💘Purple Violet⚜️💐 堅物実直なノンケ親友への想いを、27年越しに伝えてテンパるゆるふわ一途イケメンのお話

良音 夜代琴

文字の大きさ
96 / 97
番外編

ハロウィンの夜に (前編)

しおりを挟む
「すっかり暗くなってしまったな」
俺の隣でルスが呟く。
「そーだな。陽が落ちんのが早くなったよな」
夜というほどの時刻ではなかったが、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。

秋風が足元を通り抜ける。
その度、俺の足元がスカスカだって事を実感させられる……。

俺とルスは、元勇者のリンデル達が運営する孤児院へハロウィンの催しの手伝いに行った帰りだった。

リンデル達が用意した仮装衣装を着て、それぞれが指定の部屋で待機して、順に回ってくる子ども達に菓子を配るという簡単なボランティアだ。
ただ、俺が着ることになったのは「すみません、レインズさんのサイズだと、この衣装しかなくて……」とリンデルが申し訳なさそうに渡してきたひらひらしたドレス状の魔女の服だった。
せめてローブっぽい感じの魔女スタイルなら、まだよかったんだけどなぁ……。

隣を歩くルスは、孤児院では全身包帯ぐるぐる巻きのミイラ男の仮装をしていたが、子ども達に菓子を配り終えた後、元の服に着替えていた。

もちろん俺だって着替えて帰ろうとしたさ、けどリンデル達が俺の着てる服は中々出番がないから、もう処分しようかとか言っててさ。それを聞いたルスが「じゃあ、もらってもいいか」なんて突然言い出してさ。
そしたら、あの仏頂面従者が「それでしたら、こちらをお使いください」なんて全身覆えるようなローブをサッと差し出してくるからさ……。

いやいらねーし! とか、言えねーだろ。
だって、リンデルは眠そうな子抱っこしてたし、足元にもちっちゃな子がうろちょろしてんだぜ?

大人がくだらねー事で揉めるようなとこ見せたくねーしさ「ありがとな」って、着たままもらってきたわけだけどさ……。

はぁ、とため息をついて、俺は足元を見る。
ヒラヒラ揺れるスカートは、無事ローブの中に全て収まっているが、スースーする感覚がなんとも心許ない。
冷たい風に足を撫でられて、俺は思わず身震いした。

「うう……。まさかこの歳になって、また女装する事になるとはな……」

途端、隣のルスがピタリと足を止めた。
「ん? どうかし――」
「『また』ということは、お前は以前にも女装をしたことがあったのか?」
ルスに静かに問われて、俺は思わず目を逸らす。

「……あー……、いや、なんつーか……」
「王防校より後ではないだろうが……」
そりゃそうだろう。
騎士になるための王立防衛学校や、そこを出て騎士になってからでは、流石に立場という物があるからな?

「幼い頃に……か?」
尋ねるルスのあまりに真剣な様子に、俺は思わず苦笑する。
「つーか、ルスは俺がいつ頃女装したのかが、そんな気になんのか?」

「ああ。さぞ愛らしかっただろうと思ってな。それを見逃してしまった事が悔やまれる」

「そっ……」
んなこと、サラッと言うなよ!!!!
俺は不意打ちを喰らった胸を押さえながら、赤くなってしまいそうな顔を振って答える。

「いやほんとに、こーんなちっちゃい頃な」
俺の手振りに、ルスは実直そうな太い眉を寄せる。
「そんなに小さくては、まだ生まれてもいないだろう」
真面目に返すルスを愛しく思いつつ、俺は笑って答えた。
「まあとにかく、初等部より前の話だよ」
「ふむ……」

俺の家は、財力も領地もたいして無いが、国の剣術指南役としての歴史とプライドだけはある、そんな貴族の端くれだった。
俺は男ばかりの三兄弟の三男坊で、母は生まれた俺を見て“また男子か”とずいぶんがっかりしたらしい。
城で剣術指南役を務める父は、女に剣は振れんと俺の性別を歓迎してくれたが、その分俺達兄弟は物心つく頃には毎日木剣を振らされていた。

しかし母は「可愛い我が子に可愛い服を着せたい」という思いを捨てられなかったようで、父似の兄達に比べて母似の金髪で女顔だった俺は、父や兄達に内緒で時々母に女の子の服を着せられることがあった。
あの頃、母が資金援助していた服飾事業は女物が専門で、新作が出る度に母に見本として献上されてたってのも大きかったんだろうな。

そんなわけで、俺は学童期に上がるまで時々女装をする事があった。が、別に俺の趣味じゃないぞ。
と、そこまで説明すると、ルスは小さな黒い瞳を満足そうに細めて頷いた。
「ふむ、そうか。じゃあ母親以外でお前のそんな姿を見たのは俺だけという事だな」

いやさ、リンデル達が見てたよな?
ついさっきまで、俺もお前も一緒に仮装してお菓子配ってただろ?
……まあ、お前があいつらをカウントしないってんならそれでいいんだけどさ……。

隣を見れば、ルスはまだどこか嬉しそうな顔をしている。
なんかよくわかんねーけど、ルスが幸せならいっか。
ちょい足元がスースーするくらい、なんてことねーよな。
俺はつられて温まった自分の胸に満足して、足取り軽く家路についた。

もうちょい考えれば、十分気付けたはずなのにな。
なんでルスが俺にこの服を着せたまま帰らせたのかくらい……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのユリシーズが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 ユリシーズの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...