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・Day5/chapter2 間奏

64.

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「いや、よそう。こんな話は」
 ひとりが口にした。それが立ち話の引き際になったはずだった。
「どうした、さがしいな」
 廊下に響き渡った低い冷徹な声に、彼らは背筋を凍らせた。
 振り返れば、そこには、彼らの絶対忠誠を捧げる男――この閉ざされた暗闇の悦館に君臨している王の存在があった。
 しかも、それだけではない。
 彼の腕の中には、意識を失っているのだろうか、力なく抱きかかえらたままにされている青年の姿があった。
「ご、ご主人さま!」
 黒服は慌てて、彼に駆け寄った。
「そんな……自らそんなことをなされることはございません。その者を運ぶのであれば我らにおっしゃってください……!」
 藤滝は、絶対に溶けない冷たい氷河を宿した瞳を彼らに向けた。
「いい」
 短く発せられた男の声に、彼らは耳を失った。
「いいと言っている。それより、何だか今日はやけに騒がしいな。何かあったのか?」
 確かに。ばたばたと廊下を走る音が遠くから聞こえてくる。
「は、確認してまいります。ですが……」
「いいと言っているだろう。私が好きでやっているんだ」
 なおもじっと藤滝に抱き上げられている青年をじっと見てしまった男たちは、我に返って、あわててその場を立ち去っていく。
 その胸にはかすかな、違和感。
 それは――、そうだ。彼がこんなふうに誰かに手をかけるということなど、今までなかったというのに。
「……あれは、商品だろうか」
 同じことを思っていたらしく、男が口を開いた。
「ああ、そうだ。まだ調教中だったらしいが、なにせ、よく脱走を試みては、俺なんて追補によく駆り出された」
「そうか……。そういえば、屋敷の庭まで逃げて、まだ仕置きを受けているやつがいると……」
 ふ、と彼らの脳裏に何かがかすめていった。だが、ふたりはそれを口にしなかった。
 数日前から、様子がどこかおかしくなった主と、それに符号するかのような、脱走者の――。
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