上 下
29 / 95
序章

10-2

しおりを挟む
 案外すんなりと城門までたどりついたのだが……やはり門前で帰されてしまった。

 ――ラジット小父様のいっていた通りね

 門番の気のよさそうな壮年の騎士が言うには、本日の魔導騎士団が客人を受け付けていないこと、その上現在の時間は事前に申請のあるもの以外城内に入れない時間だと言うことだ。
 そう言われて見上げた空は薄暗くなりはじめていて、西の空が茜色に染まっていた。もう、数刻で辺りは暗くなる事だろう。

「いつの間にか、もう夕方なのね…」

 ポツリと呟くと、壮年の門番が宿の心配をしてくれた。若い娘にも安全なおすすめの宿を教えてくれた。そこは1階が食堂、2階が泊まれる部屋になっていて女主人が切り盛りしているヤドリ木亭というにの食堂兼、宿屋だそうだ。

『ふぅん、ヤドリギ亭ね…ラジットが言ってたとこと同じってことね』
『よっぽど良いとこなのか、他は危ないのか、どっちかしらね?』

 スピカの囁きに答えると、ふわりと暖かい風が吹き壮年の門番が指差した方角に向かっていった。
その後に続く前に、明日は朝一で訪ねる旨を伝え、念のため門の開く時間を確認した。また明日と笑う壮年の騎士は手を振って見送ってくれる。きちんと記録を残してくれるようなので、明日はすんなり入れるかもしれない。

 城門はそれなりに賑わっていた。主に出て行く方で。その多くの人は帰路についているようだった。人の流れに交じって歩く。すると、その何人かがセレナを目にとめ話のネタにしているのが聞こえてくる。

 ――あまり、注目浴びたくないな…
 ――あたしの足が目の毒って、そんな悪くないと思うんだけどな…

 なんだか腹が立って門番に手を振る様に振り返ってみた。グレイの髪のひょろ長い感じの青年と、赤茶のくりくり頭の同じ年頃の青年が目の端に写った。

 ――人の事とやかく言う割に、ふつうの人だ…
 ――つり目だけど、ルーのがよっぽど見栄えがするなっ
 ――うちの子達が皆綺麗な顔してるから、そう気にならなかったけど……
 ――ルーって結構……イケメン?
 ――……つり目だけどねっ

後ろを歩いている輩と目が合う前に、まだ見送ってくれていた壮年の騎士に手を振ると再び踵を返し、城下町へと足を動かした。茜色に染まる町並みは、城が小高い場所に有るので門前からでもきれいに見渡せた。

 ――きれいだな

 城下町へ続く階段を降りていくがまだ、少しの視線を感じる。セレナはキョロキョロせず、スピカに辺りを警戒してもらいながら足を進めた。

しおりを挟む

処理中です...