうな笑みが刻まれていた。退屈は、もう終わりだ。

「見つけに行くとしよう」

ドミナは紫色の髪をかきあげ、高らかに宣言した。

「私の『お姫様』を」

最強の魔女が、数百年ぶりに、自らの意志で塔を出る。  
すべては、まだ見ぬ運命の少女を手に入れるために。
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