教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

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第4章 帝都アウシルバード編

56 皇位継承戦①

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 皇位継承戦は皇宮の東側にある闘技場で行われる。
 通常は一般の観客で賑わう人気の場所であるが、今回、観覧しているのは皇族と七獣家を筆頭とした貴族、また招待された大きな商会の代表など、この国を動かしているものたちが集まっている。

 試合開始の合図とともに、皇太子のロンジンが叫ぶ。

「レオーネ!! 尻尾巻いて逃げなくていいのか!? 今なら寛大な俺様が見逃してやってもよいぞ!」

 正確にはレオーネが挑戦者として認められた時点で皇太子ではなくなり、レオーネと同じ皇位継承候補者の一人になっているのではあるが、その尊大な態度は全く変わっていなかった。

「ふん! 逃げるわけがなかろう。せっかく帝国最強と言われる男と戦える機会なのだ。その強さを堪能させてもらおう」

 その言葉を聞いたロンジンは顔を真っ赤にして叫んだ。

「てめえ!! 皇族のクズが調子に乗ってるんじゃねえっ!! そもそも俺様に向かってその言葉遣いはなんだ!! クズは俺様を敬ってしゃべりやがれ!!」

 レオーネはその怒気をはらんだ言葉にも全く怯むことなく淡々と返事をした。

「もう言葉は必要無い。これは戦いだ。武を見せろ」
「ふざけやがって……ぶっ殺してやる!!!」

 ロンジンは右手に持つ斧を振りかざしレオーネに駆け寄る。その斧は片手斧ではなく獣人の大人であっても持つのが大変な特別製の両手斧である。その戦斧を片手で軽々と持ち上げるロンジンの力と、レオーネに迫るスピードは1級品だと言える。

「くらいやがれっっ!!」

 ロンジンがレオーネの頭部をめがけて、猛烈な勢いで斧を振り下ろした。観客席は息を呑む。誰の目から見ても不可避の攻撃がレオーネに当たると分かったからだ。

 大きな衝撃音とともに、特別な石で出来た闘技場の床に斧の刃が突き刺さり、周りには石の破片や埃が飛び散る。

「すごい威力だな。当たらなければ意味はないが」

 命中すると思われたロンジンの攻撃であったが、レオーネはあっさりと後方に躱していた。

「ほ~う。よく避けられたな。スピードだけはまあまあのようだ。たしかに一撃で勝負が決まっては面白くないが、お前のようなクズに時間をかけるのももったいない。次で終わりだ」

 ロンジンは戦斧を両手に持ち替える。そして頭上で斧を振り回すと、ものすごいスピードで回転させた。よく見ると斧はうっすらと紫に光っている。

「やはりその戦斧は魔道具なのか」
「そうだ! これこそ皇族に伝わる戦斧、ディーンアックスだ! こいつの力を解放したらもう終わりだ」

 ロンジンは戦斧に魔力を流し、頭上で回転させたままレオーネとの間合いを詰める。レオーネも右手に持っていた槍を構えた。
 ロンジンは回転させた戦斧をそのままの勢いで振り回し、自らがコマのように回転しながらレオーネに襲い掛かる。

「くらえっ!!」

 猛スピードの回転でレオーネに迫るロンジン。遠心力も加わったその戦斧の攻撃をレオーネが持つ槍で受け止めるのは無理そうだ。迫るロンジンに対し、距離を取るレオーネ。ここが闘技場で無ければ逃げ続けるのも簡単そうだが、逃げ続けて舞台上から落とされてしまった場合、場外負けとなってしまう。

 ロンジンは回転攻撃を繰り出しながら、舞台の端に追い詰めるようにレオーネの動きを誘導していく。
 そしてレオーネが徐々に舞台の端に追い詰められ、攻撃が当たると思われたその瞬間、レオーネは高く跳躍してロンジンの頭上を超えていく。難なくロンジンの回転攻撃を躱したレオーネが空中でつぶやく。

「つまらん。回転と威力はすごいのだろうが、攻撃が平面的過ぎて当たるわけがない」
「そうだよな……そう避けるよな!!」

 レオーネがつぶやいたと同時に、ロンジンも言葉を発する。そして振り回していた戦斧の回転を止め、そのまま空中のレオーネに向かって振り下ろす。
 5mぐらいの高さまで飛んでいるレオーネには当たるわけもないのだが――

「!」

 戦斧の刃のところから、無数の風の刃が発生し、レオーネを目がけて飛んでいく。

「ハハハハハッ!! 空中では避けられまい! ディーンアックスの力を思い知るがいい!!」

 戦斧から飛んでいく刃が次々とレオーネに命中する。そしてレオーネはそのまま地上に叩きつけられるように落ちた。

「フハハハッ!! 終わったな! 鉄をも切り裂く風の刃だ。欲を言えばこの手で直接切り裂いてやりたかったがな」

 ロンジンは戦斧を床に突き刺し、観衆に両手を広げて、勝利のパフォーマンスを行っていた。

「オホホホホッ! ほら見たことですか! レオーネなどという下賤の者が、私の愛する息子であるロンジンに勝てるわけがないのです。皇帝陛下もこれでお分かりになったでしょう!?」

 カミラ皇后が隣に座る皇帝のフィリップに向かって、皮肉たっぷりの笑みを浮かべて語りかける。
 皇帝は闘技場で勝ち誇るロンジンと、舞台に横たわるレオーネを凝視したままで、カミラに対して返答することはなかった。

 一人の男がむくりと立ち上がる。

「何を喜んでいるのだ? まさか勝ったとでも思ったのか? あほらしい」

 そこには風の刃の猛攻撃を食らったはずのレオーネが何事もなかったかのように平然と立っていた。
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