渋滞車内でトントン脳イキ

阿沙🌷

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「わー、渋滞にスッポリズッポリハマりましたねぇ」
「ばか、そんなの見りゃわかるっての」
 門倉かどくら史明ふみあきはハンドルを握りながら、後部座席に向かって言った。そこには松宮まつみや侑汰ゆうたという男が乗っている。
 彼は三十路を過ぎたというのに、まだ若々しく、いや幼さを残した容姿で、ひとことでいえば可愛い雰囲気を醸し出している。
 しかし、その本性はただの変態趣味者であり淫乱であるというのが門倉の見解だ。快楽に弱い性質とやけに下品な話を好む性格とを持ち合わせているというか、彼自身が歩く変態なのだ。そういう評価を門倉は松宮に持っていた。
 というのも、彼自身、松宮に一度裏切られたのだ。年下の純情可憐な男のふりをして近付いてきた松宮は、門倉のハートを射止め、ふたりは恋愛関係にまで発展したのだが、松宮が本性をさらけ出した途端、いままで門倉が信じていた松宮侑汰像は崩壊。年下でも純情でもなく、五つも年上で、切れやすい後ろで男を咥えるのが好きだというとんでもない存在だったのである。
 そんな松宮とは恋人同士の関係を解消した門倉は、いやそうしたはずであったのだが、何故かズルズルと交流を続けてしまっているわけのわからない関係にこんがらがってしまった。
 松宮は強い。自身の魅力を知っている人間だ。大きくて黒目がちな瞳や薄い色の肌。丸っぽくて可愛い見た目から、そういうものに弱い人間を煽るような仕草まで、すべて松宮の手の上で門倉は転がされる。
 そうだ。すべては松宮の顔のせいじゃないか。可愛いものが悪いんだ。などと自己弁護に自己弁護を重ね自己正当化しようともがきながらも、今日も何故か松宮を自分の車に乗せて車道をひた走っていた。そして、渋滞に巻き込まれた。
「門倉さんの、カーナビつけたらどうです? 今更、時代に逆行する意味ないと思うんですよ」
 松宮がつまらなさそうに足を組み換える。衣擦れの音が門倉の鼓膜まで届く。
「一応ついているんだが故障中なんだよ、悪かったな」
 嘘ではない。
 この車を中古で買ったときから、付属のカーナビは壊れているので取り替える必要があると聞かされていた。けれど門倉はあまり遠出をしない生活をしていた。周辺のよく自分が見知った道を走行するのにナビは必要ないだろうと、そのままにしてしまっただけなのだ。
 それに対して松宮は、「ふーん」と気の抜けるような返答だけして、暗くなりだした夕方の街を窓ガラス越しに眺めている。
「第一な、お前がここに乗ること自体、おかしいことだぜ。つか、なんで俺はこんなタクシードライバーみたいなことをしているんだ……」
「何急にナイーブになってるんすか、門倉さん、生理?」
「お前馬鹿だろ、馬鹿すぎるだろ」
「わーん、門倉さんが侮辱しまくってくるよぉ」
「なら、こういうことに俺を一切巻き込むな」
 本日の目的は近隣県で行なわれる展望イベント。秋には天体観測ですよね、と松宮がねたってきて、ついうっかり、連れてってやるよなんて言ってしまった門倉は後悔の嵐だ。
 イベント自体はガイドを筆頭に何組もの参加客と一緒に星空を見上げたり天体望遠鏡体験をするというものなのだが、この男とふたりっきりという交通異動の時間のことをまったく考えもしなかった。完全にやられた。
 このままではストレスで胃が蒸発する。
「まあ、そう落ち込まずに。渋滞だってたまには人生にいいスパイスです」
「なんでお前はそんなにポジティブなんだ。さっきから一ミリも動かないのに」
「動かないからいいんじゃないですか。だって、ふたりっきりの時間が永遠に続くってことだから」
 こいつめ。
「俺、車降りようかな」
「えっ!?」
「いや冗談だ。でも本当に本心から車を降りたい」
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