教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

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第2章 風の大龍穴編

35 ルフトリーフと模擬試合①

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 風龍様の塔でお風呂を堪能したあとは、リーフさんに下の階にあるいくつかのフロアを案内してもらった。

 客室や会議室、書庫などがあって、もちろんヴァン様やリーフさんの私室もあったんだけど、そちらはプライベートな空間なので素通りした。

 あとは行ってないけど、地上部分が一番広いスペースになっていて、そこは龍形態でくつろぐ場所なんだって。リーフさんも龍形態はそこそこ大きいそうで、たまにそこでくつろぐのがリラックスになるらしい。

 一通り塔の見学をさせてもらったので、頂上のフロアに戻ってきた。

『レアンデル。塔の見学は楽しかったであろう』
「うん! 色んな部屋があって、全部が広々としていて、すごく居心地のいいところだったよ。お風呂は最高に気持ちよかったしね。ところで龍脈の確認は無事に終わったの?」
『ああ。ルフトリーフの細かい調整が行き届いており、何の問題も無かったぞ』
「ルシア殿! 吾輩も管理の役目をきちんと果たしておるつもりですが、褒められるようなところはなかったのですかな」
『ヴァンボロスの仕事もきちんと確認しておるぞ。お主が大きい部分、ルフトリーフが小さい部分を管理しておるおかげで、自然エネルギーがきれいに循環しておった。見事な連携プレーと言えるな』
『ガハハ。吾輩は細かい調整が得意ではないゆえ、リーフには助けられております』

 どうやら龍脈の確認も無事に終わったようだ。これで風の大龍穴ともお別れか。何か寂しい気がするな。

「ルシア殿。大龍穴の確認は終わったようですな。それでしたらレアンデルの旅は修行も兼ねているとのことですし、リーフとの模擬試合をさせてはどうでしょう」
『おお、それはよいな。レアンデルにはまたとない機会となろう。ルフトリーフ頼めるか?』
「私には何の異存もございません」
『そうしたら全員、我についてきてもらおう。ヴァンボロスは移動した空間から大龍穴の管理を頼む。行くぞ。転移!』

 勝手に話が進んでいったかと思ったら、真っ白な空間に移動したぞ?

『風の大龍穴と位置は同じであるが、次元が違う空間に移動した。ここで模擬試合をやってもらおう。周りには障害物も何もないから、気にせず戦えるぞ。それとこの空間は設定した時間に巻き戻る特別な場所となっている。今回は20分だ。戦いを始めて20分後には今の状態に巻き戻る。だから怪我をしても、仮に死んだとしても20分後には元通りだ。二人とも思い切りやれ』
「なにそれ! とんでもない魔法だよね。ルシアって何でもありじゃない?」
『あほう。こんなの簡単にやれる訳がなかろう。長年の研究を重ねて作りだした特別な空間なのだ。この空間はまさに模擬試合にはうってつけの場所だ。それ以外にも大規模な研究なども時間を巻き戻せるから失敗を恐れず試すことができるものすごく有意義な場所なのだ。この空間を作るために綿密で緻密な研究をどれだけやってきたことか。とにかくお主は目の前のルフトリーフとの試合に集中せよ。よいな。始めるぞ』

 リーフさんは既に戦闘の構えが出来ている。武器は持っていないようだから、魔法主体か、肉体そのものが武器というタイプかな。あの肉体美を誇るヴァン様の眷属なのだから肉体こそ武器というのはあり得るよな。

「レアンデル殿! いつでも参れ!」
「はい! お願いします!」

 僕とリーフさんの模擬試合が始まった。リーフさんの魔力の流れは怖ろしいほど綺麗だ。それだけでも、とてつもない実力者だということが分かる。
 まずは僕の攻撃を受けてくれるつもりのようだから、剣を使うとしよう。

 僕は全力で間合いを詰めて、リーフさんの胴体に斬撃を放った。――これは入る! 僕の魔力を流した剣がリーフさんの右わき腹に直撃すると思われたその瞬間、キンッ!と硬質な音が響いた。何だ? 斬撃が防がれたぞ?
 どうなっているのか確認してみると、リーフさんの右手の爪が伸びて僕の剣を受け止めていた。

「レアンデル殿、素晴らしい踏み込みに良い太刀筋だな。ヒヤリとしたぞ」
「まさか、爪で受け止められるとは想像していませんでした」
「それではこちらからも遠慮なく攻撃させてもらうぞ!」

 まず僕の攻撃を受けて様子見は終わったということだろう。リーフさんが素早い動きで僕の左側に回り込み、両手で爪を振り下ろしてきた。
 僕はその攻撃を剣で受け止め、すぐさま剣を引いたあと胸を狙って突く。後ろに宙返りをして躱すリーフさん。僕はさらに詰めて剣を振るう。しばらく僕の剣とリーフさんの爪を使った応酬が続いた。

「ガハハッ。レアンデルもやるではないか! リーフのスピードについて行くとは中々のものだ。リーフもレアンデルの鋭い剣を上手く捌いておるな!」

 ヴァン様が叫んでいるように、リーフさんとの応酬はほぼ互角の状況が続いていた。とにかくリーフさんのスピードは速い。僕が全力で動き続けているから何とか渡り合えているけど、少しでも気を抜いたらやられてしまう。それと比べるとリーフさんは手は抜いていないようだけど、まだ余裕があるように見える。

「レアンデル殿。まだまだこれからだ。行くぞ」

 リーフさんが右手を振り上げて迫ってくる。僕はすぐさま剣を構える。ん? よく見ると魔力が左手に集まってるぞ。リーフさんがその場で左手を振ると、僕の右足のももの部分を深く切り裂き、大量に出血し始めた。

「さすがレアンデル殿。右足を切断するつもりで魔法を放ったが、魔力を感じてとっさに躱したと見える。障壁魔法の効果もあったが、軽い傷では済まなかったようだな」

 左手に高密度の魔力が集まっていたから魔法が来るとは予想してたんだけど、どうやら風魔法の攻撃が猛スピードで飛んできたんだな。しかも無詠唱で。

 魔法攻撃も絡めて来られると本当に厄介だな。さて、どう対処したものか。僕はリーフさんという今までに出会った最強の相手を前に残りの時間をどのように戦うか作戦を組立ていた。
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