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「それじゃ行こうか」
セルが惜しみなく笑顔をサービスしてくれるので、つい舞い上がりそうになるが、そんな自分を何とか戒め、フィーは無言で頷いた。
先にセルが歩き出し、フィーは彼の斜め後ろからついて行く形で北西の方へ向かう。
学院の北西部分は殆どが森林になっている。
施設は沢山あり、其々が余裕のある広さを持っているとは言え、やはり近しい場所に纏まっているので、魔物の飼育場や倉庫等、一部の施設が少し離れた場所にある程度。
今日の担当エリアに建物はない。厳密には小屋が幾つかあるが、物置の様な小さなものだ。
フィーとしては調べるつもりだが、あまり期待は出来ないだろう。
セルの後ろに続いて歩きながら、そんな事を考えていると、彼が振り返らないまま話し出した。
フィーの方に向いて話している訳ではないので、少し声は聞き取り難い。
「話は戻るけど…」
「戻る…? あの…よくわからないのですが…」
唐突過ぎたと自分でも思ったのか、自嘲するようなセルの含み声が漏れ聞こえる。
「っ……ごめん。
えっと、さっきの話…。
ルルが僕に聞けとか言ったんだよね?
忙しさに紛れて、あまり説明もしてなかったから。
何から話せば良いかな…」
『あぁ』とフィーは、やっと話が繋がった…と頷いた。
フィーが知っているのは、芙美子として前世日本で遊んだ『流恋』…『流星の贈り物~恋も乙女の大事なお仕事~』と言うゲーム内での設定で、この世界のリアルなかぼ……『ガヴォッドラーヘン』については全く知らない。
ルルから聞いた『血の反応』という手段がないフィ―は、探索そのものにも不安が膨らんでいる。
だがそこで、ふとフィーの脳裏に浮かんだモノがあった。
(そう言えば……。
私の探す『かぼちゃラーメン』と、セル様達が探す『ガヴォッドラーヘン』って……本当に同一の物?)
そんな疑問、最初に抱けよ…というセルフ突っ込みをしながら、改めて考え込む。
(名前が同じというだけの、完全別物と言う可能性も……。
って、名前がありふれた系じゃないから、てっきり同じ物だと思い込んでいたけれど…。
なんて初歩的なミスなのよ…)
探す手段云々以前の話だ。
ヒロインと思しきドニカを確保して、現在矯正中とは言え、シナリオの支配下から完全に脱却できているかどうか…神の御味噌汁で、やはりまだ油断は出来ない。
だから探す…そして同じ物なら、そのままセル達に渡して、何処か遠く…隣国でも何処でも構わない、ゲーム内の人物が手に出来ない場所へ持ち去って貰う……そのつもりだった。
でももし違う物だったら?
今更過ぎる不安だが、ゲームキャラとリアルな彼等との乖離に気付き、だんだんと不安が大きくなってきて、今ここで弾けた…そんな感じだ。
セル達との会話で『ガヴォッドラーヘン』と言う単語が出てきたのは、最初はシャフやルルとの顔合わせの時。
あの時はフィーの出自を調べてくれる等の話で、『ガヴォッドラーヘン』については有耶無耶になっていた。
次は、先日ルルに声を掛けた時…その時にセルに聞けと言われ、そのまま放置で今に至る……。
考えれば、何も知らなくても仕方のない状態だ。
だから改めて、フィーが探す『ガヴォッドラーヘン』と、セル達が探す『ガヴォッドラーヘン』が、同じなのかそうでないのか、確認しておきたい。
まずは現状での不安を伝えてみよう。
「疑問と言うか…お手伝いすると言ったものの、私はその『ガヴォッドラーヘン』と言う存在の事を何も知りません。
ですので、正直に言うと何を手伝えるのか…自分でもわからなくなっています」
知っているのはゲーム設定のみだし、記憶を失っているのも事実…嘘は言っていない。
ゲーム知識で乗り切ると息巻いてはいたが、それは同一の物だったら…という前提付きになると気付いた。
「あぁ、ルルから聞いたのは少しだけって事か。
そうだね……僕達も継承魔法で引き継がされた知識しかないから、実を言うと不安がない訳じゃないんだ。
ごめん…思い返すと、本当に何も説明していなかったね。
フィー…君の事はもう信頼している…だから話すよ…。
僕達は……」
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