七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

文字の大きさ
9 / 31

✿7.9:擬宝珠

しおりを挟む
 彼は口を開かない。「無駄口」「雑談」の類を一切感じさせない彼はどこか不思議な雰囲気を持っていた。
「なあ、今度、あいつにものしゃべらせてやろうと思うんだけど」
 友人同士で固まって下校する際中、たからが話題を切り出した。
「あいつ?」
 分からないとばかりに友人が小首をかしげる。
「だからさ、あいつ。窓側の一番後ろ」
「ああ、たまきってやつか」
「うん。滅多にしゃべらんじゃん、あいつ」
「まあな。静かなやつだな」
「そいつに『ぎゃん』と言わせてみようと思って」
 胸張って言い張る宝に友人たちの寄せた視線はどこか白々しかった。
「いや、ほっとけよ。ひとりでいるのが好きなやつにお前みたいなうるさいやつ、当てたらかわいそうじゃん」
「えー、なんでや」
 それでも絶対、決行する。
 そう心にとめた宝であった。

「なあ、こんちゃ!」
 翌朝早々、肺にいっぱい空気を溜めて緊張をほぐすと、彼に話しかけた。
 机について大人しく座っている珠は、話しかけてきた宝の相手が自分だとは思わなかったらしい。他人のことのようにスルーする。それが、宝に火をつけた。
「なあ、珠、お前に話しかけてんだけど」
 宝の発言に自分の名前がでて驚いたように目を丸くした珠の反応に気をよくしたように宝は目を細めた。
 いける。
 謎の自信がどこからか湧き上がってくる。宝はぎゅっと掌を握りしめて自分を鼓舞する。
 いける……!
「いつもお前、大人しいからさ、何考えているかわかんなくて、ミステリアスでかっこいいよな」
 まずは相手を褒め認める作戦だ。
 そう思って発言したのだが、珠の反応はあまりよろしくない。
「え、あれ? 俺、間違えた?」
 落ち込むように肩を落とした珠に戸惑って、うっかり口を滑らせてしまう。
「あ、いや、なんていうか。あれ?」
「だめか」
 ぼそっと聞こえてきたのは、低いトーンの男声だった。そこかかすれていて、無理に音を出しているような苦しさがある。
「俺、ようやく声変わり来たの。やっぱりしゃべらないと妙か?」
「え、ま、まじか⁉」
 大人しい同級生の秘密を知ってしまい宝は小さく飛び跳ねた。
「いやいやいや、全然、そんなことない。むしろ、いい。な、いいじゃん。俺たち、友達、やろうぜ」
 勢いのまま交友を求めてくる宝の一直線な行動に珠は、くすりと口元をゆるませた。

✿7月9日:
擬宝珠ぎぼうしHosta
 花言葉「沈静」から物静かさんを主人公に据えて――と思ったのですが、なんだかんだでこうなりました。わあああ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

虐げられた令息の第二の人生はスローライフ

りまり
BL
 僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。  僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。  だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。  救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。  お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。        

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...