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第三章
#53 ピンクのお薬
本来は王子達の部屋だったところに腰を落ち着け、俺は旅装を解いた。
確認したら、先ほどの部屋ほど立派では無いが一応風呂場も付いている。
一応中に入って鏡を見て自分のひげの状態なんかを見つつアメニティを確認していたら「湯浴みをなさいますか?」と先ほどの見習い青年クリオンさんがジャケットを脱ぐのを手伝ってくれながら訊いてきた。
「そうですね。ああ、もう大丈夫ですよ。あとは自分で出来ますから」
仄かに良い香りが漂って、サロンテーブルにお茶が用意されていることに気づく。
俺が風呂場を見に行ったりしていた間に入れてくれたらしい。
俺は襟元を緩めながらアンティークな猫足の椅子に座り一旦ソーサーを持ち上げて香りだけ吸い込んだ。
掌に隠してデュシコス様が貸してくれたガラス棒を軽く漬けてみると、予想通りというか何というか・・・ピンク色に変わった。
「クリオンさん」
「どうぞ、クリオンと呼び捨てで。何かご要望が?」
「服を脱いで」
一瞬目を見開いたけど、どっかり腰を下ろした俺がチュニックのボタンを外しながら微笑みかけると、薄らと頬を染めて誘うように目を細めタイをスルリと抜き取り、ジャケット、ベスト・・・と足下に落としていった。
スラックスの前ボタンを外しかけたところで俺は立ち上がりその手を止めた。
足下の服をパサパサと揺する。どこかのポケットからコトリと小瓶と銀色の輪が落ちた。
青年はハッと顔色を変えてそれを拾おうと手を伸ばすが一足先に俺の手に掬われる。
奪い取ろうと伸ばされた腕を掴んで引き寄せ、後ろからホールドする。
「これは何?これで俺をどうする気だった?」
絶句したまま応えない美青年の腕を乱暴に引っ張って長椅子にうつぶせに押さえ込み、顎を強く掴んでその口元に小瓶の口を近づけた。
「言いたくないならそれでも構わない。この薬の効能を自分で試してみる?」
青年はキツく口を引き結んだ。少し顎を掴む手に力を入れる。薄らと彼の唇が開いて深い緑の瞳が恐怖の色をたたえて涙をこぼした。その耳元に口を寄せて俺は囁いた。
「話す気になった?」
顎を掴んでいる手に彼の頷きが伝わってきた。
「そう。あなたは賢いひとだ」
俺はほくそ笑んでそう囁いたあと顎を解放してあげた。彼はそのまま脱力し押さえつけられていたソファのクッションに額を埋めて呼吸を整えていたが、膝で押さえ込まれていた腰も解放して欲しいと目で訴えてきた。
「残念ながらそれはできないな。まだあなたを信用していない。まあ、そのまま答えてくれ」
「痛いんですけど・・・」
哀れっぽく懇願するが「それは仕方が無いね」と流すと舌打ちをされた。
「小瓶の方は中身が何かはほとんど分かってる。問題はこっちの輪っかの方だな。これは何?」
「それは・・・」言いよどむ美青年の腰を押さえ込んでいる膝にちょっと力を入れる。ウッと呻って仰け反る。素肌の背中が汗ばむ。それを掌で押しつけながら「どう使うのかなあ?大きさから言うとブレスレット?くらいだよね。ほら」
そう言って彼の腕を掴みその腕に通そうとすると「やめてッ!やめてくださいッ!!」と悲鳴を上げて、掴んだ俺の手を振りほどこうと抵抗した。無論そんな程度の力では俺の手は振りほどけないが。
「なに?どうしたの?やっぱりブレスレットなの?何か呪いでもかかってるの?」
嫌がる彼の腕を思い切り伸ばしきってその指先から輪っかを通そうとすると「言います!言いますからぁッ!!」と泣きながら叫んでもう片方の手で必死に俺を止めようともがいた。
「隷属アイテム?」
それを腕に通すとちょうど良い太さで締まる。肉に食い込むほどでは無いが手首からは外れなくなる。
本格的な隷属アイテムとしては首輪が主流らしいが、この国ではそれの売買譲渡は違法であるらしく、奴隷売買と同様厳しく取り締まられている。
比較的手に入りやすいのがこの簡易的なブレスレットやアンクレットらしい。
逆にこれは問題行動のある使用人や軽い罪人に奉仕活動をさせる際、トラブルを起こさないよう上手に使うアイテムとして合法とされている。
「俺があなたに装着するとあなたは俺の奴隷になるの?それとも既にご主人様になる人は先にこのアイテムに設定されているの?」
「か、簡易的な物なので、・・・装着した方に隷属することになります」
「解除は出来るの?」
「装着するときに主の体液に・・・唾液とか血液とか・・・多少効力は劣りますが汗でも有効らしいとも・・・に、わずかでも触れれば・・・。同じ人の体液を使って『解除』と詠唱すれば・・・」
「へえ、なるほど・・・。俺、手汗多い方だからそれだけでヤバかったかもね」
剣道男子ってけっこう手汗多いひと率が高いんだよなあ。
それでなくても、抵抗するのを威嚇で恫喝しながらとかだと唾が飛沫になって付着するかも知れないし、それこそ抵抗するのをもみ合って怪我して血が付いて・・・って状況もあるよね。
そう考えるとこのアイテム面白いけど物騒だな。
そもそも輪っかがあったらはめてみたくなるのが人情だから危ないわ。腕とか指とかね。
ちょっとこれは預かっておこう。
「ありがとう。もういいよ」
クリオン青年を押さえ込んでいた膝を外して起こしてあげた。床に落ちていた服を拾って、ホラ着て、と座っている膝に落としてあげる。
俯いておもむろにシャツに袖を通して着込んでいくクリオン青年。きっとここで俺を籠絡して隷属させるまでがこの人のミッションだったんだろうね。
果たせなくて可哀想だが仕方が無い。
しかし俺を籠絡するために送り込まれたのが普通に男というのが・・・。
まあ、王子の“恋人”という情報は既に敵に知られているんだろうから、向こうさんにしてみたら女性よりも男性を差し向けた方が確実と思うよな。いやまあ多分そうなんだけど。
ここまで来たらもはや自覚せざるを得ないけど、多分俺の性嗜好はそっちだ。
いままであの女のせいで女性が苦手になったと思っていたけど、持って生まれた性嗜好がコレだったんだな。いやぁ、ずっとアンタの所為にしててゴメン、えみこ。お前に罪が無いとは思わないけどな。
「きっとご主人様に叱られちゃうね。ゴメンね」
じゃあ、と手でドアを指し示して退室を促す。だが、彼は大変腰が重いようだ。椅子に腰掛けたまま立ち上がろうとしない。
「どうした?腰痛くしちゃったか?大丈夫?」
近づいて手を貸そうとしてハッとした。青年の股間が膨らんでいるのだ。
「あれ?さっき脅しで小瓶を口に付けたときにちびっと入っちゃった?」
青年は耳まで赤くしながら、イイエと答えたが、意を決したようにいきなり立ち上がりざま俺に抱きついて唇を奪わんと震い付いてきた。
えっ、なに?アイテム失ったからやけくそでもろに物理で襲おうって事か?
思わず俺は手首を掴んで引き剥がして「いや、コレがあなたのミッションだってのは分かるけども!」と叱責するように言うと「あなた様のせいでこうなったのです!どうかお情けを!」と緑の瞳に涙を浮かべて懇願してくる。
俺のせい?まあさっきまでは平常だったのが今そうなっているんだから、その間きっかけになり得るのは俺しか居ないかもな。・・・あ、もしや・・・!
さっき膝で踏ん潰していたアレ?ああいう乱暴な扱いされると燃えちゃうタイプ?
「へぇ・・・」
試しに掴んだ腕をキツく握りしめながら乱暴に揺さぶって長椅子に叩きつけた。
倒れ込んだときには、うわっと声を上げたが、そのあと痕が付いてしまった手首や、投げ出された際にしたたか打った肩と腕を痛そうに撫でている。
だが、痛そうではあるのに、上気して目尻や耳を赤く染めて熱を帯びた目で睨んできて、微妙に息は上がっている。赤く濡れた唇はうっすらと口角が上がっている。
うん。ちょっとエロい気がする。そのとき俺はふと思いついた。
「ちょっと待って」
ドアを開けて次ぎの間を覗くが誰も居ない。更に廊下へのドアを開けるとやっぱり見張りの騎士が居た。
手招きをして騎士を呼ぶ。
何事かと寄ってくる騎士に「クリオンさんがちょっと具合悪いみたいで」と告げると部屋に駆け込んできた。
騎士は、いわゆる全身金属の甲冑ではなく。
白地にゲンデソル家のエンブレムが縫い込んであるサーコートの上にくすんだ赤のローブを羽織り、頭部は頭頂だけ覆った鉢型兜とその下から耳や首回りを覆っている鎖しころが垂れているという物で完全に金属の甲冑で覆われているよりは動きや視界の制限が少なそうだ。サーコートに赤いローブってちょっとカッコいいなと思った。すごく中世っぽい。
長椅子でうずくまって肩を押さえているクリオン青年を見つけた見張りの騎士は、「どうした?」と驚いて一歩踏み込んだところで俺は「ゴメン」と謝りながら背後から蹴った。
騎士がつんのめって膝をついたところを後ろから首をスリーパーホールドで固めて素早く彼の口に例の小瓶を咥えさせ一口分だけ中身を流し込んでから解放した。
少し残ったから残りはクリオン君に飲ませてあげた。ちょっと抵抗されたけど、屈強な騎士よりは全く簡単だった。
そのあとクリオン君をベッドに引きずっていくと見張りの騎士が「貴様、何を・・・!」と俺に掴みかかってきたから身を躱して後ろに回り装着しているバシネットとカマイユを毟り取ってからクリオン君くんの上に突き飛ばし、足で踏んで上から押しつけた。
「クリオンさんが辛そうなので介抱してあげてください」
「貴様!どういうつもりだ!クリオン、大丈夫か?放せッ」
「そう言わないで介抱してあげてください。明日クリオンさんはご主人に叱られてしまうんですよ、このままだと。だから、あなたがここでクリオンさんの為にここのシーツを汚してあげてください。俺が汚したことにしていいですから」
クリオン君の上に覆い被さった状態から起き上がろうとするのを俺が後ろから押さえ込みつつ二人の体を重ねたままベッドに縫い付けた。
最初は二人とももがいて逃れようとしていたが、逆にその動きが刺激になったらしく、もともと元気になりかけていたクリオンさんは、押しつぶされる苦痛もヨカッタのか良い感じに息使いが荒くなってきた。
対する見張りの騎士さんも薬が効き始めたのかそれともクリオン君のお色気にヤラれたのか「クリオン、大丈夫か・・・クリオン・・・」と呼ぶ声がだんだんと甘くなってきた。
うん。そろそろ良いんじゃ無いかと思い、俺はそっと部屋を出た。
最初に俺にあてがわれた部屋から王子達と交換した部屋の移動で、途中ちょっとざわついていた上階エリアがあって、そこが先輩達の通された部屋だろうなと目星は付いていた。
スタスタと迷うこと無く上っていって適当な部屋をノックする。
内側から開けてくれたのはアロンさんだった。
「何だお前、どうした?」
「おっ、ダイ、何だ?オルタンスなら隣だぞ。ソニスたんはヨルントと奥から三番目だ」
中からビルオッドさんも声をかけてくる。
見ると四人部屋になっている。客室と言うよりは比較的格上目の使用人部屋という感じだ。それでもこざっぱりして綺麗だが。
礼を言ってからオルタンスさんが居るという隣の部屋に行ってみた。
団長とオルタンスさんが四人部屋を二人で使っているもよう。
「どうした、こんな時間に。何かあったのか?」
「入って説明させてもらって良いですか?」
「おう、入れ入れ。何だ?」
いいな、この感じ。落ち着く。俺一人で通された部屋よりよほどくつろげる。
「俺、今夜ここで寝させてもらって良いですか?」
と訊くと「良いけど」とすんなり。
いきさつを話そうとしたら団長に中央から魔石通信が届いた。それならと、先に風呂に行かせてもらった。
風呂は一旦廊下に出る共同タイプの物だ。湯船も置き型の物で小さい。俺はまだ大丈夫だけど団長とか巨漢が入るのはきつそうだった。それでもやはり1日の汗と汚れを落とすと疲れも流れていくようでさっぱりする。
風呂から上がったときちょうど団長の用事も済んだところだったらしく、俺は髪を拭きながら、一人豪華な部屋に案内されたところから、さっきクリオン君相手におきた諸々を語った。
団長は爆笑し、オルタンスさんも「ホントにお前って」と、肩をふるわせていた。
そうだ、と、俺が懐から細い銀の隷属アイテムを取り出すと二人はそれをまじまじと観察し、参考のためにいただいていくことにした。
「え、勝手にもらっちゃっても良いんでしょうか」
「それはお前、別れ際にお礼を言えば良いんじゃねえ?『素敵なプレゼントまでいただいちゃってありがとーございますぅー』とか言っとけよ」
団長は悪い顔で笑った。そっか。ワカリマシタ。そうします!
団長とオルタンスさんの部屋で俺は朝まで爆睡しそこそこ早めに目を覚ました。
二人が目覚めていないうちに洗面と身支度を済ませ、夕べ美青年と見張りの騎士を置いてきた部屋に向かう。
あたかも俺がクリオン君をありがたくいただきましたという体を装えば、隷属アイテムを装着することには失敗しても、そこまでこっぴどくは叱られなくてすむだろうと思ったのだ。
だが。
部屋のドアを開けたら、否、開けかけたら室内から激しい情交の声やら音やらが聞こえてきた。
俺はそっ閉じした。
あいつらあの後からずっとやりまくっていたって事?
怖え、あの薬の効果だとしたらまじでヤバかったんだなと恐れおののいた。
デュシコス様から渡されたあのアイテムのおかげで命拾いしたわ。
俺は両手の指を組んで、その場に居ないデュシコス様を拝んだ。
朝食を済ませた後、我々はゲンデソル城を後にした。
領主弟は連泊させようとしていたのだが、王子は「市街地の視察も我々の任務のひとつですので」と固辞した上で、一宿一飯の感謝の言葉を述べゲンデソル伯爵家と領の繁栄を祝福する言葉を残して出立した。
そうそう。
見送りに出た使用人達の中から夕べの見張りの騎士が俺の馬に駆け寄って、頬を染めながら俺に感謝の言葉をかけてくれた。
実は彼は前々からクリオン君に惹かれていたらしいんだ。
うんうん。良かったな。お幸せに~。
ふふ。俺って恋のキューピットってヤツじゃねえ?
確認したら、先ほどの部屋ほど立派では無いが一応風呂場も付いている。
一応中に入って鏡を見て自分のひげの状態なんかを見つつアメニティを確認していたら「湯浴みをなさいますか?」と先ほどの見習い青年クリオンさんがジャケットを脱ぐのを手伝ってくれながら訊いてきた。
「そうですね。ああ、もう大丈夫ですよ。あとは自分で出来ますから」
仄かに良い香りが漂って、サロンテーブルにお茶が用意されていることに気づく。
俺が風呂場を見に行ったりしていた間に入れてくれたらしい。
俺は襟元を緩めながらアンティークな猫足の椅子に座り一旦ソーサーを持ち上げて香りだけ吸い込んだ。
掌に隠してデュシコス様が貸してくれたガラス棒を軽く漬けてみると、予想通りというか何というか・・・ピンク色に変わった。
「クリオンさん」
「どうぞ、クリオンと呼び捨てで。何かご要望が?」
「服を脱いで」
一瞬目を見開いたけど、どっかり腰を下ろした俺がチュニックのボタンを外しながら微笑みかけると、薄らと頬を染めて誘うように目を細めタイをスルリと抜き取り、ジャケット、ベスト・・・と足下に落としていった。
スラックスの前ボタンを外しかけたところで俺は立ち上がりその手を止めた。
足下の服をパサパサと揺する。どこかのポケットからコトリと小瓶と銀色の輪が落ちた。
青年はハッと顔色を変えてそれを拾おうと手を伸ばすが一足先に俺の手に掬われる。
奪い取ろうと伸ばされた腕を掴んで引き寄せ、後ろからホールドする。
「これは何?これで俺をどうする気だった?」
絶句したまま応えない美青年の腕を乱暴に引っ張って長椅子にうつぶせに押さえ込み、顎を強く掴んでその口元に小瓶の口を近づけた。
「言いたくないならそれでも構わない。この薬の効能を自分で試してみる?」
青年はキツく口を引き結んだ。少し顎を掴む手に力を入れる。薄らと彼の唇が開いて深い緑の瞳が恐怖の色をたたえて涙をこぼした。その耳元に口を寄せて俺は囁いた。
「話す気になった?」
顎を掴んでいる手に彼の頷きが伝わってきた。
「そう。あなたは賢いひとだ」
俺はほくそ笑んでそう囁いたあと顎を解放してあげた。彼はそのまま脱力し押さえつけられていたソファのクッションに額を埋めて呼吸を整えていたが、膝で押さえ込まれていた腰も解放して欲しいと目で訴えてきた。
「残念ながらそれはできないな。まだあなたを信用していない。まあ、そのまま答えてくれ」
「痛いんですけど・・・」
哀れっぽく懇願するが「それは仕方が無いね」と流すと舌打ちをされた。
「小瓶の方は中身が何かはほとんど分かってる。問題はこっちの輪っかの方だな。これは何?」
「それは・・・」言いよどむ美青年の腰を押さえ込んでいる膝にちょっと力を入れる。ウッと呻って仰け反る。素肌の背中が汗ばむ。それを掌で押しつけながら「どう使うのかなあ?大きさから言うとブレスレット?くらいだよね。ほら」
そう言って彼の腕を掴みその腕に通そうとすると「やめてッ!やめてくださいッ!!」と悲鳴を上げて、掴んだ俺の手を振りほどこうと抵抗した。無論そんな程度の力では俺の手は振りほどけないが。
「なに?どうしたの?やっぱりブレスレットなの?何か呪いでもかかってるの?」
嫌がる彼の腕を思い切り伸ばしきってその指先から輪っかを通そうとすると「言います!言いますからぁッ!!」と泣きながら叫んでもう片方の手で必死に俺を止めようともがいた。
「隷属アイテム?」
それを腕に通すとちょうど良い太さで締まる。肉に食い込むほどでは無いが手首からは外れなくなる。
本格的な隷属アイテムとしては首輪が主流らしいが、この国ではそれの売買譲渡は違法であるらしく、奴隷売買と同様厳しく取り締まられている。
比較的手に入りやすいのがこの簡易的なブレスレットやアンクレットらしい。
逆にこれは問題行動のある使用人や軽い罪人に奉仕活動をさせる際、トラブルを起こさないよう上手に使うアイテムとして合法とされている。
「俺があなたに装着するとあなたは俺の奴隷になるの?それとも既にご主人様になる人は先にこのアイテムに設定されているの?」
「か、簡易的な物なので、・・・装着した方に隷属することになります」
「解除は出来るの?」
「装着するときに主の体液に・・・唾液とか血液とか・・・多少効力は劣りますが汗でも有効らしいとも・・・に、わずかでも触れれば・・・。同じ人の体液を使って『解除』と詠唱すれば・・・」
「へえ、なるほど・・・。俺、手汗多い方だからそれだけでヤバかったかもね」
剣道男子ってけっこう手汗多いひと率が高いんだよなあ。
それでなくても、抵抗するのを威嚇で恫喝しながらとかだと唾が飛沫になって付着するかも知れないし、それこそ抵抗するのをもみ合って怪我して血が付いて・・・って状況もあるよね。
そう考えるとこのアイテム面白いけど物騒だな。
そもそも輪っかがあったらはめてみたくなるのが人情だから危ないわ。腕とか指とかね。
ちょっとこれは預かっておこう。
「ありがとう。もういいよ」
クリオン青年を押さえ込んでいた膝を外して起こしてあげた。床に落ちていた服を拾って、ホラ着て、と座っている膝に落としてあげる。
俯いておもむろにシャツに袖を通して着込んでいくクリオン青年。きっとここで俺を籠絡して隷属させるまでがこの人のミッションだったんだろうね。
果たせなくて可哀想だが仕方が無い。
しかし俺を籠絡するために送り込まれたのが普通に男というのが・・・。
まあ、王子の“恋人”という情報は既に敵に知られているんだろうから、向こうさんにしてみたら女性よりも男性を差し向けた方が確実と思うよな。いやまあ多分そうなんだけど。
ここまで来たらもはや自覚せざるを得ないけど、多分俺の性嗜好はそっちだ。
いままであの女のせいで女性が苦手になったと思っていたけど、持って生まれた性嗜好がコレだったんだな。いやぁ、ずっとアンタの所為にしててゴメン、えみこ。お前に罪が無いとは思わないけどな。
「きっとご主人様に叱られちゃうね。ゴメンね」
じゃあ、と手でドアを指し示して退室を促す。だが、彼は大変腰が重いようだ。椅子に腰掛けたまま立ち上がろうとしない。
「どうした?腰痛くしちゃったか?大丈夫?」
近づいて手を貸そうとしてハッとした。青年の股間が膨らんでいるのだ。
「あれ?さっき脅しで小瓶を口に付けたときにちびっと入っちゃった?」
青年は耳まで赤くしながら、イイエと答えたが、意を決したようにいきなり立ち上がりざま俺に抱きついて唇を奪わんと震い付いてきた。
えっ、なに?アイテム失ったからやけくそでもろに物理で襲おうって事か?
思わず俺は手首を掴んで引き剥がして「いや、コレがあなたのミッションだってのは分かるけども!」と叱責するように言うと「あなた様のせいでこうなったのです!どうかお情けを!」と緑の瞳に涙を浮かべて懇願してくる。
俺のせい?まあさっきまでは平常だったのが今そうなっているんだから、その間きっかけになり得るのは俺しか居ないかもな。・・・あ、もしや・・・!
さっき膝で踏ん潰していたアレ?ああいう乱暴な扱いされると燃えちゃうタイプ?
「へぇ・・・」
試しに掴んだ腕をキツく握りしめながら乱暴に揺さぶって長椅子に叩きつけた。
倒れ込んだときには、うわっと声を上げたが、そのあと痕が付いてしまった手首や、投げ出された際にしたたか打った肩と腕を痛そうに撫でている。
だが、痛そうではあるのに、上気して目尻や耳を赤く染めて熱を帯びた目で睨んできて、微妙に息は上がっている。赤く濡れた唇はうっすらと口角が上がっている。
うん。ちょっとエロい気がする。そのとき俺はふと思いついた。
「ちょっと待って」
ドアを開けて次ぎの間を覗くが誰も居ない。更に廊下へのドアを開けるとやっぱり見張りの騎士が居た。
手招きをして騎士を呼ぶ。
何事かと寄ってくる騎士に「クリオンさんがちょっと具合悪いみたいで」と告げると部屋に駆け込んできた。
騎士は、いわゆる全身金属の甲冑ではなく。
白地にゲンデソル家のエンブレムが縫い込んであるサーコートの上にくすんだ赤のローブを羽織り、頭部は頭頂だけ覆った鉢型兜とその下から耳や首回りを覆っている鎖しころが垂れているという物で完全に金属の甲冑で覆われているよりは動きや視界の制限が少なそうだ。サーコートに赤いローブってちょっとカッコいいなと思った。すごく中世っぽい。
長椅子でうずくまって肩を押さえているクリオン青年を見つけた見張りの騎士は、「どうした?」と驚いて一歩踏み込んだところで俺は「ゴメン」と謝りながら背後から蹴った。
騎士がつんのめって膝をついたところを後ろから首をスリーパーホールドで固めて素早く彼の口に例の小瓶を咥えさせ一口分だけ中身を流し込んでから解放した。
少し残ったから残りはクリオン君に飲ませてあげた。ちょっと抵抗されたけど、屈強な騎士よりは全く簡単だった。
そのあとクリオン君をベッドに引きずっていくと見張りの騎士が「貴様、何を・・・!」と俺に掴みかかってきたから身を躱して後ろに回り装着しているバシネットとカマイユを毟り取ってからクリオン君くんの上に突き飛ばし、足で踏んで上から押しつけた。
「クリオンさんが辛そうなので介抱してあげてください」
「貴様!どういうつもりだ!クリオン、大丈夫か?放せッ」
「そう言わないで介抱してあげてください。明日クリオンさんはご主人に叱られてしまうんですよ、このままだと。だから、あなたがここでクリオンさんの為にここのシーツを汚してあげてください。俺が汚したことにしていいですから」
クリオン君の上に覆い被さった状態から起き上がろうとするのを俺が後ろから押さえ込みつつ二人の体を重ねたままベッドに縫い付けた。
最初は二人とももがいて逃れようとしていたが、逆にその動きが刺激になったらしく、もともと元気になりかけていたクリオンさんは、押しつぶされる苦痛もヨカッタのか良い感じに息使いが荒くなってきた。
対する見張りの騎士さんも薬が効き始めたのかそれともクリオン君のお色気にヤラれたのか「クリオン、大丈夫か・・・クリオン・・・」と呼ぶ声がだんだんと甘くなってきた。
うん。そろそろ良いんじゃ無いかと思い、俺はそっと部屋を出た。
最初に俺にあてがわれた部屋から王子達と交換した部屋の移動で、途中ちょっとざわついていた上階エリアがあって、そこが先輩達の通された部屋だろうなと目星は付いていた。
スタスタと迷うこと無く上っていって適当な部屋をノックする。
内側から開けてくれたのはアロンさんだった。
「何だお前、どうした?」
「おっ、ダイ、何だ?オルタンスなら隣だぞ。ソニスたんはヨルントと奥から三番目だ」
中からビルオッドさんも声をかけてくる。
見ると四人部屋になっている。客室と言うよりは比較的格上目の使用人部屋という感じだ。それでもこざっぱりして綺麗だが。
礼を言ってからオルタンスさんが居るという隣の部屋に行ってみた。
団長とオルタンスさんが四人部屋を二人で使っているもよう。
「どうした、こんな時間に。何かあったのか?」
「入って説明させてもらって良いですか?」
「おう、入れ入れ。何だ?」
いいな、この感じ。落ち着く。俺一人で通された部屋よりよほどくつろげる。
「俺、今夜ここで寝させてもらって良いですか?」
と訊くと「良いけど」とすんなり。
いきさつを話そうとしたら団長に中央から魔石通信が届いた。それならと、先に風呂に行かせてもらった。
風呂は一旦廊下に出る共同タイプの物だ。湯船も置き型の物で小さい。俺はまだ大丈夫だけど団長とか巨漢が入るのはきつそうだった。それでもやはり1日の汗と汚れを落とすと疲れも流れていくようでさっぱりする。
風呂から上がったときちょうど団長の用事も済んだところだったらしく、俺は髪を拭きながら、一人豪華な部屋に案内されたところから、さっきクリオン君相手におきた諸々を語った。
団長は爆笑し、オルタンスさんも「ホントにお前って」と、肩をふるわせていた。
そうだ、と、俺が懐から細い銀の隷属アイテムを取り出すと二人はそれをまじまじと観察し、参考のためにいただいていくことにした。
「え、勝手にもらっちゃっても良いんでしょうか」
「それはお前、別れ際にお礼を言えば良いんじゃねえ?『素敵なプレゼントまでいただいちゃってありがとーございますぅー』とか言っとけよ」
団長は悪い顔で笑った。そっか。ワカリマシタ。そうします!
団長とオルタンスさんの部屋で俺は朝まで爆睡しそこそこ早めに目を覚ました。
二人が目覚めていないうちに洗面と身支度を済ませ、夕べ美青年と見張りの騎士を置いてきた部屋に向かう。
あたかも俺がクリオン君をありがたくいただきましたという体を装えば、隷属アイテムを装着することには失敗しても、そこまでこっぴどくは叱られなくてすむだろうと思ったのだ。
だが。
部屋のドアを開けたら、否、開けかけたら室内から激しい情交の声やら音やらが聞こえてきた。
俺はそっ閉じした。
あいつらあの後からずっとやりまくっていたって事?
怖え、あの薬の効果だとしたらまじでヤバかったんだなと恐れおののいた。
デュシコス様から渡されたあのアイテムのおかげで命拾いしたわ。
俺は両手の指を組んで、その場に居ないデュシコス様を拝んだ。
朝食を済ませた後、我々はゲンデソル城を後にした。
領主弟は連泊させようとしていたのだが、王子は「市街地の視察も我々の任務のひとつですので」と固辞した上で、一宿一飯の感謝の言葉を述べゲンデソル伯爵家と領の繁栄を祝福する言葉を残して出立した。
そうそう。
見送りに出た使用人達の中から夕べの見張りの騎士が俺の馬に駆け寄って、頬を染めながら俺に感謝の言葉をかけてくれた。
実は彼は前々からクリオン君に惹かれていたらしいんだ。
うんうん。良かったな。お幸せに~。
ふふ。俺って恋のキューピットってヤツじゃねえ?
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―――
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