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11話 夜が明けて
しおりを挟む昨日の雨が嘘のような快晴が広がっている。
陽の光がうっすらと地表に届き始めたまだ早い時間に、エリィが起きだした。ごそごそと動き出した音と、重心が移動する感覚にアレクも目覚めたようだ。セラフィムはというと、こちらは誰より先に目覚めていたものの、二人を気遣って微動だにしないでくれていたようだ。
何故なら横たわるセラフィムの胴部分に、蹲るようにして二人が熟睡していたからだ。
「ふあぁぁ… 相変わらずエリィは朝早いなぁ、ちゅうか、セラフィムさん堪忍や、すっかりもたれてしもうてたわ」
「早起きは三文の得なのよ。私もごめん、暖かくてつい、ほんとごめん」
横たわるセラフィムから半身を起こした反動でずっと被っていたフードがずり落ち、エリィの頭部があらわになっている。顔半分を覆っている銀の仮面はそのまま耳以外の頭部全体を覆っていた。髪の一房もない金属質の頭部は、文様の凹凸はあるものの、つるりとしていてとても非人間的かつ異様にみえた。
アレクにとっては変わり映えしない場面だが、セラフィムには初の事で少し固まっている。
そんなセラフィムの状態に気づいたエリィが苦笑交じりに左手を即頭部に添える。
「えっと、驚かせてごめんなさい…? であってるかな、見た目こんなんだけど一応人間だから、いろいろと容姿含めチートとか人間離れしてるみたいなんだけど、人間だから………あ~、やっぱり、気持ち悪い?」
「自分で『一応』ってなんなんや」
すかさず突っ込んでくるアレクに右拳を一発お見舞いする。
目の前の二人に小さく笑んだ様子でセラフィムがゆるゆると首を横に振った。
「すまない、気持ち悪いなどとは思わなかったのだが、不躾ではあったな。光を弾いてとても美しいと思っただけなのだ」
一呼吸遅れてエリィが起こした半身を軽く仰け反らせた。漫画であればガーンと擬音文字が入りそうである。そのすぐあと、にじにじとセラフィムににじり寄ると右手をその頭に伸ばす。
「セラフィムさんや、どこか悪いのでは? 例えば目とか、特に目とか、もしかしたら頭打った? あ~そうよね、あれだけ大怪我してたんだもの、頭打っててもおかしくないわよね」
一人完結したらしいエリィは腕を組みうんうんと頷いている。アレクはというと呆れた視線を隠す気もないようだ。
「大丈夫、治癒魔法でどうにかならなかったとしても、旅の間に高名なお医者さんに出会えるわよ、きっと! 多分!」
「から回ってるエリィは置いとくとして、ほんまに大丈夫なんか? 僕かて心配になるわ… 今のエリィはお世辞にも『美しい』なんて単語でる容姿やあらへんで?」
「あんたにだけは言われたくないけどな!」
再びエリィの拳がアレクにプレゼントされた。
「アレクはまたお仕置きするとして、起きて準備しよ。水使うなら外で使ってね。これタオル。セラフィムにも渡しておくね」
エリィが何も持っていなかった手にパっと真っ白なタオルを出現させると、セラフィムの前足にのせるように置いた。
「先に言っとくけど、原理とかはしらないからね? それにここを出たら使えなくなる手段だから。タオル自体は収納に何枚か入れておくけど、『パっと出してパっと消す』っていうのは無理になるのよねぇ」
「浄化石もってくさかい、設置して起動したらそのうち使えるやろけどな」
座り直したアレクが『いてて』と呟きながら、耳毛束を手の形にして頭をさすっているのを後目にエリィが立ち上がって外へと向かう。
「顔洗ってくるね」
「僕も行く!」
エリィと、それを慌てて追いかけるアレクを横たわったまま見送ると、前足にのせられたタオルをじっと見つめた。
「ふむ」
朝の準備が一通りおわって、朝食もエリィが魔法で準備した。収納に保存している食料――魔物の肉や植物などは魔力(滅多にないが魔素そのものを含んでいるものもある)をため込んでいることが多いので、旅の間の非常食がわりに温存しているのだ。
一度アレクに食事の準備を任せたことがある。が、魔法とは想像力がモノをいう。もちろん素質や才能、魔力量などなど、いろいろな要素が絡むが、想像力も大事なのだ。
任せた結果、アレクの用意した食事はすべてがただただ甘かった。
見事なフェイクフードだったのだ。見たことがあるだろうか、練り切りなどで作られた丼やステーキ……見た目を裏切る味というのは、衝撃が半端ないのだ。
以降、小屋での食事はエリィは担当している。
そして今日、エリィは朝からハンバーガーセットを用意していた。
「……なぁ、エリィ、朝から重ない?」
「うん、私もそう思うわ! だけど暫く食べられないじゃない?」
言いながらエリィは嬉々としてフライドポテトを頬張っている。
セラフィムに至っては、その前足と嘴でどう食べろというのかと突っ込みどころしかない状態だ。
セラフィムの前に置かれたセットが手付かずの様子に、エリィは近づいてハンバガーの包装を外し、口元へと掲げた。
「ほれ、食べるのよ、食べないと連れていけないわ」
ぐいぐいと勧められるまま嘴を開いて咀嚼する。
暫く咀嚼したのち、その表情はどことなくキラキラして見えた。
―――美味しかったようで何よりだ。
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