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・屋敷編

Thuー04

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 誰に聞いた? 藤滝の眉根が寄った。
「だから、教育中だっていってんだろが」
「それなら、コストをかけたぶんも支払うと言っている。……ほらね、こんな頭の固いやつに買われて、きみも窮屈だろう? 気が向いたら、主人を説得してやってくれないか?」
 こちらに言われても、あの藤滝のことだ。俺のことはすべて藤滝が勝手に決めるはずだ。
 そう思ったが言葉が出て来なかった。男がじっくりと青年を見た。その視線に、彼は動けなくなった。
「まあ、そういうわけだ。考えておいてくれ」
 ひとこと、そう言い残して、男はロビーから姿を消した。帰っていったらしい。見送りもせず、屋敷の主人と取り残されて、ただ、あっけにとられていた。
「お前、どうする?」
 藤滝が見下ろしていた。いつの間にか彼の手には煙草が握られていた。加えた瞬間に使用人が飛び出してきて火をつけた。
「どうって……どうせ、俺に決定権はねえだろ?」
「そうだな」
 煙を吸いながら藤滝が感情のない声で答えた。
「お前は俺を手放せるいいチャンスじゃないか」
 青年は藤滝を見上げて言った。
「お荷物を下ろせるぜ」
 ふーっと白い煙がまっすぐに形のいい唇から洩れた。
「そりゃそうだな。だが、だめだ」
「なんでだよ」
「行先がどこか知っているな?」
「ああ、でも、ここだってお前のようなヤのつくやつがいんじゃねえの? そうなりゃ俺としてはお前がいねえぶん、買われたほうがいい気がしてきた」
「……ばかだな」
 藤滝は、つまらなさそうに、煙を吸った。
「なら、なんで俺をこの場に呼んだ?」
「なんでだろうな」
「あいつが連れてこいっていったからか?」
「さあな。もういい。下がれ。今日は休みにしろ」
「は? 待てよ。それじゃ俺」
「豚箱行きは撤廃した。安心しろ」
「そういう問題じゃ……」
「お前、誰と話している? 主に向かっての態度が悪いな。そんなに仕置きしてもらいたいのか?」
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