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しおりを挟む扉の事は兎も角、『隠し』だとしても攻略対象の可能性がある以上『触らぬ神に祟りなし』だ。
フィーは少年に気付かれない程度に目を細める。
(敵認定OK。
お嬢様と公爵家に仇為す可能性がある限り、何処の何方かは存じませんが……貴方は敵と考えますね)
これ以上無駄に関わるのは利益にならないと判断し、フィーはとっとと退散の構えに移行する。
「お許し頂けたと思って宜しゅうございましょうか?
であれば、お邪魔をするのは本意ではございませんので、これにて失礼させて頂きます」
深々と一礼してからフィーは立ち去ろうとする。
その様子に少年の方が慌てた。
「ちょっと待って。
本当に怪我はないの?」
一瞬ムッとするが、表情には出さず足を止め、振り返ってから『はい』と返事をすると、またフィーは歩き出す。
「私……ぁ、僕はセルフィ…ぃゃ、セル!
セルって呼んで。
次、何処かで会えたら、驚かせたお詫びをさせて欲しい」
どうにも胡散臭い。
顔面偏差値トップクラスと言うだけで、フィーの頭の中には警鐘が鳴り響いているのだ。
何より次があるとは考えにくい。
ただ、偽名の可能性があるとは言え、名乗られた以上フィーもそれに応える必要があるだろう。
言葉遣いや雰囲気からも育ちの良さは垣間見える為、例え敵であってもフィーの方から敵対するのは避けた方が無難だ。
「失礼しました。
私はフィーと申します。
ですが貴方様に詫びて頂くような事は、何もございません。
それでは失礼致します」
セルと名乗った少年の視線を背中に感じながら、フィーはその場を後にした。
(ったく……要注意人物が増えちゃったじゃない…)
声には出さないままぶつくさと愚痴りつつ歩いていると、奥の方に小さな建物が見えてきた。
フィーは歩みを止めて来た道を振り返り、それから先に見えてきた建物に顔を向け直した。
(あぁ、ぐるりと外周を通って来た感じかしらね。
あれは何の建物かしら…)
近づくにつれて、バシャバシャと水音がするのに気が付いた。
例えるなら盛大に水を刎ねさせるような…そんな感じ。
恐らく洗い場が近いのだろう。
つまりは学院で働いている人がそこに居ると言う事で、少し話をしてみたいと考える。
しかし、どうせ話しかけるのなら良好な関係を築く為にも、ある程度しっかり時間を取って話したいのだが、今日は時間があまりない。
そろそろ授業が終わる頃合いなので、アンネッタの付き添いに戻らなければならないのだ。
話しかけるのは次の機会にする事にして、今日はそっと様子を窺うに留めると決める。
水音が煩いので、少しくらいの物音では気付かれないと思うが、念には念を入れるべきである。
足音を忍ばせ、静かに大きな木の影に入り込む。
そぅっと覗き見ると、そこには数人の女性達が談笑しながら洗濯に勤しんでいた。
「そうそう、なんかあの先生、最近行動が怪しいのよね~」
「あ、あたしも思ってたんだよ!
だってさぁ、裏口から出入りするのに、何度も周囲をみるんだよ。
こう…キョロキョロってさぁ」
「あはは。
ありゃ絶対何かやってるねぇ」
なるほど……学院の噂話を仕入れるにはもってこいの場所かもしれない。
やはり早々に、此処で働く人達とは縁を繋いだ方が良さそうだ。
洗濯に従事している女性達の多くは、それなりに年齢を重ねた御婦人に見えるが、その中で一人だけ年若い女性が居た。
まだ少女と言っても通りそうな見た目で、肩口で切り揃えた茶色の髪は、ふわふわと波打っていてとても柔らかそうだ。
瞳も焦茶色で平凡だが、笑顔が可愛い。
華やかな美貌がないのは確かだが、愛嬌はあると言った感じと言えば伝わるだろうか…。
他の女性達の話に笑顔で相槌を打っているようだ。
「それにしたってアンタも大変だねぇ」
洗濯する手を止めずに婦人の一人が、その少女に話しかける。
少女の方は一瞬形容し難い表情をするが、直ぐに笑顔を貼り付けた。
「お嬢様は悪い方じゃ……。
ちょっと元気なだけ…で…」
「あれは元気っていう範囲を超えてると思うけどねぇ」
別の女性も口を挟んでくる。
「入学初っ端から保健室行きぃの、警備兵に囲まれぇの…って言うのは、元気とは違うと思うよ」
「……でもぉ…」
フィーは目を眇め、更に耳を澄ます。
「どうしても働かないといけないならさぁ、職場は選ばないと」
「そうそう、ナホミちゃんはまだ若いんだし」
彼女が探していたナホミ・バナカ男爵令嬢か……と、フィーはじっと見つめた。
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