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・Day5/chapter2 間奏

65.

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 正午になる。雨が降り出して来た。
 ぱらぱらと音が立ちはじめて、男は外に面した窓を閉じた。
 風がやんで、机の上に置かれた書類の端が静かに平面に沈んだ。
「……ご主人さま」
 部屋の前からかすかな声が聞こえて、男は返事をした。
「入れ」
 おずおずと入室してきたのは、芹那だった。
「遅れてもうしわけありません」
 彼ら屋敷に囚われている花たちは、その生活リズムが昼夜逆転している。というのも、彼らにとって夜こそが、その魔をもを誘う花を咲き乱す時であるからこそ、なのだが。
 どこかまだ眠たそうに芹那が頭を下げた。その一礼を感情のない瞳で眺めていた男だったが、彼に要件を手短に伝えながら、外出の準備を始めた。
「隣の部屋にいる。面倒を見てやってほしい」
「はい」
 うけたまわって、下がろうとした芹那が、ふっと動作を止めた。
「お優しい、のですね」
 彼のことばに藤滝は眉をぴくりと動かした。
「ぼくをお呼びになったのも……そういうことでしょうか?」
「さあな」
 男はかの少年を見た。
 たおやかな肉体のラインは召し物の中に隠れている。藤滝にとっては、その艶色で、この檻のなかから出られるまで、春を売る囚われの人形のひとつにすぎない。
 そうだ。所詮、男にとって、それはそれ以下でもそれ以上にも、何にもならないはずの――。
「今夜、水にあげるつもりだ」
 男は少年から目を逸らせた。
 さも、忙しいとばかりに、鞄に手を伸ばす。
「はい」
「使い物にならなければ捨てるまでだが、今夜までに回復させとけ」
「はい」
 少年の声は抑揚鳴く、ただじっと自分の上にたつ男の背中を眺めているだけだった。
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