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でも、確か昨日で出版の仕事は仕事納めじゃなかったのか? いや、でも、あの人のことだ。作品のためなら、休日返上してでも対応するだろう。けれど――。
自分がいるのに?
いや、そんな、変なことを考えるな。慌てて、新崎は、首をふって、浮かんできた弱々しい思いを打ち消した。
「いらっしゃいませ。……すみません、ちょっといま、お店のなか、騒がしくて」
オリーブ色のエプロンを着た店員が、現れる。新崎は微笑んだ。ここでバイトしているこの青年は、前に来た時も会っている。そっくりというわけではないが、俳優小金井義則になんとなく似ていて、謎の親近感があった。
「いえ……、あそこの席、借りてもいいですか?」
店内には幸いなことに、窓側を占領している千尋と作家――ああ、そうだ、彼は松葉ゆうだ――それ以外、誰もいなかった。
松葉とは、宮崎にロケしに行った際、偶然旅行中の彼と遭遇している。あの可愛いベビーフェイスは一度みたら忘れられない。というより、怒涛な人格は強烈すぎて忘れられない。
なるべく、彼らから遠く、彼らに気づかれない場所を選んで、新崎は座った。大丈夫。ここからなら、観賞植物が邪魔をして、千尋には気付かれないはずだ。
「あの、俺は平気なので、彼らはそのままにしておいてください」
「でも……」
青年は新崎が千尋の連れでよく来ていたことを知っている。挨拶しなくてもいいのか、と彼の顔が言っていた。
「しー。俺は今日、ここにいないことにしてください」
にっこりと微笑みながら、人差し指を立てた。青年は、わかりました、と言って、オーダーを聞き、さっと姿を消した。
「って、いうかさ!! なんで、俺たち、ここでこんなこと、やっているわけ!? 本当なら、ダーリンといまごろ、だらだらセッ……」
「うわああ、言うな、先生! そのワードをここでいうな!」
「んぐっ。んだよぉ、ちーちゃん、俺、窒息するじゃんか」
ちらりと、あちらに目をやれば、千尋が作家の口元を全力でおさえつけていた。
「な、仲がいいんだな……」
と、いうか、距離が近い、というか。
「だいたい、なんで、ここにちーちゃんくるんだよ。俺さ、あんたみたいに暇じゃないわけ。必死こかないと、仕事終わらないほど、いそがしいんだってば」
千尋は暇じゃない。
新崎はプチンと頭にきて、立ち上がりかけたが、はっと我に返って、着席した。
「ぼくだって、一応、作る側なんだから、その苦労はしぬほどわかる」
「まじか。煮詰まり?」
「んー、まあ、そんな、感じ?」
「へーえ。きっも」
何をいうか。千尋にきもいところなど、どこもない。なんなんだ、この作家は。
自分がいるのに?
いや、そんな、変なことを考えるな。慌てて、新崎は、首をふって、浮かんできた弱々しい思いを打ち消した。
「いらっしゃいませ。……すみません、ちょっといま、お店のなか、騒がしくて」
オリーブ色のエプロンを着た店員が、現れる。新崎は微笑んだ。ここでバイトしているこの青年は、前に来た時も会っている。そっくりというわけではないが、俳優小金井義則になんとなく似ていて、謎の親近感があった。
「いえ……、あそこの席、借りてもいいですか?」
店内には幸いなことに、窓側を占領している千尋と作家――ああ、そうだ、彼は松葉ゆうだ――それ以外、誰もいなかった。
松葉とは、宮崎にロケしに行った際、偶然旅行中の彼と遭遇している。あの可愛いベビーフェイスは一度みたら忘れられない。というより、怒涛な人格は強烈すぎて忘れられない。
なるべく、彼らから遠く、彼らに気づかれない場所を選んで、新崎は座った。大丈夫。ここからなら、観賞植物が邪魔をして、千尋には気付かれないはずだ。
「あの、俺は平気なので、彼らはそのままにしておいてください」
「でも……」
青年は新崎が千尋の連れでよく来ていたことを知っている。挨拶しなくてもいいのか、と彼の顔が言っていた。
「しー。俺は今日、ここにいないことにしてください」
にっこりと微笑みながら、人差し指を立てた。青年は、わかりました、と言って、オーダーを聞き、さっと姿を消した。
「って、いうかさ!! なんで、俺たち、ここでこんなこと、やっているわけ!? 本当なら、ダーリンといまごろ、だらだらセッ……」
「うわああ、言うな、先生! そのワードをここでいうな!」
「んぐっ。んだよぉ、ちーちゃん、俺、窒息するじゃんか」
ちらりと、あちらに目をやれば、千尋が作家の口元を全力でおさえつけていた。
「な、仲がいいんだな……」
と、いうか、距離が近い、というか。
「だいたい、なんで、ここにちーちゃんくるんだよ。俺さ、あんたみたいに暇じゃないわけ。必死こかないと、仕事終わらないほど、いそがしいんだってば」
千尋は暇じゃない。
新崎はプチンと頭にきて、立ち上がりかけたが、はっと我に返って、着席した。
「ぼくだって、一応、作る側なんだから、その苦労はしぬほどわかる」
「まじか。煮詰まり?」
「んー、まあ、そんな、感じ?」
「へーえ。きっも」
何をいうか。千尋にきもいところなど、どこもない。なんなんだ、この作家は。
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