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4 困惑と動悸の日々
4‑18 逃げる騎士達
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✴
「そうだね? エステル」
急に振られて焦ったけれど、間違いはなかったので、頷く。
「基本的には自分のキャパシティを超えては昇華できないので、一族の外には知られていません。わたくしは、守護精霊がこの光の精霊ルヴィラだったので、多少の浄化が出来るのです。それも、この地に定着してしまっては、聖教会の大司教級の聖職者が神聖魔法を使わないと浄化出来なくなります。ので、今回は、スピード勝負ですね」
「え? ごめん、呼び止めちゃった」
「仕方あるまい? 説明無しに進む訳にもいかないだろう?」
「ん、まぁそうだけど」
「魔物や魔獣の残党は、リクと辺境伯に任せる。事の報告書には、わたしの灼熱魔法が光の属性を帯びていたため、瘴気にならずに昇華した、という事にしておいてくれ」
「いいけど、エステルの活躍は秘密のままでいいの? 功績を称えて報奨とか、陛下から労いのお言葉とか。精霊の力を借りるにしても、何の負担もない訳じゃないんデショ? むしろ、身の内に受け止められるだけのってことは、結構負担なんじゃないの?」
「だから、他人には知られたくない。能力を超えた期待をされても困るし、聖教会と揉めたくないしな」
「⋯⋯⋯⋯聖女?」
「そうやって担ぎ上げられると問題しかないから、他言無用だと言うんだ」
「光の精霊の守護で浄化や回復士と同じ事が出来るなんて、聖典に出て来る聖女様みたいだね」
「あれはアァルトネン一族の娘の話だ。一度は聖教会に預けたが、アァルトネン一族の血を繋ぐため婚姻──還俗させる時に聖教会が渋って、聖教会と王家が対立したらしい。以来、面倒だから、アァルトネン一族の体質のことは、王家と一族以外には秘密なんだ」
「兄上はいいね。素敵な精霊使いさまがお友達で。うちの騎士団にも欲しいよねぇ」
「そういうのが困るから、秘密なんだよ?」
「解ったよ。報告書には、兄上の光属性の灼熱魔法が効いた事にしておく。痕跡である程度は信じさせられるでしょ」
「頼む」
「僕の第一師団にも、アァルトネン一族の子が居たはずだから、いつかそれとなく聞いてみようかな?」
「今の他言無用の誓約が制約になって、言葉に乗せられないんじゃないか?」
「うーん、そうかも。有望な子ではあるから、それとなく様子を見ていよう」
後日、精霊魔法について色々聞きたいと言うリクハルド殿下と場を設ける約束をして、狂行進発生源と思われる森へ急ぐ事にした。
꙳꙳꙳
「エリオス殿下、体調やご気分がよくならないですか? 少し魔力譲渡をしましょう」
辺境伯家の抱える騎士団が、狂行進の澱や、負や冥の魔素にあてられて魔獣と化しつつある野獣の処理を行っている現場まで来た時、ここまで連続して灼熱魔法を使った影響か、殿下の顔色が酷く、大地を踏みしめる御御足がツラそうだった。
「いや、この先の発生源の浄化まで温存しておいて欲しい。聖教会が浄化専門の祓魔士を派遣する前に膨れ上がると手に負えなくなるかもしれない」
「わたくしでは浄化しきれるかは⋯⋯」
「尚更だよ」
そう言われてしまっては、従うしかない。
確かに、森の奥へ向かう小径の先に、よくない気配が溜まっている。
精霊達も、行かない方がいいと伝えてくる。
そう思っても、殿下が国のために、民のために浄化しておきたいと言うのなら、後込みする事も出来ず、殿下に続いて森へ入る。
数分もしない内に、奥で騒ぐ声がする。
「ダメだ!! 退避しろ!!」
あの声は、聞き覚えがある。
辺境伯家次男で騎士団第二師団──嫡男の率いる第一師団が国防の国境警備隊なのに対し、こちらは国内で、民のために魔獣の脅威から守る魔獣・魔物専門の討伐隊──の長サムエルの号令で、隊員が退避してくる。
まずは騎馬が数名、早駆けで私達の側を駆け抜け、森の外へ。伝令かしら?
その後、鎧姿の十数名が必死の形相で駆けてくる。
「何かあったな」
エリオス殿下の目が眇められ、私もこの先のよくない気配に気を向ける。
騎士達の一団の最期に、鎧装の黒馬に乗ったサムエル様が殿として後ろを振り返り振り返り逃げてくる。
何から?
「エリオス殿下!? ここは危険です!! お下がりください。我ら魔物専門の討伐隊で歯が立たぬ魔物です。魔神級やもしれません」
「いや、魔神級がそうそうこんな辺鄙な場所には現れるまい。来るなら人が多い商業都市や王都だろう」
そうなれば、災害級の被害が出るに違いないので、縁起でもないことは言わないで欲しい。
「心配するな。無理はしない。レディも居ることだし。現状を把握するだけだから。お前達は、万が一に備えて森の外と、辺境地の民を守る準備を」
私は、私達に好意的な精霊達に頼んで、精霊達による魔法障壁を作ってもらった。
「そうだね? エステル」
急に振られて焦ったけれど、間違いはなかったので、頷く。
「基本的には自分のキャパシティを超えては昇華できないので、一族の外には知られていません。わたくしは、守護精霊がこの光の精霊ルヴィラだったので、多少の浄化が出来るのです。それも、この地に定着してしまっては、聖教会の大司教級の聖職者が神聖魔法を使わないと浄化出来なくなります。ので、今回は、スピード勝負ですね」
「え? ごめん、呼び止めちゃった」
「仕方あるまい? 説明無しに進む訳にもいかないだろう?」
「ん、まぁそうだけど」
「魔物や魔獣の残党は、リクと辺境伯に任せる。事の報告書には、わたしの灼熱魔法が光の属性を帯びていたため、瘴気にならずに昇華した、という事にしておいてくれ」
「いいけど、エステルの活躍は秘密のままでいいの? 功績を称えて報奨とか、陛下から労いのお言葉とか。精霊の力を借りるにしても、何の負担もない訳じゃないんデショ? むしろ、身の内に受け止められるだけのってことは、結構負担なんじゃないの?」
「だから、他人には知られたくない。能力を超えた期待をされても困るし、聖教会と揉めたくないしな」
「⋯⋯⋯⋯聖女?」
「そうやって担ぎ上げられると問題しかないから、他言無用だと言うんだ」
「光の精霊の守護で浄化や回復士と同じ事が出来るなんて、聖典に出て来る聖女様みたいだね」
「あれはアァルトネン一族の娘の話だ。一度は聖教会に預けたが、アァルトネン一族の血を繋ぐため婚姻──還俗させる時に聖教会が渋って、聖教会と王家が対立したらしい。以来、面倒だから、アァルトネン一族の体質のことは、王家と一族以外には秘密なんだ」
「兄上はいいね。素敵な精霊使いさまがお友達で。うちの騎士団にも欲しいよねぇ」
「そういうのが困るから、秘密なんだよ?」
「解ったよ。報告書には、兄上の光属性の灼熱魔法が効いた事にしておく。痕跡である程度は信じさせられるでしょ」
「頼む」
「僕の第一師団にも、アァルトネン一族の子が居たはずだから、いつかそれとなく聞いてみようかな?」
「今の他言無用の誓約が制約になって、言葉に乗せられないんじゃないか?」
「うーん、そうかも。有望な子ではあるから、それとなく様子を見ていよう」
後日、精霊魔法について色々聞きたいと言うリクハルド殿下と場を設ける約束をして、狂行進発生源と思われる森へ急ぐ事にした。
꙳꙳꙳
「エリオス殿下、体調やご気分がよくならないですか? 少し魔力譲渡をしましょう」
辺境伯家の抱える騎士団が、狂行進の澱や、負や冥の魔素にあてられて魔獣と化しつつある野獣の処理を行っている現場まで来た時、ここまで連続して灼熱魔法を使った影響か、殿下の顔色が酷く、大地を踏みしめる御御足がツラそうだった。
「いや、この先の発生源の浄化まで温存しておいて欲しい。聖教会が浄化専門の祓魔士を派遣する前に膨れ上がると手に負えなくなるかもしれない」
「わたくしでは浄化しきれるかは⋯⋯」
「尚更だよ」
そう言われてしまっては、従うしかない。
確かに、森の奥へ向かう小径の先に、よくない気配が溜まっている。
精霊達も、行かない方がいいと伝えてくる。
そう思っても、殿下が国のために、民のために浄化しておきたいと言うのなら、後込みする事も出来ず、殿下に続いて森へ入る。
数分もしない内に、奥で騒ぐ声がする。
「ダメだ!! 退避しろ!!」
あの声は、聞き覚えがある。
辺境伯家次男で騎士団第二師団──嫡男の率いる第一師団が国防の国境警備隊なのに対し、こちらは国内で、民のために魔獣の脅威から守る魔獣・魔物専門の討伐隊──の長サムエルの号令で、隊員が退避してくる。
まずは騎馬が数名、早駆けで私達の側を駆け抜け、森の外へ。伝令かしら?
その後、鎧姿の十数名が必死の形相で駆けてくる。
「何かあったな」
エリオス殿下の目が眇められ、私もこの先のよくない気配に気を向ける。
騎士達の一団の最期に、鎧装の黒馬に乗ったサムエル様が殿として後ろを振り返り振り返り逃げてくる。
何から?
「エリオス殿下!? ここは危険です!! お下がりください。我ら魔物専門の討伐隊で歯が立たぬ魔物です。魔神級やもしれません」
「いや、魔神級がそうそうこんな辺鄙な場所には現れるまい。来るなら人が多い商業都市や王都だろう」
そうなれば、災害級の被害が出るに違いないので、縁起でもないことは言わないで欲しい。
「心配するな。無理はしない。レディも居ることだし。現状を把握するだけだから。お前達は、万が一に備えて森の外と、辺境地の民を守る準備を」
私は、私達に好意的な精霊達に頼んで、精霊達による魔法障壁を作ってもらった。
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