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本章 ――魔導騎士団の見習い団員――
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北の山の方から爽やかな風が吹きセレナの金色の髪をすくう。背を押される様に前を見て走るセレナ。
息があがってくるが、だんだんランニングにも慣れてきたので少しだけ走るのも心地いい。今日のゴールまではあと少しだ。
――そう言えば……
――この中央騎士団の中には、魔導騎士団を目指してる人もいっぱいいるのよね…
――ポッとでのあたしなんて、目障りじゃないのかな…
中央騎士団とは王都を中心に活動している騎士団で、城壁内や城下町での警備や治安維持を行っている。そして 、魔導騎士団の指揮下に入っているのだ。
本来であればここで鍛錬を積み魔術を心得たものが魔導騎士団の入団テストに参加できる。その為、突然現れ特別に入団テストの場を設けてまで魔導騎士団に入団を許されたセレナをやっかむ声も確かにある。
セレナがもう少し幼ければルイスやラルフの入団時の様に、圧倒的に魔力が多きすぎて訓練を兼ねて魔導騎士団に保護されているともとれるのだが、セレナはそう言う子よりは少しばかり年が上である。
先を走っていたラルフは既にゴールしたようでセレナに手を振って先に城壁を降りて行くようだ。セレナも軽く手を振ってこたえ、自分も急ごうとグッと足に力を入れる。
――ラルフ、足早いなぁ…
――一緒にランニングする意味あるのかな……?
――可愛く笑って『セレナさんとも仲良くなりたいんでっ!』とか言ってたけど…
――城壁の上にあがりたかったのかな?
――子供だもんねっ…フフッ
――でも、完全に足引っ張ってるよねあたし…
――魔導騎士団を目指して頑張っている人達にも、
――…ちゃんと認めてもらえるように、もっともっと頑張らないとなっ
ランニングを終え、セレナも魔法の演習に加わる。ラルフは既に演習に参加していて相棒のティモシーという少年と並んでいる。ラルフとティモシーは同い年の様で、平民と侯爵家という身分に差はあるが仲がいい。因みにティモシーは現王の妹の子でルイスの従弟にあたる。
ランニングから戻り息を整え、セレナも自分と魔法との相性のいい連携を探りたいところだが、とりあえずはまわりの魔法と実力の確認作業が主になっている。セレナが魔法を使う事への魔導騎士団長であるラジットの許可が、まだ下りていないのだ。
「セレナちゃんは、魔法使わないのか?」
「どんな魔法なんだ?」
「出し惜しみしないで見してくれよっ」
訓練に参加した当初は、周りを囲まれ騎士団の仲間にねだられたり、強いられたりされたが、なんとも言えなかった。どのような説明をすればいいのか、どの魔法を見せてもいいのか、まだ決まっていないからだ。
――どうしよっかな…
――うぅん…
その時、特別いい誤魔化しも浮かばず、困ったセレナはポロッと言ってしまった。
「…えっとぉ…まだラジット団長の許可が…」
「!? なんだ、制御が難しいのかっ!」
「そりゃ、大変だっ そんなに魔力が高いのかっ!!」
「団長がまだってんなら、仕方ねぇなっ」
魔導騎士団長のラジットは、セレナを自分よりも魔力の大きな貴重な存在だと紹介していた。ラジット団長からの言葉と、セレナの口から出た言葉を聞いた面々は、なんだか勝手に想像して納得してくれたようだ。
「あぁあ、あたしも魔法の訓練に加わりたい……っ」
「……レナは、筋トレだぞ」
魔法のぶつかり合う訓練場の片隅で、金髪の少女は唸りながら体幹トレーニングに勤しむのだ。そして、傍らに立つ朱色の髪の男が頼んでもいないのに熱心に筋トレの指導をしてくれるのだ。
セレナがぐったりとした処でちょうど、訓練が終わる。
*
*
*
午前中の訓練の後は、特別の要請があれば指名された担当者が向かい、それ以外の者は詰所に待機する者、前日からの勤務で休みに入る者、午後の訓練に向かうものとに別れる。その他にそもそも1日休みの者もいる。つまり4隊に分かれた交代制で、1日訓練(予備勤務)→次の日までの勤務→午後から休み→一日休み→一日訓練→と続いていくのだ。
因みに、1日訓練の日で午後の訓練に向かうものは魔の森での魔物の個体数の調整討伐も訓練に含まれている。
だが、セレナはまだ午後の勤務にはついていない。騎士服が仕上がっていなかったのに加え城内の把握などもできていないので、そういう教育が先になっている。いわゆる見習い期間だ。
そして、それは突然の事だった。
今日の訓練も終わり一度詰め所に戻ろうかと言う時、セレナの元にスピカが慌てた様子で飛んできた。
『姫大変よっ!!』
「え……?」
スピカの切羽詰まった様子にセレナが耳を傾けるとスピカが叫んだ。
『嵐が来るわっ! それも特大の大嵐よ!!』
「大嵐っ!?」
その言葉とほぼ同時にあたりが暗くなり、暗雲が立ち込める。雰囲気の話ではなく本当に見渡す限りの空が真っ黒な雲に覆われている。強い風が吹き、降りだした大粒の雨が暴風に巻き込まれ、嵐となって襲ってくるようだ。
慌てて詰め所に戻ってきた魔導騎士団に、緊急の要請が相次ぐ。
魔の森へ探索に入っている者達への避難を知らせに向かう者。倒壊しかけそうな建物からの救助要請。など 、休み関係なく粗方の団員達が要請を受けて出動する中、セレナは傍らに佇むルイスを見上げた。
「朝はいい天気だったのにね」
「……だな」
ガタンバンバンと詰め所を叩きつける雨音が、その嵐が尋常ではないことを物語っている。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ラルフ・フーシェ → 13歳・男・群青色の髪に真っ黒な目・小柄で愛想がいいので人当たりが良い。
実は狼の獣人。変化の魔法、狼に変身して戦う。今は平民だが、3年前までは伯爵令息だった。父親が治める領内で獣人と人間とで争いがおきその際責任を取らされ爵位が取り上げられた。5歳上の兄は王都でギルドに所属していて、両親と残り3人の弟は友人を頼ってガーランド領のラウルスの街近くに住んでいる。
※王都やガーランド領では種族間の差別がないと言っていい程少ないが、他領ではそうでないところもある。
ティモシー・レイナード → 13歳・男・ダークグレーの髪にペールラベンダーの目。まつ毛が長くお人形さんのような見た目で、女子に間違われることがある。それがコンプレックス。実はルイスのお目付け役と言われているが、結構どうでもよくって普段はほったらかし。姉がいて、姉も魔導騎士団に所属している。頭脳派で理屈っぽい。特に秀でたものはなく、魔法は全般器用にこなす。
シリウス→大犬座の星獣・風
エリアス→宝瓶宮水瓶座の星獣・風
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
宣言通りとはいかず、短かった……すみません続きます~。
なんか番外編のプロット書いてしまってました…先代の星獣の姫カーラのお話とか、ルーの両親の話とか…。
その内ご拝読いただければと思うんですが、カーラのお話は書いたらR指定だった。
公開出来たとしても別にする事になるかな? と思っています←大丈夫かな…
まぁ、そのうちです。
また来週っ_(._.)_
息があがってくるが、だんだんランニングにも慣れてきたので少しだけ走るのも心地いい。今日のゴールまではあと少しだ。
――そう言えば……
――この中央騎士団の中には、魔導騎士団を目指してる人もいっぱいいるのよね…
――ポッとでのあたしなんて、目障りじゃないのかな…
中央騎士団とは王都を中心に活動している騎士団で、城壁内や城下町での警備や治安維持を行っている。そして 、魔導騎士団の指揮下に入っているのだ。
本来であればここで鍛錬を積み魔術を心得たものが魔導騎士団の入団テストに参加できる。その為、突然現れ特別に入団テストの場を設けてまで魔導騎士団に入団を許されたセレナをやっかむ声も確かにある。
セレナがもう少し幼ければルイスやラルフの入団時の様に、圧倒的に魔力が多きすぎて訓練を兼ねて魔導騎士団に保護されているともとれるのだが、セレナはそう言う子よりは少しばかり年が上である。
先を走っていたラルフは既にゴールしたようでセレナに手を振って先に城壁を降りて行くようだ。セレナも軽く手を振ってこたえ、自分も急ごうとグッと足に力を入れる。
――ラルフ、足早いなぁ…
――一緒にランニングする意味あるのかな……?
――可愛く笑って『セレナさんとも仲良くなりたいんでっ!』とか言ってたけど…
――城壁の上にあがりたかったのかな?
――子供だもんねっ…フフッ
――でも、完全に足引っ張ってるよねあたし…
――魔導騎士団を目指して頑張っている人達にも、
――…ちゃんと認めてもらえるように、もっともっと頑張らないとなっ
ランニングを終え、セレナも魔法の演習に加わる。ラルフは既に演習に参加していて相棒のティモシーという少年と並んでいる。ラルフとティモシーは同い年の様で、平民と侯爵家という身分に差はあるが仲がいい。因みにティモシーは現王の妹の子でルイスの従弟にあたる。
ランニングから戻り息を整え、セレナも自分と魔法との相性のいい連携を探りたいところだが、とりあえずはまわりの魔法と実力の確認作業が主になっている。セレナが魔法を使う事への魔導騎士団長であるラジットの許可が、まだ下りていないのだ。
「セレナちゃんは、魔法使わないのか?」
「どんな魔法なんだ?」
「出し惜しみしないで見してくれよっ」
訓練に参加した当初は、周りを囲まれ騎士団の仲間にねだられたり、強いられたりされたが、なんとも言えなかった。どのような説明をすればいいのか、どの魔法を見せてもいいのか、まだ決まっていないからだ。
――どうしよっかな…
――うぅん…
その時、特別いい誤魔化しも浮かばず、困ったセレナはポロッと言ってしまった。
「…えっとぉ…まだラジット団長の許可が…」
「!? なんだ、制御が難しいのかっ!」
「そりゃ、大変だっ そんなに魔力が高いのかっ!!」
「団長がまだってんなら、仕方ねぇなっ」
魔導騎士団長のラジットは、セレナを自分よりも魔力の大きな貴重な存在だと紹介していた。ラジット団長からの言葉と、セレナの口から出た言葉を聞いた面々は、なんだか勝手に想像して納得してくれたようだ。
「あぁあ、あたしも魔法の訓練に加わりたい……っ」
「……レナは、筋トレだぞ」
魔法のぶつかり合う訓練場の片隅で、金髪の少女は唸りながら体幹トレーニングに勤しむのだ。そして、傍らに立つ朱色の髪の男が頼んでもいないのに熱心に筋トレの指導をしてくれるのだ。
セレナがぐったりとした処でちょうど、訓練が終わる。
*
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午前中の訓練の後は、特別の要請があれば指名された担当者が向かい、それ以外の者は詰所に待機する者、前日からの勤務で休みに入る者、午後の訓練に向かうものとに別れる。その他にそもそも1日休みの者もいる。つまり4隊に分かれた交代制で、1日訓練(予備勤務)→次の日までの勤務→午後から休み→一日休み→一日訓練→と続いていくのだ。
因みに、1日訓練の日で午後の訓練に向かうものは魔の森での魔物の個体数の調整討伐も訓練に含まれている。
だが、セレナはまだ午後の勤務にはついていない。騎士服が仕上がっていなかったのに加え城内の把握などもできていないので、そういう教育が先になっている。いわゆる見習い期間だ。
そして、それは突然の事だった。
今日の訓練も終わり一度詰め所に戻ろうかと言う時、セレナの元にスピカが慌てた様子で飛んできた。
『姫大変よっ!!』
「え……?」
スピカの切羽詰まった様子にセレナが耳を傾けるとスピカが叫んだ。
『嵐が来るわっ! それも特大の大嵐よ!!』
「大嵐っ!?」
その言葉とほぼ同時にあたりが暗くなり、暗雲が立ち込める。雰囲気の話ではなく本当に見渡す限りの空が真っ黒な雲に覆われている。強い風が吹き、降りだした大粒の雨が暴風に巻き込まれ、嵐となって襲ってくるようだ。
慌てて詰め所に戻ってきた魔導騎士団に、緊急の要請が相次ぐ。
魔の森へ探索に入っている者達への避難を知らせに向かう者。倒壊しかけそうな建物からの救助要請。など 、休み関係なく粗方の団員達が要請を受けて出動する中、セレナは傍らに佇むルイスを見上げた。
「朝はいい天気だったのにね」
「……だな」
ガタンバンバンと詰め所を叩きつける雨音が、その嵐が尋常ではないことを物語っている。
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ラルフ・フーシェ → 13歳・男・群青色の髪に真っ黒な目・小柄で愛想がいいので人当たりが良い。
実は狼の獣人。変化の魔法、狼に変身して戦う。今は平民だが、3年前までは伯爵令息だった。父親が治める領内で獣人と人間とで争いがおきその際責任を取らされ爵位が取り上げられた。5歳上の兄は王都でギルドに所属していて、両親と残り3人の弟は友人を頼ってガーランド領のラウルスの街近くに住んでいる。
※王都やガーランド領では種族間の差別がないと言っていい程少ないが、他領ではそうでないところもある。
ティモシー・レイナード → 13歳・男・ダークグレーの髪にペールラベンダーの目。まつ毛が長くお人形さんのような見た目で、女子に間違われることがある。それがコンプレックス。実はルイスのお目付け役と言われているが、結構どうでもよくって普段はほったらかし。姉がいて、姉も魔導騎士団に所属している。頭脳派で理屈っぽい。特に秀でたものはなく、魔法は全般器用にこなす。
シリウス→大犬座の星獣・風
エリアス→宝瓶宮水瓶座の星獣・風
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宣言通りとはいかず、短かった……すみません続きます~。
なんか番外編のプロット書いてしまってました…先代の星獣の姫カーラのお話とか、ルーの両親の話とか…。
その内ご拝読いただければと思うんですが、カーラのお話は書いたらR指定だった。
公開出来たとしても別にする事になるかな? と思っています←大丈夫かな…
まぁ、そのうちです。
また来週っ_(._.)_
応援ありがとうございます!
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