七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.12:鋸草

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 あいつのこと、絶対に認めはしない。
 そう心に決めたはずなのに。たった一つ、彼の吐いた言葉に大きく揺れる自身の心を自覚しながら、矢朗やろうは人気のない体育館裏に立っていた。
 部活の時間はもう終わり。さきほどまで後片付けをしていた生徒がちらほらといたが、それももういない。下校時刻はとっくに過ぎた。学舎で明日の授業準備に忙しそうな教師の存在を示すかのように電気の灯る窓の形が薄暗闇に浮かぶ。
 ばれたら、多分叱られる。
 そう分かっていても、これは自分と相手を見定める勝負だ。
 だからこそ矢朗は彼を待っていた。鋸莉のこぎりを。
 しばらく立ちほうけていると、沈みゆく夕日の残照を背にゆっくりと彼が歩みよってくる。
「待ったか?」
 ずいぶんとのんきな口調。待たせるのも戦法の内ってか? 
「随分長かったな。糞でもしてたのか」
 自分はいくら待とうが平常だとばかりに矢朗が言葉を返す。その反応を面白がって、鋸莉がにやりと口端を持ち上げた。
「まあ、困ったもんだなぁ。こんな生意気なやつが好きだなんて」
「そりゃこっちの台詞だ。鋸莉」
「矢朗、そんな可愛いツラしてていいのかよ。大体この勝負、勝ったほうが雄だ」
「ああ。だからこうして待ってたんだろうがよ、俺の嫁を」
「ケッ、誰がお前の嫁だって?」
「あんただよ」
「その考え、一瞬で吹っ飛ばしてやるぜ。俺がアンタの旦那だって認めさせてやる」
「おう、上等だ。めんこい癖に妙に無意識なてめえの鈍感さを恨ませてやるよ」
「なんだとお」
 喧嘩の理由はこうだ。
 好きだと思っていた彼に告白された矢朗だったが、うんと素直に頷けない状態になってしまった。つまりどっちがボトムでどっちがトップなのかという――そんなしょうもなくも本人たちは至って真面目な理由で、夕暮れの決闘が行われようとしているのだ。
「手加減はなしだぜ、矢朗」
「そりゃそうだろ。あんた鋸莉相手じゃな。だがよく吠える。ベッドの上でのそうして泣かせてやりてぇぜ」
「へぇ。やったことなさそうな面でよく言うな。逆に大泣きさせてやるよ」
 盛大に火花が散った。

(了)
 

✿7月12日:
鋸草のこぎりそうYarrow
 花言葉は「勇敢」「戦い」。アキレウスから来ている(?)らしいのですが。こりゃのんびりした話には出来ないなと思いながらも小さな花が咲く可憐さもあって、どうまとめりゃいいのよぉとなりました。どうしたらええんでしょ。
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