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・地下室調教編(Day7~)
三日目 1-3
しおりを挟む――「今は潜りこんで、様子を見ている。あの男の部屋に入ったんだろ? めぼしいものはなかったか? 今は答えなくていい。あとで、こちらから、接触する」――
そうだ。彼はあのとき、そう言っていたような――。
先を行く滝田を追いながら、青年は、彼が言っていたことを思い出した。
「なあ」
青年は彼の背中に問いかけた。
「お前、そういや、ここに従兄弟がいるって話だったが」
滝田が振り返らずにこたえた。
「その話だが……」
滝田の足が止まった。
「ここで話そう」
そこは相変わらず、倉庫と同じように棚ばかりがならんでいる空間だったが、ちいさな椅子と机が用意されていた。いや、そればかりではない。
「かけて」
椅子に座った青年の上に、滝田が、ブランケットをかけた。
「ありがたい。でも、出来れば服も用意しておいてもらいたかったが」
「着るかい? 使用人の予備のものだ」
青年は目を輝かせた。彼が用意してくれたものは、この屋敷を跋扈する使用人の黒服だ。これを見にまとって逃亡すれば、ある程度は、逃げおおせられるだろう。
「表情が出てる」
滝田は笑い出した。
「でも、今日はこれを使って逃げてほしくて、これを持ってきたんじゃないんだ。いや、きみがそのつもりなら、そうしてもらってもいい。俺がどうこういうことじゃないからな」
「……?」
「まずあらためて、自己紹介といこう。滝田だ」
「……どうも」
「きみは、逃亡常習犯の……公庄弥助くんだね?」
「ええ、はい。逃亡の件で名前が知れ渡っているのか?」
「まあ、うん……。そんなところかな」
「ところで、従兄弟がここにいると聞いたが」
「うん。きみも知っていると思う。高橋芹那」
芹那――。
その名前に、青年は身を乗り出した。
「いまは、この館の上級相手にばかり駆り出されている。だから、最下層ほどひどい扱いはうけていない、と思う。だが」
「ここから連れ出したい」
「そうだ」
「そのために、わざわざこんなところに潜り込んだのか?」
「ひとりだったら、多分、無理だろう。でも、俺には協力者がいるからな」
「協力者?」
「で、相談がある。きみに俺が求めているものは――」
「情報? 協力?」
青年が彼の話をさえぎってそう言った。すると、滝田はまたあのくしゃくしゃな笑い方で、こたえた。
「話が早い。どっちもだ」
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