釣った魚、逃した魚

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#60 甘い話と苦い話 ※

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 口づけは何度か角度を変えて繰り返すうちに、次第に深くなっていく。

最初は神子様の気まぐれだと思って遠慮していた俺だったが、段々に官能的になってくる吸いあいに、息づかいも荒くなり、それに呼応するように掌が神子様の体を弄り始める。それでも、肝心なところを攻めたりはしない。
何しろ昼下がりの屋外なのだから。

だが、そんな俺の気遣いも空しく、神子様がグッと思いがけない強い力で、乗り上げながら俺の体を押してきて、俺は仰向けに倒された。

神子様は自身の服をすこし寛げてから、俺のズボンの前部分を解き始める。
思わずぎょっとして、とっさに神子様の手を止める。
だが、明らかに俺を刺激するように体を擦り付けながら、熱い吐息で囁かれた。
「ずっと忙しくて、してあげられなかったね。大丈夫だった?辛かっただろ?」

実のところ、やはり神子様をずっと抱き込んで密着し続けていたことで、俺の下半身はほんの少し反応しかけていたのだ。
それは確かに、ずっと濃厚な触れ合いができなかったせいもあるかも知れない。
それを感じ取って、そう気遣ってくれたのだと思う。

「いえ、大丈夫です。こ、こんな所で…その、していただかなくても…」
「外ってのが気になる?でも、ここ、気持ちいいよね。森の匂いとか、水の音とか…鳥の声とか」
そう言いながら俺のズボンに手を入れてくる。
「無理しなくて良いよ。ホラ、ちょっと触っただけでもうこんなになってる」
「い、家まで…ガマンできますから…うぁっ」
やわやわと弄られていたのが、急に強く握られて思わず声が出た。
木漏れ日を背に神子様が俺を見下ろしていた。
黒髪が揺れる。
遠くでも近くでも絶え間無しに鳥の囀りや羽ばたきの音が聴こえていた。

だが。
次第にそれらの音が消えて、互いの吐息と神子様の甘い鳴き声と、肌がぶつかる音、粘膜の発する水音に替わる。
屋外である背徳感もあってか、お互い、乱れ方がどこか普通じゃ無かった。

2度目に達して、気がつくと、日が傾いていた。すっかり影となった木々の隙間から、巣に戻るコウモリ達の、黒い蝶のようなはためきが見えた。
森の中はほんの少し日が傾いただけで蔭りが濃くなる。
うっすらと肌寒くもなったから、多少の興奮は残っていたものの、さすがにそれ以上は無理だと判断して神子様の服を着せ始めた。

神子様はぐったりしながらも、時折快楽の余波が押し寄せてくるようで、息を整えている途中なのに、何度か小刻みなこわばりと共に甘い声を漏らした。
目尻から耳や首、胸元まで色づいて、唇もいつもより紅くて、その姿でそんな反応されると俺はまた熱が上がりそうで自制に努力が要った。

神子様の回復を待って、転移で一旦自宅に戻る。
本当は一度姉と義兄に挨拶してから戻る予定だったけれど、事後の神子様があまりに妖しくて、とても会わせられないと判断した。

帰宅したあとは、普通に食事を摂り、風呂に入った。
俺の入浴中に、どうやらお妃様達やお子様達の行方を捜していてくれたらしく、リビングに戻ったとき神子様は少し沈んでいた。

殆どの側妃様達は、王妃様が幽閉されていた塔の別室に振り分けられ収監されているらしい。
「俺が以前、王妃様の元に現れたのを知って、結構強力な魔法避けの魔道具を設置されていたみたいで、少し様子を伺うのに手間がかかったよ。
元々、王城に幽体離脱で入り込んだのは、君がお妃様やお子様達のこと気にしていたからだったのに、あの時は弾劾裁判しか確認しなかったからね。
…まあ、でも、あまり良い情報を持って帰れなくてゴメン…」

彼女達のこの先。
王妃様は彼女が産んだ王子と共に、国王と連座で処刑されるらしい。

王妃の実家…父親や兄は、彼女が廃妃になる不名誉を被りたくなくて、反乱軍側につき、クーデターを急がせたにもかかわらず、救うことが叶わなかったようだ。
本来ならば、実家の公爵家も連座だろうが、莫大な保釈金と三階級降爵、没落貴族として過疎地の領地に飛ばされることで、辛うじて一族の存続を得られることになった。

但し、親族である宰相家は、王妃を通じて後宮で神子様を冷遇させた事も含め、基本的に国政に疎い国王を操って、貴族院で己の手駒となる貴族のみを重鎮とし、共に私腹を肥やし、失政を重ねさせたという大罪で、本人及び贅沢の限りを尽くした愛妾達は連座で処刑。家はお取り潰しだ。
因みに宰相の妻は数年前に他界している。家督を継いだ長男だけ連座で処刑。次男三男は鉱山送り。

宰相と連んでいた重鎮の高位貴族達もほぼ同じような刑に決まった。

その重鎮のひとりを父に持つ第二妃は、今回の弾劾裁判でもかなり厳しく追及されていた。
他と比べても際だって、民を苦しめた高位貴族の血筋であると言うことから、彼女も連座の憂き目に遭うことに決まった。
あと古株の、王妃との成婚前からの側妃であるエイダ妃も連座が決まったとのこと。

ヘルミーネ妃は、常から神殿と懇ろで寄進を欠かさず、毎週のように孤児や無職者への施し、職の斡旋などの組織を運営というような徳を積んできていたことで、国王の御子の生母ではあるが、領地館に蟄居という軽い処罰で済む事になった。
実家も1階級降爵程度だ。実家は更に神殿と懇ろなせいもあるかも知れない。
何しろこの一族は元々、三男以下の男子はよほど武芸に長じて騎士団入り出来る者以外は、殆どが神殿入りしている。伝統的に治癒魔法を得意とする一族だからだろう。
元々神殿とのバランスのために輿入れしてきた立場だった。

それ以下の側妃達は、基本的に修道院行き。
いずれ劣らぬ美女揃いだから、今回のクーデターで活躍が認められた騎士や戦闘員からの希望があれば、下賜される者も居る。

彼女達は、貴族令嬢として実家の政治的なコマに過ぎない。
本人達の意思では無く、あくまで政略で輿入れしただけなのに、命まで奪うのは…と、神子様は大分懊悩していらした。
女性や子供が処刑されるのは辛いようだった。
そして、それは、ご自分が逃走したことで巻き込んでしまったのだと責任を感じても居たようだ。

「違いますよ。神子様のせいではありません」
苦しげな神子様の黒い瞳が俺を見上げた。
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