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序章
1、あたし旅立ちます①
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あたしの家は、クラーワ王国の東に位置する港街の外れ、海と森に囲まれた処にある。この地を治める者の住まいなだけはある立派な広い屋敷だ。まあ、常時住んでいるのはあたしだけだが。
あたしはここで、世話をしてくれる使用人達に囲まれ育ってきた。
家族はいる。血の繋がった家族だ。死に別れたわけではない。
お父様、母様、兄様、あたしの4人。
ただ、家族は存在するが一緒に過ごした記憶は少ない。
あたしが6歳になる前、体が弱った母様は療養のため家をでることになった。あたしを産んだ事で、元来大きかった魔力が枯渇し体調を崩しやすくなった事が原因らしい。
――記憶の中の母様は、いつも笑ってくれていたが何処か辛そうでもあった。だから、お父様はあたしに笑いかけてくれないのだろうか――
何時でも、無表情で無口。眉間に深くシワを寄せた不機嫌顔のお父様。母様以外に笑かけるのを目にしたことすらない。そんな父親と心を通わせようとする事なんて、もうとっくに諦めがついている。物心ついた頃には、母様と家を守っているだけで十分だと思う様になっていた。
あたしだって当たり前のように親に愛されたい想いはあったけれど、母様の魔力を奪ってしまったあたしはそれを望んではいけないのだと思っていた。だから、ただじっとここで過ごすのだと。
でもあたしは1人ぼっちじゃなかった。だって、兄様がいた。両親のいない家で寂しがる幼い頃のあたしを、何時も大切だと、大好きだとしつこい位構ってくれた4つ歳のはなれた大好きなあたしの兄様。その兄様も――。
母様の生家を継ぐ勉強の為に兄様がここを出たのは、あたしが11歳の時だった。
あれから4年、
あたしは家を出ることになった。
それは、突然の出来事だった。
ずっとこの地に閉じ込められて、大好きな人達に置いていかれて、外の世界には出られないのかと思っていた。ずっと同じ場所で、誰かの帰りをひたすら待って、母様の為に祈っていなくてはいけないのだと、それだけしかしてはいけないのだと、それが母様の健康を奪ってしまったあたしの義務なのだと、そう思っていた。
のだが、先日の出来事であたしが閉じ込められるように育てられたのは、どうやらあたしの思いとは違う理由があったのだと知ることができた。
誰に言われたわけでもないあたしの思いは現実と少し違っていたけれど、先日知った事実に喜びが湧く訳でなく、何だか心はまだモヤモヤしている。
――じゃぁ、何でお父様はあたしに笑いかけてくれないの?
――なんでずっと母様に会う事が出来ないの?
――兄様が帰ってこないのは、どうして?
――なんであたしは独りなの?
――大体なんで……っ
晴れない思いはまだあるが、留まる事なく自身で前に進む事が出切るのは素直に嬉しい。
荷物は、キャスターの付いたお気に入りの鞄に詰め込んだ。動きやすい様に冒険者を真似た格好に着替え、鞄を引きずり、屋敷のエントランスに降りる。
そこに、数人の使用人が待っていてくれた。心優しい彼ら。血は繋がらないけれど、彼らからすればただの雇い主の娘なだけなのかもしれない。けれど彼等の存在は、確かにあたしの支えの一つだった。少しひねくれているかもしれないけれどあたしが人を恨む様に育たなかったのは、彼等の存在が大きいと思う。
父に家を出るか、時がきたら黙って知らない誰かに嫁ぐか、選択を迫られたのは昨日。既に別れは済ませてある。
「皆、お世話になりました」
「「「いってらっしゃいませ セリーナ様」」」
セリーナ・ステラ・スペンサー男爵令嬢。15歳。それがあたしだ。
お父様は商家の出だが功績を積みスペンサー男爵となった。陰では財で爵位を買ったとも言われているが、本人はただ最愛の女性を手に入れる為相当頑張ったのだと言える。
母様は名門ガーランド侯爵家の一人娘。しかも少し薄い色合いだがガーランドの血が濃く表れていると云われる、銀色の髪を持って産まれた侯爵家の姫様だ。
現在はお爺様が当主を務め、孫であるあたしの兄ヒューバート・G・スペンサーを跡取りとして教育されているが、現在実務的な事はお父様が取り仕切り、実際はお父様が婿に入ったようなものらしい。ただ、伝統あるガーランド侯爵家では、当時栄えている商家だとはいえ平民だったお父様を当主に据える事が出来なかった。ガーランド侯爵家ではない貴族たちがうるさかったのだ。その為、形として領地内の男爵として迎え入れたのである。なので実際、現在ガーランド家を支えているのはお父様は裏の当主だとも言われている。
――このスペンサー男爵家当主とその夫人
――それを手に入れる為に、お父様も母様も苦労したんだろうなぁ
――今でも素敵な恋物語だって、婦女子の憧れの夫婦らしいし
――そういえば今度、2人の石像建てて恋愛成就の観光スポットを作ろうって話もあるって聞いたしな…
――なのに、当の2人はここにはいない……
――皆で一緒暮らしていた時は、母様はもちろんお父様も笑顔だったのにな
あたしはここで、世話をしてくれる使用人達に囲まれ育ってきた。
家族はいる。血の繋がった家族だ。死に別れたわけではない。
お父様、母様、兄様、あたしの4人。
ただ、家族は存在するが一緒に過ごした記憶は少ない。
あたしが6歳になる前、体が弱った母様は療養のため家をでることになった。あたしを産んだ事で、元来大きかった魔力が枯渇し体調を崩しやすくなった事が原因らしい。
――記憶の中の母様は、いつも笑ってくれていたが何処か辛そうでもあった。だから、お父様はあたしに笑いかけてくれないのだろうか――
何時でも、無表情で無口。眉間に深くシワを寄せた不機嫌顔のお父様。母様以外に笑かけるのを目にしたことすらない。そんな父親と心を通わせようとする事なんて、もうとっくに諦めがついている。物心ついた頃には、母様と家を守っているだけで十分だと思う様になっていた。
あたしだって当たり前のように親に愛されたい想いはあったけれど、母様の魔力を奪ってしまったあたしはそれを望んではいけないのだと思っていた。だから、ただじっとここで過ごすのだと。
でもあたしは1人ぼっちじゃなかった。だって、兄様がいた。両親のいない家で寂しがる幼い頃のあたしを、何時も大切だと、大好きだとしつこい位構ってくれた4つ歳のはなれた大好きなあたしの兄様。その兄様も――。
母様の生家を継ぐ勉強の為に兄様がここを出たのは、あたしが11歳の時だった。
あれから4年、
あたしは家を出ることになった。
それは、突然の出来事だった。
ずっとこの地に閉じ込められて、大好きな人達に置いていかれて、外の世界には出られないのかと思っていた。ずっと同じ場所で、誰かの帰りをひたすら待って、母様の為に祈っていなくてはいけないのだと、それだけしかしてはいけないのだと、それが母様の健康を奪ってしまったあたしの義務なのだと、そう思っていた。
のだが、先日の出来事であたしが閉じ込められるように育てられたのは、どうやらあたしの思いとは違う理由があったのだと知ることができた。
誰に言われたわけでもないあたしの思いは現実と少し違っていたけれど、先日知った事実に喜びが湧く訳でなく、何だか心はまだモヤモヤしている。
――じゃぁ、何でお父様はあたしに笑いかけてくれないの?
――なんでずっと母様に会う事が出来ないの?
――兄様が帰ってこないのは、どうして?
――なんであたしは独りなの?
――大体なんで……っ
晴れない思いはまだあるが、留まる事なく自身で前に進む事が出切るのは素直に嬉しい。
荷物は、キャスターの付いたお気に入りの鞄に詰め込んだ。動きやすい様に冒険者を真似た格好に着替え、鞄を引きずり、屋敷のエントランスに降りる。
そこに、数人の使用人が待っていてくれた。心優しい彼ら。血は繋がらないけれど、彼らからすればただの雇い主の娘なだけなのかもしれない。けれど彼等の存在は、確かにあたしの支えの一つだった。少しひねくれているかもしれないけれどあたしが人を恨む様に育たなかったのは、彼等の存在が大きいと思う。
父に家を出るか、時がきたら黙って知らない誰かに嫁ぐか、選択を迫られたのは昨日。既に別れは済ませてある。
「皆、お世話になりました」
「「「いってらっしゃいませ セリーナ様」」」
セリーナ・ステラ・スペンサー男爵令嬢。15歳。それがあたしだ。
お父様は商家の出だが功績を積みスペンサー男爵となった。陰では財で爵位を買ったとも言われているが、本人はただ最愛の女性を手に入れる為相当頑張ったのだと言える。
母様は名門ガーランド侯爵家の一人娘。しかも少し薄い色合いだがガーランドの血が濃く表れていると云われる、銀色の髪を持って産まれた侯爵家の姫様だ。
現在はお爺様が当主を務め、孫であるあたしの兄ヒューバート・G・スペンサーを跡取りとして教育されているが、現在実務的な事はお父様が取り仕切り、実際はお父様が婿に入ったようなものらしい。ただ、伝統あるガーランド侯爵家では、当時栄えている商家だとはいえ平民だったお父様を当主に据える事が出来なかった。ガーランド侯爵家ではない貴族たちがうるさかったのだ。その為、形として領地内の男爵として迎え入れたのである。なので実際、現在ガーランド家を支えているのはお父様は裏の当主だとも言われている。
――このスペンサー男爵家当主とその夫人
――それを手に入れる為に、お父様も母様も苦労したんだろうなぁ
――今でも素敵な恋物語だって、婦女子の憧れの夫婦らしいし
――そういえば今度、2人の石像建てて恋愛成就の観光スポットを作ろうって話もあるって聞いたしな…
――なのに、当の2人はここにはいない……
――皆で一緒暮らしていた時は、母様はもちろんお父様も笑顔だったのにな
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