亡国戦線――オネエ魔王の戦争――

石和¥

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帝国民救出作戦5

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「陛下、御無事ですか!」

「大丈夫よ! 迎撃するから、人質をお願い!」

「はッ!」

 アタシたちが馬を降りると、魔王領軍の海兵たちが馬車から避難民たちを降ろし、トラックに行くように指示する。
 多脚トラックの後部は有蓋コンテナになっていて、両開きのドアは開かれ、そこからスロープが降ろされていた。バーンズ小隊の面々は後続の馬車を誘導し軽く旋回させながら敵の敵の追撃に対してバリケードのような形に停めさせると、荷台から人質になっていた人たちを降ろしてゆく。

「行け行け行け、止まるな!」

 海兵たちは歩ける者たちを急かし、コンテナに導く。多脚トラック側に乗っていた男たちは、脚の弱った老人や女子供を抱えるようにして運んでいった。魔王領軍の海兵は追撃に備えているため、避難を支えている彼らは元・帝国海軍の兵士たちだ。積もる話もあるだろうが、そんな悠長な時間はない。
 アタシの乗っていた車両からは音程のズレたラッパの音が小刻みに繰り返され、追ってきていた帝国軍の兵士たちを文字通り、粉砕してゆく。
 残りは少数の重装騎兵たちだが、屍の山を前にして尚、怯む様子はない。

「取り込み中のところ悪いんだけど、イグノちゃん。そのおかしな機関銃、火薬じゃないわよね?」

「ええ、トラックに繋いである蒸気です」

 蒸気式機関銃。聞いたことないわ。

「船が動くんですから、銃弾が飛ばせない訳がないと思って試したのですが、正直あまり効率的ではありませんでした」

 最大毎分200発の速度で重金属弾を発射するそれは、内部構造が異常に複雑化して配管工の悪夢でも見るような姿になっているのだとか。扱いが難しく機構が繊細で随時調整が必要なため戦場向きではないそうな。
 装弾数は箱型弾倉で200発。蒸気は一回のチャージで400発が発射可能だが、それ以上の継続は車輛の蒸気機関に注水と再加圧が必要になる。
 残弾数を聞くと、もう心許ない程度になってしまっているようだ。

機械式極楽鳥ハミングちゃんに積んだ魔珠方式の方が良かったみたいです」

 上空支援で何度か体験した、魔珠の蓄積魔力で発射するタイプのものだ。一掃射分しかないが、軽くてシンプルで丈夫。それはそうかもしれないけど、いま見る限り蒸気式の威力も馬鹿にならない。
 上空から掃射されたときよりも、明らかに威力が高いのだ。巨大な軍馬が1発喰らっただけでも吹っ飛んで動かなくなる。威力の種類・・が違うというか……

「さすがご炯眼です陛下。これは飛距離や貫通力よりも制圧力を優先してみました」

 よくわからず訊き返すと、要は弾丸が大きくて重いのだそうな。結果として発射速度も初速も遅い。重金属は比重こそ高いものの材質が柔らかく、身体のなかに入るとひしゃげて肉を掻き回しながら転がる。突き抜けないので運動エネルギーは全て体内に伝わり、どんな獣装甲の敵でも……というか重装甲の敵ほど、大ダメージを受ける。

「え……えげつないわね」

「お褒めに預かり光栄です!」

 褒めてないわよ。ドン引きしてるの。
 革鎧程度の軽装だと四肢どころか身体の被弾部分をごっそりと引き千切られて分断されてしまう。分厚い甲冑を着込んだ重装歩兵でも、打撃力が高いのか当たると馬上から弾き飛ばされて地面に転がる。見たところ貫通はしていないようだけど分厚い金属板がベッコリと凹んでいるのでダメージは大きい、といかほぼ致命傷だろう。自分が受けることになったら対抗手段がないことは明らかだ。アタシはこの天才技術者が味方にいることを、信じてもいない神様に感謝する。

「魔王陛下、避難民の収用確認しました。お乗りください、撤収します!」

「ファニ! 発車前に足し湯、すぐ沸かして!」
「はいッ!」

 ちょうどタマ切れになったところらしく、イグノちゃんは箱型弾倉を入れ替えながら車体後部の兵員に蒸気釜への注水と再加圧を指示する。言葉尻を聞くだけだとお風呂の催促でもしているようだけど。
 先頭車輛の助手席に乗り込むと、運転席で叫んでいたのは久しぶりに見るセヴィーリャだった。トラックが動き始めてすぐ、天上に開いた穴からイグノちゃんが降りてくる。

「お疲れさま、この分だと無事に済みそうね」

「残念ですが、そうもいかないようです」

 イグノちゃんが指すのは、トラックのダッシュボードに当たる部分に固定された魔珠。上空の機械式極楽鳥ハミングバードからの映像が映っているが、そこには港湾部に向かって展開してゆく大型の馬車が数台と数十騎の騎兵が見えた。

「退路を遮断しようとしていますね。奇襲を受けてこの短時間で対処とは、敵もなかなかやります」
「海兵なら当然です。やつら、陸兵の3倍は強いですから」

 運転席のセヴィーリャが苦い顔でつぶやく。以前ひとりで海上要塞に乗り込んだとき、陸兵とは桁違いな錬度と気迫の差を思い知らされたのだそうだ。

「馬車の荷台にあるのは、おそらく艦載用の投石砲でしょう。あれなら遠距離から面攻撃できます。面倒なことにならなければいいですけど」

「ルコックの砲撃で潰してもらう?」

「……それは」

 アタシの提案に、ふたりは一瞬いい淀む。

「彼らが布陣しているのは民間人……貧民層の住む地域です。意図したものかは不明ですが非難誘導もされていないようですから……」

 撃てば大量の犠牲者が出る。魔王領軍こちらが……というより魔王アタシが、民間人被害それを嫌っていることまで知られているのかと目で問うと、イグノちゃんは目を逸らしセヴィーリャは項垂れる。

「わたしひとりの救出に巨艦が出張ってきたのを見てますし、王国での御活躍・・・も知られているでしょう。そもそもが帝国の死刑囚たちを大部隊で奪還に来ているような状況です。ここで民間人虐殺に出るとは思っていません」

「ちょっと待って、砲弾を爆発させなきゃいいんじゃない? さっき、それが出来るっていってたでしょ」

「可能ですが、砲座の弾薬に爆発性のものがあった場合……過去の例からみると高確率であると思いますが、その場合、同じく周囲への被害が発生します」

 歩兵による制圧、もしくは狙撃か。戦闘って結局は、ままならないものなのね。

「いいわ。カイト、聞いてる? 砲撃はなし。いいわね?」

“了解しました。現在沖合半哩(約800m)ですが、接岸しますか?”

「イグノちゃん、突破できる?」

「ええ、速度勝負ですが。荷台も、刀槍や弩弓までなら防げます。問題は、水上航行時に投石砲で狙い撃ちされることくらいですね」

「OK、全車、ルコックまで全力前進!」

“““はい!”””

 アタシたちの車両を除く多脚トラックの群れが速度を上げ、海を目掛けて突進する。迎撃に向かって来た騎兵の先頭集団が棹立ちになった馬に弾き飛ばされて転がるのが見えた。まだ投石砲の攻撃はない。着弾の精度が読めない状況で、敵の出方が見えないのが不気味だった。

 先頭車輛が岸壁から逸れて船舶揚揚陸用のスロープに差し掛かる。そこにも槍兵が待ち伏せていたようだが、こちらも怯え竦んで何も出来ないまま弾き飛ばされる。水に入ると車体後部から唸り声のような音が響き、トラックは水上航行に移る。

「全車、最大船速。ルコックまで持てばいい」

“““はい!”””

 イグノちゃんの指示通り水飛沫を上げて突き進んで行くが、アタシには、少し気になるところがあった。

「ちょ、ちょっと待って。このトラック、さっき蒸気機関で動いてるとかいってなかった?」

「はい。陸上では魔珠による蓄積魔力ですが、それだと“とるく”と航続距離が足りなかったので、水上では蒸気機関との併用です」

 イグノちゃんは簡単にいってくれるけど、動力が蒸気機関である以上、何かあった場合には高圧蒸気のお釜が吹っ飛ぶのだ。たぶん、ただでは済まない。

“敵投石砲、発砲!”
“2番車輛、面舵!”

 上空監視映像を見たルコックからの指示で、海上のトラックは航路を修正する。
 後方で水面に弾着の後、激しい水柱が上がった。予想通り、弾薬には爆発性の物が使われているようだ。水柱が上がった周辺の船体に波動が伝わり大きく揺れている。爆発がどういった装薬によるものかは知らないけど、思った以上に威力が高い。

“全車輛、散開! 固まっていると被害が拡大する”

「セヴィーリャ、市街地に向かって。外延部手前で停車。撤退支援を行うわ」
「はッ!」

 市街地というよりも貧民窟スラムの端っこ、といった場所。アタシは周囲を見渡し、砲座を狙い撃ちできそうな高所を探す。
 倉庫と思われる建物の上。外に積まれた木箱を登れば、なんとか屋根には上がれそうに見える。

「あの上から狙おうと思うんだけど」

「了解です。総員、全集警戒! 陛下の狙撃支援に入る!」

 総員といっても、こちらのトラックにいるのはドライバーのセヴィーリャとアタシ、銃座のイグノちゃん、マーシャル殿下と、荷台を守る人狼族の新人軽歩兵1名だけだ。実質、交戦可能な戦力は殿下とこの人狼青年だけ。
「マーシャル殿下、申し訳ないんですけど、避難民の護衛をお願いしてもよろしいかしら?」

「それは構わんのだが、貴殿は、単身敵陣に向かうつもりか?」

「近付く気はないですけどね。まあ、魔王領軍うちは、人手不足なんですよ」

「魔王」

 行きかけたアタシは呼ばれて振り返る。呆れ顔の姫騎士殿下が、こちらを見て首を傾げた。

「止めはしない。協力もするが……貴殿の軍はいつでもそうなのか?」

「そう、とは?」

「自覚があるのかどうかもわからんがな。王が最前線で殿軍しんがりに残るなどというのは下策以前の問題なのだ。そんなことを平然と行うのは……」

 マーシャル殿下が戦う姿を見るのは初めてよね、とアタシはぼんやりと思う。帯剣を片手にトラックから降りた彼女は、清々しいばかりの笑顔を浮かべてこちらに向き直る。

「……王国うち元勇者ちちくらいだと思っていた」

 褒められてるんだか貶されてるんだかわからないけど、ここは笑顔で頷くだけに留める。人狼軽歩兵の方に向き直ると、手招きして指示を出す。

「あなた、名前は……ええと、ファニ?」

「はッ、魔王領海軍ファニオ上等海兵であります!」

 狼というよりどこか日本犬のような愛嬌のある顔。両手に短剣を持って人懐っこい笑顔を浮かべている。状況は把握しているようだが、怖れる様子はない。
 アタシはスラムの境界線らしい崩れかけた木の門を指す。

「悪いけど、あの柵を越えて車輛に接近してくる敵を排除して。機関銃で援護するから、車体からは離れないでね。イグノちゃん、誤射にだけは注意して」

「問題ありません。あの柵は越えさせませんから」

 頼もしいこと。アタシは懐の拳銃を確認すると、小銃を抱えて走り出した。背後から思い出したようにイグノちゃんが叫ぶ。

「魔王陛下、ひとつ覚えておいてください!」

 ――アタシが手にした小銃には、最後の手段“バーストファイア”があるのだと。
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