夏の出口

木偶舞屋🌷

文字の大きさ
7 / 9

7.

しおりを挟む
「と、とれたー!!」
 ぽんっと弾け飛ぶようにして、落ちた景品を店主から受け取ると、その変なぬいぐるみを抱きしめて、井宮は飛び跳ねた。
「お前は小学生かよ」
「いーじゃん、ザウルスくんぬいぐるみ!」
「そっちじゃなくて」
 そのオーバーな喜びかたのほうを言ったのだが。
 まあ、いいや。
「よかった、よかったな」
 俺は、思わず、彼の頭に触れた。ぽんぽんとなでてしまっていた。
「あ……」
 途中で自分のしている行動に気が付いて、俺は慌てて手を引っ込めた。
 いくら井宮が幼く見えても、彼はれっきとした大人であって男であって――。
「ん? 何?」
 本人は俺の動揺など、まったく知らずに、きょとんと俺を見上げてきている。こういう鈍感なところが、俺は嫌いだ。
「あ!」
 彼が大声を出した。
「どした!?」
「しまったよ、たけ!」
「は?」
「お前のせいだぞ、見て見ろ!」
 彼はかき氷を指さしていた。
「溶けてる!!」
 ちなみに、それは、俺のせいではない。



 ストロー型のスプーンは便利だ。こういうとき、溶け切った氷とシロップをそのまま、ずるずる飲めるからだ。
「なあ、たけ。それ、食わないの?」
 彼が俺の手に持っていた綿あめをじっと見ている。
「食った」
「ん?」
「ひとくちだけな」
「えー、ひとくちだけ」
「甘過ぎて、むかむかするから」
「そうー?」
「食べる?」
「もらう!」
 彼は、俺から綿あめを奪いとると、そのまま、ぱくんと口に入れた。
「甘っ!」
「いや、だから、甘いもんだから、それ」
「……なあ、たけ」
「ん?」
「これってさ、たけ、口にしたんだよな」
「ん、ああ。嫌だったら、食うなよ」
「嫌じゃないよ。でもさ、間接き――」
「言わせない!!」
 俺は大声を出して、彼のことばを遮った。
「それは、言わせない!」
「あはは、必死になっちゃって、かーわいー! あ、ビール売ってる。買おう」
「飲みすぎ、食べすぎじゃないか」
「へーき、へーき」
「さっき、たこ焼きも食べてたよな」
「これから、フランクフルトも食べるつもり」
「はいはい……って、なんでまた俺のぶんまで買ってくるの?」
 ふたつビールを買って来た彼に俺はつっこむ。
「いや、これ、俺の。両方とも」
「なんなんだよ、お前!!」
「じゃ、フランクフルトも食べる」
「あー、もう、いってらっしゃい」
「いえーい」
「ほんと、ガキかよ」
 なんであの頃の俺は、こんなやつのことが好きだったんだ。と、いうか――。
 なんで今でも彼が隣にいるだけで、こんなにドキドキしているんだ、俺は――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。 📌本編モブ視点による、番外エピソード 「君はポラリス ― アンコール!:2年後の二人と俺と」を追加しました。

幼馴染みの二人

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
三人兄弟の末っ子・三春は、小さい頃から幼馴染みでもある二番目の兄の親友に恋をしていた。ある日、片思いのその人が美容師として地元に戻って来たと兄から聞かされた三春。しかもその人に髪を切ってもらうことになって……。幼馴染みたちの日常と恋の物語。※他サイトにも掲載 [兄の親友×末っ子 / BL]

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...