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・屋敷編
Mon-1
しおりを挟む――売り上げを今の二倍にしてみろ。
そう言われたのはいいが、どうしろというのだ。弥助は、ため息をついた。時刻は昼正午。
食事を終えた花々たちは思い思いの時間を過ごしている。これから、数時間後の夕暮れを境に、この屋敷は姿を一変させる。それまでのささいな時間だ。
「おにぃさん」
食事がすすまない弥助をめざとく見つけて、芹那が駆け寄って来た。こんな食堂のなかにいても、芹那の若い美貌ははえて目立つ。
「あれ~、こんなに残して。食べないと、いっぱいエッチできないよ?」
芹那のあけすけなものの言い方に、青年は吹き出した。
「お前なぁ!! その言い方!!」
「だって、本当のことじゃんか」
芹那は、なぜ彼が顔を真っ赤にしているのかわからないという顔をつくってみせ、小首をかしげた。
「ああ、最悪だ」
「どうしたの~? 相談のる?」
「のらなくていい」
「じゃあ、お膝の上にのってあげようか?」
「それは、もっといらない」
「え~? お客さんはめっちゃよろこんでくれるよ~?」
客。ああ、そうだ、客だ。
忘れようとしていたことを思い出して、青年は、がっくりとうなだれた。
「どうしたってば、ほんとうに」
その様子をみて、芹那が弥助の顔をのぞきこもうとしてくる。そういえば、これでも、彼は自分より売り上げは遙かにいい。すこし相談してみようという気になったが、それは一瞬だけで、あまり気はのらない。
「なあ、芹那」
「ん? なあに?」
名前だけよんで、そのあとの次の句がでてこない。
「なにさ、もう」
「えっと、その……お前って……」
どうやって客をつかまえてるんだ?と、尋ねようとしたとき、食堂の奥から、大きなものおとがした。
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