教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

文字の大きさ
56 / 131
第4章 帝都アウシルバード編

55 若きレオーネ③

しおりを挟む
 皇位継承戦が行われる早朝。レオーネはいつもより早く目が覚めた。
 特に緊張しているとか、寝付けなかったというわけでもないが、随分と久しぶりに今は亡き母親の夢をみた。

 レオーネの母は酒場の片隅で占いを生業にしていた兎の獣人であった。兎の獣人の女性には美形が多いが、特にレオーネの母であるイライザは美しかった。

 イライザと先代皇帝であるフィリップはイライザが働いている酒場で偶然に出会った。
 フィリップはお忍びで酒を飲みに来ていた酒場の片隅で、長い列を作っている占い師に目が留まった。美しいこともあるが、イライザが纏う雰囲気に興味を惹かれる。またイライザも店の端でフードを被りお酒を飲んでいる男性がなぜか気になる。
 店が終わったあとに出会った二人は、皇帝と平民の占い師という壁が無かったかのように恋に落ちてしまう。

 ある日、イライザが懐妊したことが判明する。フィリップは喜んでいたが、イライザは重い気分になっていた。愛する人の子を生みたいが、皇帝の子どもになるのだ。どのような未来が待っているのか分からないことへの不安が大きかった。
 フィリップはすぐさま皇宮へと戻り、イライザを側室とし、生まれてくる子を認知して、皇宮に住ませるように部下に命令を出す。

 そこで反対したのが皇后であるカミラと正式に認められた3人の側室だ。中でもカミラの怒りは凄まじく、実家のエーバー家まで巻き込んで抗議をした。確かに正しい手続きを踏まずに、愛人という立場のイライザを側室にするというのは皇帝といえども簡単に認められることではない話だ。しかしフィリップは愛するイライザと子どものために、何とか二人を認めてもらいたいと画策する。
 そこで妥協案とされたのが、イライザは正式な側室としては認められず、生まれてくる子ども共々皇宮に住めない代わりに、生まれてくる子どもは皇帝の正統な血を継ぐ皇子として認めることだ。
 フィリップは正式な側室ではなくとも、生まれてくる子どもと一緒に皇宮に住ませることを主張したが、イライザがそれを断るようにお願いした。皇宮に住むことは自分には過分な待遇であり、子どもと一緒に暮らせるのであればどこでも構わないと。

 イライザが平穏な暮らしを望んでいることを汲み取ったフィリップは、街中に子どもと二人で暮らすには立派な住居を用意して、そこに住ませることにした。

 そうして生まれたレオーネはとても元気で活発な子どもだった。父親譲りの黄金の毛並みの輝きが、どことなく気品を感じさせるようでもある。たまに会いに来る父親がこの国の皇帝だと知ったときは少し驚きはしたものの、自分にとって何かが変わることでもないため特に気にすることもなかった。
 しかし父親から教えてもらった槍の使い方にはとても興味を持った。一度、父親であるフィリップから本気の突きを見せてもらったときは本当に感動して、それからは毎日のように槍の練習に明け暮れた。
 10歳のときには周りの環境がとても狭く感じて、ハンターギルドでハンターの登録をした。それからの毎日はとても刺激的だった。ランクが上がっていくのとともに討伐する魔物がどんどん強くなっていく。しかしそれ以上に強くなっていったレオーネは17歳のときにはBランクに昇格していた。

 そんなある日、母親のイライザが亡くなってしまう。
 もともと身体が弱かったイライザはレオーネが17歳のころには、起きている時間より、寝ている時間の方が長くなっていた。また占い師であったイライザは数年前から自分の死期がこの年であると予感していた。
 そのためレオーネには一人で生き抜く強さを身に付けるように、父から習った槍術と自分の教えを叩きこんでいた。レオーネは飛びぬけた才能と惜しまない努力により母の期待をはるかに上回る力を身に付けていた。

 それからも今まで以上にハンター活動を精力的にこなしたレオーネは18歳で異例のAランクに認定された。Bランクからわずか1年で昇格することは普通ではありえない。しかしその普通を押しのけるだけの実績を残したレオーネ。魔物討伐に特化した異例のハンターは”黄金の若獅子”と呼ばれるようになっていた。

 レオーネは母親の墓前に誓う。小さいころからとても優しく、とても厳しかった母。そのどちらも自分が一人で生きていけるように与えてくれた愛であることを理解していた。
 母に誇れる強さを求めて、これからも努力を惜しまず、挑戦し続けていくことを誓いながら、一筋の涙を流した。



 まもなく皇位継承戦が行われる。これは母に捧げる挑戦だ。
 自分の追い求めてきた強さを、帝国最強と呼ばれる義兄にぶつけることができる唯一の機会である。勝ち負けなどどうでもいいなんて言わない。強さを証明するために、目の前の敵に勝つだけだ。
 今までも討伐困難な魔物と何度も戦ってきた。そのたびに限界を超えて強くなってきたという自負がある。今回も限界を超える。そして自身の強さを証明してみせよう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

処理中です...