七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.11:扶桑花

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 失恋っていうのは初めてだ。
 でも、まあ、そりゃそうか。だって初恋だったんだもんなぁ。
 肩を落とす扶桑ふそうは、ひとり屋上にいた。
 とっくに昼休憩の時間は終わっている。昼後の一限の終了を告げる鐘が鳴ったばかり。授業を完全にサボタージュしてしまった。
 それでも、何故かその場を動きたくない。
 だらりと空を見上げる彼の身体から急に力が抜けていく。このまま溶けてしまいそうだ。液体になりそうな肉体は、屋上の太陽光で熱せられた温かな床面に仰向けに横たわっていった。
 真昼の凶暴さを徐々に失いつつある陽光は優しげにほほえむ。いや、雲がその暴力性をやさしく濾過ろかしてくれているだけなのかもしれない。
 まるで、雲ははなみたいだ。扶桑が初恋の相手で彼の告白を断った幼馴染の女の子――。
 そんなことを考えていたら、急に眠気がやって来た。そのまま瞼を閉じてどのくらい時間が経ったのだろう。ものの十秒かもしれないし、もしかしたら一時間かもしれない頃、声が降ってきた。
「生きてますか―」
 とんだ間抜けに聞こえたその声に揺り動かされるようにして、扶桑は瞼を持ち上げた。
「あ、生きてるね」
 確認のように、扶桑を覗き込んでいた顔がつぶやいた。
「ああ、生きているよ」
 扶桑が答えた。
 その解答に満足そうに見知らぬ男は微笑んだ。
 その表情の緩みっぷりになんとなく可愛いという感想を持つ。そうだ、花以外にも可愛い存在ならこの世にたくさんあるのだ。まだまだ、知らない世界はたくさんあるのだ。
 扶桑はゆっくりと起き上がると、彼を真正面から見つめた。
「お前、サボりか?」
「お前こそ。居眠りするなら教室で」
「何を言う。サボりに言われたくないよ」
「そりゃ、お互い様ってやつだね」
 ふふと口の中で(笑)を転がすようにして笑うこの男に、興味が出た。
「お前、どこのだれ」
「地球のなにがし」
「ふざけてないで名乗れよ」
「そういうのは、そっちからいうのが礼儀ってもんでしょ」
 なるほど。こうやって人のペースを乱すのが得意な人間らしい。余計に興味関心は積もるばかりだ。
「俺は三年の扶桑」
「知ってる」
「え!?」
「だって、名札ついてるから」
 な、て、てめぇええ。
 彼の胸元に視線を向けた扶桑だったが、がっくりとショックを受ける。
「残念。俺、昨日、名札、なくしちゃった」
 いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、彼は笑った。

(了)

✿7月11日:
扶桑花フソウカhibiscus
 ハイビスカスです。琉球木槿リュウキュウキムキウゲともいうそう。花言葉の「新しい恋」というのが、個人的には爽やかで常夏といった感じに思えます。なるべくさっぱりと爽やかなものをと思ったのですが、んん!? んんん!? となりました。
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