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テレーゼ様と私
68.テレーゼ様と同室で
しおりを挟む今回も、子供や嫁姑に関してセンシティブな表現が出て来ます
苦手な方は回避ください🙇
❈❈❈❈❈❈❈
「なぜ、曾祖母メヒティルデがあんなに脅えたか、なぜ、ギーゼラ・ロスヴィータ様が双子のことを言えなかったのか⋯⋯ 解ります?」
夜、ベッドが二つ設置された、花柄の壁紙の可愛らしい部屋に通された私は、テレーゼ様と同室だった。
続きの控えの間に、イルゼさんとテレーゼ様の侍女が休むことになっている。
隣の部屋は、お兄さまとクリスである。
お湯を使い、私はイルゼさんに、テレーゼ様はご自身の侍女に、長い時間馬車に揺られて凝り固まった身体をほぐしてもらう。
イルゼさんには申し訳ない気がするけれど、テレーゼ様の前では、今の私はアンジュリーネお嬢さまなのだ。
当たり前のような顔をして心の中で詫びつつ、湯とマッサージ後の火照った身体に、うつらうつらと眠りに落ちそうな頃、テレーゼ様が訊いてきた。
「特別な理由が?」
「ギーゼラ・ロスヴィータ様の産んだ男の子が双子、曾祖母達も双子」
「ええ」
「王家の系図にもいくつか双子の記載があるのですけれど、曾祖母の日記によると、その二倍から三倍は双子がいたそうですの」
記録にある倍以上の双子の存在。その意味。
「幽閉されたり、産まれてすぐ弑されたり、内密に養子に出されたって事でしょうか?」
「恐らく。男児でそっくりな双子なら影武者をさせられるし、男女でも、女児の方を、王家と繫がりを求める貴族に養子に出したでしょうね」
「普通に双子として育てられた記録もあるのでしょう?」
「ええ。比較的、国内情勢も落ち着いた頃ね。
双子は、国が豊かで落ち着いている時は神の子として育てられ、乱れていた時は凶兆として、片方をよくないものとして教会に預けたり、幽閉したみたい。
男女は、多くは昔から、陰と陽、月と太陽、影と光を象徴するものとして、女児が一緒に産まれた男児の光の未来に影を差すものとして嫌われていたらしいから、すぐに養子に出されたとあったわ。
弑せずそばに置かず、遠くに置いて、悪いものをその子に背負わせるのね。そうすることで、男児が守られると思われていたみたい。わたくしからしたら、馬鹿馬鹿しい話だけれど」
それでも、当時の親たちは、そうすることで、後継ぎを守ろうとしたのだろう。
とても悲しい、今の私達からみたらつまらない迷信だけれど、当時の大人達は真剣に信じて従ったのだろう。
「そうね。だからと言って、親が子を殺すだなんて、許される事ではないわ。
だから、メヒティルデ様とミリヤム様は、双子だったにも拘わらず、年子として育てられたのでしょう。
曾祖母が気がふれそうなほど脅えていたのは、迷信による不幸を招くとされた考え方や、過去の一部の片方の異常性が根底にあると思われるけれど」
けれど?
「どうも、嫁ぎ先の姑に、畜生腹の血筋だと言われて蔑まれていたからのようなの」
「え? 王家の王女なのに、降嫁先でそんな扱いを?」
「ヴァルデマール公爵家も、帝国やこの国が成り立つ前から続く古い家だから、当時の公爵夫人も、因習やしきたりを重視する、迷信も信仰の内だった古風な方だったのでしょうね。
それに、同じゲルマン民族が集まって帝国やこの国を形成してはいるけれど、一国家としての意識より、民族、氏族の団結の方が強くて、王家より古い一族としては、王女だから優遇ということはなかったのかもしれませんわ」
「でも、表向き年子として育てられたのでしょう? 公爵家では、本当は双子だと把握していたのでしょうか」
「恐らくしていたと思うわ。先祖代々受け継いできた領地内政の体制に、私設の騎士団があるのですけれど、その中に、草と呼ばれる部隊があって、屋敷にも駐屯地にも常駐していない人達がいるの」
「それって⋯⋯」
草。種が飛んで地に根を張り芽吹くもの。花咲き実を結び、再び種は飛んでいく。
「ええ。戦争でも商売でも政治でも。必要なのは戦力や財力だけではなく、知識と情報が重要なの。草と呼ばれる部隊は、その情報収集に特化した部隊なの。
だから、きっと、曾祖母が嫁ぐ前にあらゆる方向から調査済みだったでしょう」
テレーゼ様は、寂しそうな目をして続ける。
「実際に、父の三人いる下の弟は双子だし、ギーゼラ・ロスヴィータ様も双子の男の子を産んだ。双子の産まれた家系には、双子が産まれやすい体質があるのかもしれないわね」
「その、双子の叔父さまは今は?」
「兄の方は、父の仕事を手伝って、領地内の農場や牧場を総括しているわ。下の弟は、私が産まれる前に出奔して、今はどこにいるのか⋯⋯ 主人を持たない自由騎士をしていたと聞いてるわ」
「そうですか」
ギーゼラ・ロスヴィータお祖母さまの事は蒸し返すつもりはないと言いつつも、どうしてこうも双子の産まれやすい家系の話に拘るのか。
テレーゼ様は、まだ何か隠し玉を持っていて、いつか私の目の前に突きつけてくる──そんな気がした。
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