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・屋敷編
Tue-09
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「なっ、何だよ、それは……」
彼の手の中には、革製のリングが――首輪、であった。
それも使用人が用意していたのは、ふたつ。
ひとつは、すぐさまに、伊佐美と呼ばれた男の手にわたった。
「ご主人さまにあいまみえるのは、本当に久しぶりで……」
伊佐美は自ら首輪を自分の首に通すと、金具を止めて、固定した。意味がわからない行動に、青年はただ唖然とする。伊佐美は頬を染めて、藤滝を見た。
他の使用にが手にしていた鎖を伊佐美は手に取る。そのまま、自らの首にはまったものの金具と鎖の先端をドッキングさせた。じゃらりと鳴った鎖の端を藤滝へと差し出す。
「この日を楽しみにしておりました。またあなたさまに手綱を握っていただける日がくるなんて……」
その恍惚とした表情に、青年は、ぎょっとした。この顔は、あの屋敷で、この男――藤滝に心から陶酔している少年たち、使用人たちが見せる表情とそっくりだった。
「まったく、お前は……」
藤滝は小さくため息をつきながら、その手に鎖を握った。それだけで、伊佐美は、酔ったかのような表情を浮かべる。
「ありがとうございます、ご主人さま」
伊佐美は、ひざまづくと、藤滝の足にすり寄った。
「お、おい……これって、ちょっ!」
藤滝が、ぱちんと、手を打った。
使用人たちが、青年へ向かって手をのばしてくる。その手に握られているのは、首輪であった。逃げようと思ったが、使用人たちのほうが速かった。
「くそ! おい、な、何するんだよ!」
もがく青年に無理矢理、首輪をはませられると、その金具に藤滝が鎖を手に持った鎖を彼の金具に止めた。
その光景を見て、伊佐美がぎょっとした。
「なんだ? どうした?」
「い、いえ……」
何かいいたげな伊佐美に藤滝が言う。
「これは、うちの厄介な狂犬だ。逃げられてはならないから、お前が面倒をみてやれ」
「は、はい……」
伊佐美が、四つん這いのまま頭を下げる。そして、さっと立ち上がった。鎖がじゃらりと鳴る。
「おい、取れよ!」
青年は、首輪をひきちぎろうとして手をそれにかけたが、強固な作りをしているため、自分ではとることができない。
「そこに鍵穴が開いているのがわからないのか?」
「へ?」
藤滝の指摘に、青年はそれがロックされていることを知る。
「ここでも悪趣味は相変わらずなんだな」
「鍵は帰るときに解除してやる。今日はここを視察するために来たのだからな」
視察――?
青年が首をかしげたとき、鎖がじゃらりと音を立てた。鎖をひっぱった。首をひっぱられて、青年は伊佐美へと身体を寄せた。
「っ!」
伊佐美に身体を抱かれて、ぎょっと身をすくませた青年だったが、彼が耳元で吹き込んだことばにも、驚いて身をすくめた。
「俺はもともと、ご主人さまの下で働く屋敷の花だった。いまじゃ、この小さな箱の主だ。よろしくな」
彼の手の中には、革製のリングが――首輪、であった。
それも使用人が用意していたのは、ふたつ。
ひとつは、すぐさまに、伊佐美と呼ばれた男の手にわたった。
「ご主人さまにあいまみえるのは、本当に久しぶりで……」
伊佐美は自ら首輪を自分の首に通すと、金具を止めて、固定した。意味がわからない行動に、青年はただ唖然とする。伊佐美は頬を染めて、藤滝を見た。
他の使用にが手にしていた鎖を伊佐美は手に取る。そのまま、自らの首にはまったものの金具と鎖の先端をドッキングさせた。じゃらりと鳴った鎖の端を藤滝へと差し出す。
「この日を楽しみにしておりました。またあなたさまに手綱を握っていただける日がくるなんて……」
その恍惚とした表情に、青年は、ぎょっとした。この顔は、あの屋敷で、この男――藤滝に心から陶酔している少年たち、使用人たちが見せる表情とそっくりだった。
「まったく、お前は……」
藤滝は小さくため息をつきながら、その手に鎖を握った。それだけで、伊佐美は、酔ったかのような表情を浮かべる。
「ありがとうございます、ご主人さま」
伊佐美は、ひざまづくと、藤滝の足にすり寄った。
「お、おい……これって、ちょっ!」
藤滝が、ぱちんと、手を打った。
使用人たちが、青年へ向かって手をのばしてくる。その手に握られているのは、首輪であった。逃げようと思ったが、使用人たちのほうが速かった。
「くそ! おい、な、何するんだよ!」
もがく青年に無理矢理、首輪をはませられると、その金具に藤滝が鎖を手に持った鎖を彼の金具に止めた。
その光景を見て、伊佐美がぎょっとした。
「なんだ? どうした?」
「い、いえ……」
何かいいたげな伊佐美に藤滝が言う。
「これは、うちの厄介な狂犬だ。逃げられてはならないから、お前が面倒をみてやれ」
「は、はい……」
伊佐美が、四つん這いのまま頭を下げる。そして、さっと立ち上がった。鎖がじゃらりと鳴る。
「おい、取れよ!」
青年は、首輪をひきちぎろうとして手をそれにかけたが、強固な作りをしているため、自分ではとることができない。
「そこに鍵穴が開いているのがわからないのか?」
「へ?」
藤滝の指摘に、青年はそれがロックされていることを知る。
「ここでも悪趣味は相変わらずなんだな」
「鍵は帰るときに解除してやる。今日はここを視察するために来たのだからな」
視察――?
青年が首をかしげたとき、鎖がじゃらりと音を立てた。鎖をひっぱった。首をひっぱられて、青年は伊佐美へと身体を寄せた。
「っ!」
伊佐美に身体を抱かれて、ぎょっと身をすくませた青年だったが、彼が耳元で吹き込んだことばにも、驚いて身をすくめた。
「俺はもともと、ご主人さまの下で働く屋敷の花だった。いまじゃ、この小さな箱の主だ。よろしくな」
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