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4 困惑と動悸の日々
4‑19 フクロウ熊
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📍
精霊達の、各属性と物理的な防御壁に囲まれた私達は、辺境警備隊が逃げ出した森の奥に向かった。
狂行進が通った跡を這うように、エリオス殿下が光属性の火を放つ。
精霊力が高く、アァルトネンの使う精霊術に近い光魔法なので、まわりの木々に延焼することなく、森の奥へ向かって、穢れや澱の凝りを灼いていく。
その後を、殿下と二人でゆっくり進んだ。
一歩進む毎に、穢れや澱の凝りが濃くなり、今にも瘴気に変わりそうだった。
瘴気になってしまったら、私では浄化しきれない。専門家の浄化魔法が必要になる。
私達は、狂行進を食い止めた現場から発生源へ向かって遡って進んでいたので、現場よりも穢れが生まれてから時間が経っていて、濃くなるのはわかるけれど、それにしても濃い過ぎる。
そして、辺境警備隊が逃げ出した森の奥から、木々が倒される音や、狂行進した魔物が薙ぎ倒した木や落ちた枝葉を踏みしめる音が、どんどん近づいてくる。
最初に見えたのは、喉元から胸にかけて沈む三日月のような色変わりの毛が目立つ、渋茶色の巨体。
二足歩行してはいるけれど、元は四つん這いだったと思われる形の後ろ脚。
背は高く三mほどある。一見すると立ちあがった熊の魔獣。
でも、力強く鋭い爪の前脚はなく、広げた猛禽の翼があり、首も熊のそれではなく鋭い嘴を持った梟の頭部である。
「オウルベア?(フクロウ熊)」
オウルベアは大昔の魔導師や錬金術師が創り出した熊と梟のキメラ(合成獣)が野生化したものである。
さほど知能が高いわけでも魔力が高いわけでもない。
ただ、凶暴で悪食大食漢というだけである。
あまり知能が高くない分、上手く立ち回れば罠にかけたり崖から落としたりする事も可能で(猛禽の翼を持ってはいるけれど、熊の胴体が重くて殆ど飛べない)、辺境警備の騎士達が斃せない敵では無いはず⋯⋯
そう思っていると、オウルベアは雄叫びをあげた。
ビリビリと空気が振動し、大地も震動する、軽い衝撃波を伴う雄叫びだった。
威圧の効果もあったけれど、その威力は私とエリオス殿下の魔力の強さの比ではなく、影響はない。
けれど、魔力耐性のない平民や精神攻撃に弱い人ならば、硬直してしまったり腰を抜かしたりするだろう。
そうして動けなくしておけば、彼らは楽々と獲物を食することが出来る。
辺境伯領の騎士達が、オウルベア如きの威圧に負けるとは思えない。
彼等が逃げ出す原因は、このオウルベアじゃないのだろうと思い、大気の精霊に電気ショックで気絶させるよう頼もうとした時──
まさかの、キメラ魔獣であるオウルベアが、巨体を持ち上げられなくても打撃力はかなり強い翼を羽ばたいて、つむじ風を起こし、風霊を纏わせて攻撃してきた。
自然の営みとは違う動きをさせられる精霊には感情による澱が出来る。いいものであれ、悪いものであれ、それはやがて変化し、凝って、良くない魔素に影響されてやがて瘴気になってしまう。
だから私達精霊魔法士は、自分達の霊気と魔力をエネルギーに、守護精霊と連携して精霊達に「魔法」を使って貰う上の礼儀として、彼らに生じた澱を浄化する。
だけど、魔素酔いで正気を失った魔族や冥府の者たち、魔法を使う魔物は、その浄化をしない。
出来ないのか出来るけどやらないのかは知らない。
このオウルベアの生み出したつむじ風に織り込まれた風霊達は、私──アァルトネンの人間や祖は血に連なる王族を傷つけたくないと悲鳴を上げている。
それは、耳を塞ぎたくなるような声だった──
精霊達の、各属性と物理的な防御壁に囲まれた私達は、辺境警備隊が逃げ出した森の奥に向かった。
狂行進が通った跡を這うように、エリオス殿下が光属性の火を放つ。
精霊力が高く、アァルトネンの使う精霊術に近い光魔法なので、まわりの木々に延焼することなく、森の奥へ向かって、穢れや澱の凝りを灼いていく。
その後を、殿下と二人でゆっくり進んだ。
一歩進む毎に、穢れや澱の凝りが濃くなり、今にも瘴気に変わりそうだった。
瘴気になってしまったら、私では浄化しきれない。専門家の浄化魔法が必要になる。
私達は、狂行進を食い止めた現場から発生源へ向かって遡って進んでいたので、現場よりも穢れが生まれてから時間が経っていて、濃くなるのはわかるけれど、それにしても濃い過ぎる。
そして、辺境警備隊が逃げ出した森の奥から、木々が倒される音や、狂行進した魔物が薙ぎ倒した木や落ちた枝葉を踏みしめる音が、どんどん近づいてくる。
最初に見えたのは、喉元から胸にかけて沈む三日月のような色変わりの毛が目立つ、渋茶色の巨体。
二足歩行してはいるけれど、元は四つん這いだったと思われる形の後ろ脚。
背は高く三mほどある。一見すると立ちあがった熊の魔獣。
でも、力強く鋭い爪の前脚はなく、広げた猛禽の翼があり、首も熊のそれではなく鋭い嘴を持った梟の頭部である。
「オウルベア?(フクロウ熊)」
オウルベアは大昔の魔導師や錬金術師が創り出した熊と梟のキメラ(合成獣)が野生化したものである。
さほど知能が高いわけでも魔力が高いわけでもない。
ただ、凶暴で悪食大食漢というだけである。
あまり知能が高くない分、上手く立ち回れば罠にかけたり崖から落としたりする事も可能で(猛禽の翼を持ってはいるけれど、熊の胴体が重くて殆ど飛べない)、辺境警備の騎士達が斃せない敵では無いはず⋯⋯
そう思っていると、オウルベアは雄叫びをあげた。
ビリビリと空気が振動し、大地も震動する、軽い衝撃波を伴う雄叫びだった。
威圧の効果もあったけれど、その威力は私とエリオス殿下の魔力の強さの比ではなく、影響はない。
けれど、魔力耐性のない平民や精神攻撃に弱い人ならば、硬直してしまったり腰を抜かしたりするだろう。
そうして動けなくしておけば、彼らは楽々と獲物を食することが出来る。
辺境伯領の騎士達が、オウルベア如きの威圧に負けるとは思えない。
彼等が逃げ出す原因は、このオウルベアじゃないのだろうと思い、大気の精霊に電気ショックで気絶させるよう頼もうとした時──
まさかの、キメラ魔獣であるオウルベアが、巨体を持ち上げられなくても打撃力はかなり強い翼を羽ばたいて、つむじ風を起こし、風霊を纏わせて攻撃してきた。
自然の営みとは違う動きをさせられる精霊には感情による澱が出来る。いいものであれ、悪いものであれ、それはやがて変化し、凝って、良くない魔素に影響されてやがて瘴気になってしまう。
だから私達精霊魔法士は、自分達の霊気と魔力をエネルギーに、守護精霊と連携して精霊達に「魔法」を使って貰う上の礼儀として、彼らに生じた澱を浄化する。
だけど、魔素酔いで正気を失った魔族や冥府の者たち、魔法を使う魔物は、その浄化をしない。
出来ないのか出来るけどやらないのかは知らない。
このオウルベアの生み出したつむじ風に織り込まれた風霊達は、私──アァルトネンの人間や祖は血に連なる王族を傷つけたくないと悲鳴を上げている。
それは、耳を塞ぎたくなるような声だった──
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