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12話 月の如き白銀
しおりを挟む食事も終わり包装などのゴミも一旦収納に収めると、エリィは立ち上がり室内を見回した。箪笥や机などの家具類はそのままにしているが、そこに片づけられていた内容物はほぼすべて無限収納に回収済み。あとは布団代わりの毛皮を回収すればそれで完了だ。
アレクも部屋の隅に残されていた浄化石と結界石を耳毛束で器用に解体している。
「その耳から伸びてる毛、ほんと器用よね。今まで聞いたことないけどそれ何て言うの?」
解体しているアレクに近づき、外された石や部品を受け取って収納しているエリィが興味深そうに尋ねる。
「はえ? これか?」
握っていた部品をエリィの手に置いてから、ひらりひらりと揺らめかせる。
「……なんて言うんやろ…僕にもわからんわ」
「あ、そう、じゃあ『耳手』でいいんじゃない?」
「ひねりも何もナシかいな」
ええけどなぁと呟きながら作業を再開し、最後の浄化石と結界石をエリィに渡した。ふと静かにしているセラフィムが気になって、エリィもアレクもぐるりと顔を巡らせると、当の本人は扉を睨んで座り込んでいた。
「セラフィムさん? どないしたん?」
「まさか何か近づいてきてるとか!? 気配もないしスキルにもひっかからないんだけど」
思ったよりも大きな声が出たことに、思わず自分の口を両手で押さえているエリィと窺うように見上げてくるアレクに、微妙な表情を向けるセラフィムがそこにいた。情けないような、困ったような…眉毛があればきっとハの字になっていること間違いなしの表情だ。
「この扉……俺は通り抜けられるのだろうか…?」
振り返れば扉が外に向けて大きく外れ、それだけでなく壁にも所々破壊の跡が見える。
入るときはエリィの収納に居たため誰も気づかなかったが、人間種用の扉はグリフォンが通るには少々、いや…かなり小さかったのだ。
何とか通れないものかと何度か挑戦したものの、見事に翼が引っ掛かり、あげく扉は外れ壁にはヒビが入ってしまった。
そこで仕方なく再度エリィの収納に収まってもらい、現在外で出されたところだ。
「ヒビ入る前に収納すればよかったんだよ」
「そないな事、今更言うてもはじまらへんやろ!」
「いーや、アレクが悪い」
―――扉と格闘するセラフィムにアレクは声援を送っていた。それも盛大に。
「私が止めなきゃ、小屋壊れてたかもしれないんだからね?」
「ハイ…スミマセン」
「すまない、俺が悪いのだ」
「まぁ、もう朽ちるだけだってアレクは言ってたし、セラフィムは頑張ってただけだからいいけどさ」
片やエリィが見上げる巨躯、片や見下ろすチビ、大きさは違えどお座りポーズで項垂れている姿はそっくりだ。
改めてみるとアレクはともかく、セラフィムの方はかなり汚れているのがわかる。血や埃、泥やなんやで全身がくすんで見えた。
さすがに気になって浄化魔法をかける。
浄化魔法をかけたエリィも、彼の隣で同じくお座りしているアレクも、目を見開いて固まってしまった。
くすんだ白、もう灰色と言ってよかった体毛は混じりけのない白となり、グリフォンの特徴的な尖った耳羽毛はその先端が銀色だ。翼も真っ白で、銀色の縞模様が見て取れる。ひろげればこの上なく美しいだろう。嘴もくすんだ黄色だったのに、やや鮮やかさを増していて、口角と先端部分は金色に見えなくもない。尾羽ももちろん純白で銀色が縁取りを添えている。
ただただ優麗の一言だ。
ここですとんと腑に落ちた。
昨夜見た鑑定にあった《月亜種》という単語。セラフィムは突然変異種なのだろう。
対応意訳にあった《星空のグリフォン》という単語から察するに、彼の一族の体毛は黒っぽいのではないかと思われる。その群れの中に冴えた月の如き白銀が君臨していたとするなら、どれほど目立ったことだろうか。それは即ちそれだけ狙われるということだ。にも拘らず長であったというのなら、彼の強さはどれほどだろう。
これから知っていくしかないが、予測される彼の境遇、心情などを想えば複雑な心持になるが、切っ掛けはどうあれ、セラフィムともこれからは旅を同じくするのだ。頼もしい仲間ができたと今は喜ぶべきだろう。
ちょっと抜けてるみたいだが…。
「セラフィムってつけといてなんだけど、ちょい長いから『セラ』って呼んでいい?」
急な切り替えにアレクもセラフィムも置いてけぼりだったが、辛うじて頷きを返す。
「あ、あぁ、エリィ殿…いや、主殿の好きに呼んでくれればいい」
「じゃあセラ、改めて、よろしくね!」
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