俎上の魚は水を得る

円玉

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#009 まさかの方々

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翌日も朝から、謁見の間で何組かの使者に対応した。

そして、午後に入って最初の使者は「異世界人保護機構」からの3人だった。
驚いた。
その3人のうちの二人の容貌が、明らかに日本人だったからだ。

「センゲン・ツカサと申します。以後お見知りおきを」
「サカキ・カンタと申します。お目にかかれて光栄です」
「エリオット・エンゲルトと申します。お見知りおきくださいませ」

仙元司さんと言えば!
俺は思わず、高座の上の椅子から立ち上がった!
「5代目さん…ですか?」
「ご明察にございます」

高座の階段を駆け下りる俺の到着を待たず腰を沈めて文官礼をする仙元さん。

「そして、あなたは7代目さんですね。榊さん」
榊さんはにっこりと笑って頭を下げた。

俺は軽く感激して、思わず二人の手を取り、国王陛下に告げた。
「陛下。こちらのお二人は私より以前の神子様達です!コモ王国に召喚された5代目様と7代目様です!」
驚愕の声を上げた陛下もまた、あわてて高座を駆け下り、お二人の前に跪き、神子に対する礼を取った。

その国王陛下の姿を受けて。謁見の間の両脇に侍っていた貴族達、騎士達も片膝を突いて頭を垂れる。
お二人はあわてて周りを見回して、皆に直るよう促した。

彼らの連れにもかかわらず、もう一人の使者であるエリオット・エンゲルトと名乗った青年も、皆の動きに合わせて跪いたり立ち上がったりした。
まあ、さすがに陛下や高位貴族達まで跪いているのに立っているのも気が引けたのだろう。

ただ、なぜか彼はこの謁見の間にて、面を上げた瞬間から滂沱の涙に濡れていた。

ご使者達の中にはたまに、神子様である俺と生で対面したと言う事に感激し、泣いてしまう者も居た。
そういう系の人か?
と思って、あまりそこを突っ込まなかったんだけど、お二人の元神子様と陛下のご挨拶が一段落した後、お二人から彼を押し出されて言われた。

「先ほど読み上げて頂いた目録には記してありませんでしたが、彼も祝福の献上品なのです。…あ、誤解を招くといけませんので、言い方を変えますと、彼との“再会”を是非贈りたく…」

「…再会?」
いや、この青年と会った事は無い。全く記憶にない。
明らかに俺の「誰?」という困惑の表情を見て、お二人は温かく微笑みながらウンウンと頷いている。
意味が分からない。

「…どちらで、お目にかかりましたでしょうか…」
申し訳なさそうに問うてみた。

しゃくり上げて、息を整えながら縋るようなぐしゃぐしゃな笑顔で口を開いた。
「…三倉先輩…、さ、…咲本です…」

俺は雷に打たれたような衝撃に、視界が揺らいだ。
「神子様ッ!!」
その場に居た陛下を始め何人もの人から呼ばれた声が遠くに響いた。

いつの間に傍に来ていたのか、マクミランの腕が倒れそうになった俺を支えてくれた。

「…うそ…、え、な、なんで…」
頭がガンガンして、心臓がバクバクして、脚がガクガクした。



咲本は、元の世界で俺に告白してきた後輩の男子。
そんなはず無い。
だって、どう見ても見た目はガイジンだ。
オレンジ色がかった赤毛。青灰色の瞳、鼻梁の高い彫りの深い貌。うっすらとそばかすのある真っ白な肌。全くの別人。…なのに。

「実は彼は転生者なんですよ」

転生?
つまり…、つまり俺の後輩である咲本光太朗は…。

その先は考える事を俺の意識が拒否した。
両手で口許を覆い、いつの間にか俺も止めどなく涙を流していた。体がわなわなと震えていた。

「失礼ながら、貴殿らは、一体神子様に何を…ッ」
怒気を含んだ声でマクミランが、お二人の元神子様と転生者を名乗るエリオット・エンゲルト青年に敵意を向けた。
庇うように俺を抱きかかえながら。

「…あ、落ち着いて下さい。ち、違います。困らせるつもりは全くありません」

仙元さんが穏やかに説明しようと試みるが、既にマクミランの目の合図で、壁際に侍っていた護衛騎士達が剣の柄に手を添えながら数歩踏み出していた。

「ちが・・・っ、や、やめてミラン。…みんな、下がらせて」

俺は、何とか気を取り直して、もたれかかっていたミランにしがみついたまま自分の脚で立って体勢を立て直した。
そして、数回深呼吸する。
まだ頬は濡れたままだが。

「大変失礼致しました。彼らに問題があったわけではありません。懐かしさのあまり動転してしまっただけなのです。…陛下、この後彼らと話すお時間を頂けるでしょうか」

俺が気を取り直して言うと、陛下が「無理も無い」と頷いて、その場はそれで俺を下がらせてくれた。

彼らを別室に通して貰い、俺も少し泣いた後の顔を何とかしてからそこに向かう。
付き従って歩いているマクミランは、どことなく緊張気味だった。
緊張感と共に、何とも言えない悲哀が漂ってきた。

もともと口数は少ない。表情も硬い。
それでも伝わってくるものが有る。
今、彼が途方もなく不安定な気持ちでいる事は、切実に感じとれた。

廊下を歩く足をつと止めて、立ち止まる。
付き従っているマクミランもそれに応じて止まる。
見上げると少し沈痛な面持ちだった。
「ミラン…」


俺は彼の二の腕に手を添えて見上げる。
「心配しないで。君が不安に感じる事は微塵も無いよ。
彼らは元の世界を思い出させてくれる人達で、それは懐かしいけど。
…でも、俺にとって何にも変えがたいものは、今はもうこちらの世界にしか無いから…」

暫し黙って見つめ合った後、マクミランが僅かに泣きそうな顔をしてコクリと唾を飲んだ。
そして、心細げに一言呟いた。

「…信じています…」
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