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・屋敷編

Mon-4

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「そういえば、何か話しようとしていたところだったよね?」
 芹那がにこやかに言った。うっと、青年は肩をすくめた。
「いや、なんでもない」
「え~? 本当に」
 ああ、と青年はうなづいてみせる。だが、彼は複雑な気持ちだった。



 ここで飼われている男たちにはふたつの役割がある。
 ひとつめは、主に宴での贄――ショーとして客の前にひきずりだされて痴態をさらす、見てもらうための生贄。
 もうひとつは、実際に客に抱かれて対価を得るというもの。
 ショーに引き出されるのは、主に下級のものたちで、彼らが客を取れるようになると、だんだんと見せるための仕事を減らしてもらえるようになる。
 いま現在最下位の位置にいる青年は、ショーに出されるだけしか経験していない。たまに抱きたいという客があらわれるが、あしらって逃げている。
「二倍って、言ってたよな……」
 ぼんやりとあの男の言っていたことばを思い出して青年はつぶやいた。
 むしゃくしゃする胸をそのままに、彼は屋敷の裏にいた。洗濯場と称させたその空間は中庭のようにそこだけ屋根がない。
 青空の見える空間めいっぱいに、張られた物干し竿にぱたぱたと揺れる干された布。空が見たくて、本当は使用人以外立ち入り禁止のこのエリアに、彼はこっそりと侵入していた。
 それにしても――。
 あれだけの喧嘩がおこるほど、客引きは熾烈なのだと、彼は改めて思い、気が重くなる。
 この屋敷で上にいくつもりなら、いやがおうでも、客をつかまえて寝るしかない。羽振りのいい客をめぐって、花売り同士での熾烈な争いがあるというのは、なんとなくわかっていたが、それを彼は目の当たりにして、余計に窮屈な思いになる。
「おい、そこは立ち入り禁止だぜ」
 気配がなかった。
 だから、背後から声をかけられた途端、青年は驚いて悲鳴をあげた。
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