悪役メイドだなんて言われましても困ります

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 確かに入学式典当日の邂逅イベントは潰してしまったが、それはヒロインと攻略対象のカップル成立を阻止する為ではない。
 どうせ朝から晩までフル監視体制なんて現時点では不可能なので、最初からシナリオそのものを潰せるとは考えていなかった。

 勿論、ヒロインや攻略対象達があまりうりちょろするのは目障りだが、最終的にフィー自身とその周辺……アンネッタと公爵家に、取り返しのつかない被害が出なければそれで良い。


 他には学院に出入りする商会が変わったとか、そんな噂話を幾つか聞き、休憩にはモスリンが持ち込んだ菓子をいただいて、そろそろ昼食準備の時間となった。
 控室に寄ってニミーと合流すると、いつもの四阿あずまやへ向かう。

「それではお嬢様達を迎えに行ってまいります」
「えぇ、お願いね」

 お迎えと四阿あずまやの留守番は、フィーとニミーが交代で行っている。
 今日はフィーがお迎えの担当だ。

「あぁ、そう言えばフィーさんにまだ伝えてなかったわね。
 今日は2年生担当のナーグル先生が、臨時で午前中だけS組の授業担当になったらしいの。
 だから見慣れない教職員が出てくると思うけど、ちゃんと伝達はあったから、不審者扱いしちゃダメよ?」
「……了解です」

 ニミーへの返事に直ぐ反応出来なかったのには理由わけがある。
 まさか此処ここで聞くとは思わなかった名前に、一瞬硬直してしまったのだ。

 ニミーの言った臨時の先生……彼のフルネームはコター・ナーグルと言い、学院の教職員に採用されて間もない20代後半の青年……の筈である。
 攻略対象の一人で、背中まで伸ばされた亜麻色の髪を、一括りにして横に流している。所謂いわゆる年上枠だ。

 ヒロインを操作するユーザーが、コタールートを選ばない限り、彼とはゲーム内で殆ど接点はない。
 更にリアルでは、ヒロインもアンネッタも1年、攻略対象は3年……まぁチェポンは既に卒業しているが、エネオットにずっと張り付いているので、3年生と同扱いで構わないだろう。

 その為2年生担当のコターとは、ほぼ接触する事はないと踏んでいたのだ。
 それが臨時で…と聞いて、少し脳内が白くなりかけてしまった。



 気を取り直して、フィーは1年S組に向かった。
 授業が丁度終わった所のようで、フィーが到着した時に教室の扉が開く。
 中から出てきた教職員――コター・ナーグルに、頭を下げて通り過ぎるのを待った。
 通り過ぎたのを確認してから、静かに…だけどじっと見つめて観察する。

(あ~……本当にコターだわ。
 ゲーム内ではギャップ枠って言われてた記憶があるけど……台詞は真面目なのに、スチルでは色男風に描かれていたからそう呼ばれてたんだっけ…。
 リアルではどうなのやら……まぁ、絡んでこないでくれるならそれで良い)

 フィーはコターの背中を見送り、アンネッタとミリリカが教室から出てくるのを待つ。
 暫くしてネルローネも一緒に出てきた。

「それじゃまた後でね」

 アンネッタとミリリカに挨拶をして、控えて居た侍女と一緒に廊下を歩いて行くネルローネの背中は、スッと背筋を伸ばしながらも何処どこか寂しそうに見える。
 彼女は王女と言う身分である為に、身の安全を考えて指定された別室で昼食をとる様に言われているのだそうだ。

 その為、最初からアンネッタやミリリカと昼食を共にする事は、互いに諦めていたのだろうが、やはり寂しいモノは寂しいだろう。
 見送るアンネッタとミリリカも、やはり寂しそうだ。
 だが、王家と学院の取り決めに物申せる筈もなく、廊下で沈み込んでいてもどうしようもない。

「お嬢様、ミリリカ様、行きましょう」
「……えぇ、そうね」
「…うん」

 ネルローネが進んで行った方向とは反対に進み、校舎を出て四阿あずまやに向かって歩いていく。
 その途中で突然、前方を塞ぐように転がり込んできた人影に吃驚して、アンネッタとミリリカの足が止まる。
 彼女達の後ろに付き従っていたフィーは、すぐさまアンネッタとミリリカを背後に庇う様に、一番前へと飛び出た。






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