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・地下室調教編(Day7~)

三日目 5-5

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「――藤滝」
 男の姿をみつけて、青年は、彼の名前を呼んだ。
  男は、あいもかわらない氷のような瞳で、青年を見た。
 視線が交差する。
 彼らの視線の間には、みじんも温度を感じさせない冷たい交錯が交わされた。
「……っ!」
 覚醒から覚めたばかりの身体が感じたのは、圧倒的な熱。青年は息をのんだ。
 まだ、尻にあのプラグが刺さっている。簡単に外すようななまやさしい彼らではないし、そうとう悪趣味なやつらが集まっているということくらい、もう既に理解している。
 そういう群衆のなかに、ひとり、自分が獲物とばかりに吊り下げられて、衆人環視のなかにほうりこまれているという状態だ。
「まだ、効いているだろう?」
 いつの間にか、藤滝がすぐそばまで来ていた。耳元で、そうささやかれる。
「これの、解除方法をお前は知っている、だろ?」
「――!!」
 彼の吐息が耳にかかって、それだけで、ぞくぞくと背筋に走るものがある。男は、そんな青年の反応に、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。勝利だ。彼は、青年に勝利したとばかりの笑みだった。図星を貫いたとばかりの、勝者が漏らす優越感。
「……う、あ……か、かゆ……い」
 後ろがじんじんと青年を追い詰めていく。これだ。だんだんと強くなって我慢できなくなっていく感覚は。
 つまり、彼はこうしたいのだ。
 このまま、宴が始まり、客たちが花々をとりあさるさまを青年に見せつけて、それで、我慢できなくなった青年が、自ら懇願するさまを眺めるという趣向なのだろう、と。
 悪趣味だ。
 反吐が出る。
 そう思うのに、身体のほうは、解放されない熱にどろどろに解かされていて、前を触られてだけで、爆ぜてしまいそうだ。
「くっ……く、そ……」
 じわじわと、瞳の奥から熱いものがこみあがってくる。これは、生理的な涙だ。無理矢理、薬で興奮させられた肉体から生まれる、生理的なもの――。
 恨んでも恨み切れない。
 やつはどこまで追い詰めるつもり――?
 青年がにらみつける相手は、なおも飄々として、この宴の主であった。
「では、これより、こちらのものについて説明させていただきましょう」
 会場には既に若い男を選んで、おっぱじめている客の姿もある。それでも藤滝の声は、会場内をよくとおった。
「こちらの花はとても反抗的で、よく脱走未遂をしでかす――――」
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