夏の出口

木偶舞屋🌷

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「なあ、そろそろ、最後の花火の時間じゃね?」
 井宮が、手首をみながら言った。そこには、銀色の腕時計がはんである。
「あ、そっか」
 毎年、祭りの終わりごろになると、花火が打ち上げられる。どんぱらり。高校生時代も、それを眺めては、たまやがなんだの、あれやこれやと叫んでいたものだ。
「なあ、俺、穴場スポット知ってる」
「穴場?」
「そう、誰もいない場所。でもって、花火がきれいに見える場所」
「……ふーん?」
「来いよ」
 井宮が、俺を引っ張るようにして、移動しだす。
「おい、どこ行くんだよ」
「こっち!」
「行先を聞いてるんだけど」
「ついてから聞いてくれる?」
「それ、意味あるのか?」
 井宮が俺をどこに連れていきたかったのかは、場所についてから、ようやくわかった。
「ここって、お寺じゃん」
「そう、お寺だね」
 寺といっても、とても小さいものだし、中身は空っぽだ。誰も住んではいない。このずっと奥に墓地があって、昔はここに住んでいた住職がその管理をしていた。
「こわ」
「えー、たけってびびり?」
「うっせ! こんな時間に来るところじゃないだろ?」
「まーまー、そう言わずに、ささっ、どうぞ」
「どうぞって、ええ?」
 ひゅ~と風を切るような音がしたかと思うと、頭上にぱらりと大輪の花が咲いた。
「あ、ほんとうだ」
 周囲には誰もいない。
 井宮とふたりきりだ。
 けれど、お寺から見た空には綺麗に花火が映えて見える。
「な? 穴場だろ?」
「……まあ、そう、だな」
「さて、と」
「お、おいっ! 勝手に縁側座るなよ」
「大丈夫だって。おいで」
 井宮が座り込んだ縁側の隣へ来いと言ってくる。ずっと立ちっぱなしで疲れていたし、俺はそっと、彼の隣に座った。
「おー、また上った! たまや~」
 井宮が叫ぶ。
「イケメンになりたい~、イケメンになりたい~、イケメンになりたってあっ! 散った!」
「ああ、それ、懐かしい」
 花火が上がって散るまでに、三回、願い事を唱える。
 おそらく本来は流れ星にすべきことなのかもしれないが、高校生のとき、それが仲間うちではやっていた。
「井宮、イケメンになりたいのかよ」
 俺は思わず笑ってしまった。
「もう、いいじゃん。人には人の願い事があるんだから」
「まあ……うん、そうか」
「たけは何願う?」
「は、はあ?」
「あ、来たよ」
 ひゅ~と花火が上がる。
「え、えーと、給料上がれ、給料上がれ、給料上げれ!」
「おお、見事、クリア! っていうか、たけちゃん、いつの間にか、金の亡者になってたんだね」
「うるせえ!」
 ふたりで顔を見合わせて笑った。
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