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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
52.妖精王と狼犬
しおりを挟む「飽きたって……」
私達の前に立っている、透明な人の脱け殻みたいなふわふわした物は、キラキラ光り出すと、小さく縮んでいき、一瞬消えたと思ったら、虹色の燐光の煌めく20㎝足らずの蝶が現れた。
《だぁってさあ? 神殿って言うクセに、空気は澱んでキモチワルイし、アイツら神官と名乗っていながら、穢れを追い払えないじゃない? 真面目に羽衣シテルのが馬鹿馬鹿しくなっちゃったのヨ」
これは、なんなんだろう。
虹色で燐光を散らす蝶々が、シャラランコロロンと耳障りのいい音で、コギャルみたいな発言をしている。
カインハウザー様は苦笑いで、ソファに腰を下ろし、優雅に、メイドの入れた香茶を啜る。
「あ、あの…… カインハウザー様?」
「いや、まったく、大神殿に関しては同意するね」
《カインハウザーだっけ? 判ってるじゃない。
アイツら神官どもは、神気を、マナを、ちっとも使い熟せてないし、金ピカや銀ギラギン集めるコトばっかり、馬鹿みたい》
虹色の蝶々は、燐光を散らしながらカインハウザー様のそばへ行き、おねだりをする。
《結構な間、羽衣のフリしてて肩凝っちゃったワ。ねえ、ハチミツ酒か、ローヤルゼリーや糖蜜で漬けた柔花の蕾はナイ?》
カインハウザー様は、私の蜂蜜でシロップ漬けにした、デザート用の飾り花を用意させた。
《アラ、美味シイじゃない? シロップに使ってる蜂蜜もただの蜂蜜じゃナイわネ。同胞の妖気を感じるワ》
蝶々は、お皿に盛られた蜜漬けの花をモシモシと食んでいく。ご機嫌である。
《アナタの、ブラウニーの蜂退治の恩恵の蜜ナノネ? 私も次から参加しようカシラ?》
随分、お喋りさんである。
「えっと、あなたは、羽衣や蝶に姿を変えられる能力を持つ妖精さん、でいいのかしら?」
《そうヨ、シオリ。今後もヨロシクね。これからもあなたの守護はしてアゲルから、蜜漬けの花をちょうだい? 毎晩ヨ?》
これは、妖精の取り引きというやつだろうか。
童話などで見る、妖精の持ちかける取り引きは、確かいい結果になる事は少ないように思ったけど。
「対価は、蜜漬けの花だけ?」
《ドウシテ?》
「あなたを疑う訳ではないけれど、私の知る童話なんかでは、妖精の持ちかける取り引きは、たいてい失う物が多いから……」
お手伝いを頼まれて了承すると、妖精界と人間界では時間の進み具合が違って、用事を済ませて帰宅したら何年も経っていたり、物を交換すると、良くない事が起きるようになったり。
《ソレは、ゴブリンやレプラコーンなんかの邪妖精デショ? ワタシ達は、そんな事シナイわヨ》
「そ、そうよね、ごめんなさい」
蝶々は、キラキラすると大きくなり、煌めく月のような色味の蝶の翅をもった美女に変わる。
《カインハウザーもシオリも、遠慮しないでワタシを女王と呼んでいいワヨ》
「女王さまなの?」
《そうヨ。カラカル地方の妖精達の最年長で、各種族の長を取り纏める女王ナノネ》
女王さまなのに、羽衣のフリして、人間界で守護してるの?
女王さまは、カインハウザー様の隣に座って、もしもしと蜜漬けの飾り花を食べながら、得意げに話している。
喉と口を使って声で喋る訳じゃないから、食事とお喋りが両立出来るのね。
《別に、人間みたいに、あれこれ縛りをつけて窮屈に我慢大会みたいな生活したり、お城で統治する訳じゃないからいいのヨ》
そういうもの?
話の途中だったけど、残念な事にカインハウザー様とリリティスさんは、街の主だった組合の幹部の人達が定例会議のために来たとの報せで退室し、私と女王さまと、アリアンロッドだけが残される。
メイドさんも居たけど、女王さまの食べた花の残り軸とお皿を片付けに出て行ってしまった。
新しい登場人物(?)にちょっと不安になったけれど、カインハウザー様が警戒するでもなく、私を残して出て行かれるので安全なんだろうと判断して、深呼吸した後、私もソファに腰をおろした。
《可愛いシオリがさぁ、アイツらに無視されてたデショ? 3人の小娘ばかり丁寧に扱って、本当に価値の解らない馬鹿に腹が立ってさ~》
馬鹿にされたりいいように使われないように、辺りにいる精霊に頼んで、アイツらにはシオリの事、なんにも解らないようにしてもらったのヨ。結果、嫌な目に合わせちゃってゴメンネ?
傾国の美女と言ってもいいような、妖艶さと儚げという、相反するような属性が違和感なく同居している美しさを持つ女性が、コテンと首を傾げ、甘えるように謝罪する姿は、反則のような気がする。許さないと言いづらい。
勿論、今更謝られても、怒る気にもなれない。
女王さまが精霊に干渉させて、検査水晶を攪乱させたおかげで神殿から放り出され、結果、カインハウザー様に拾われて、私は、この世界に召喚される以前よりもずっと、今は幸せなのだ。怒る要素などない。
むしろ、あそこにあのまま残っていたら、情緒不安定になっていた美弥子に嫌われ、神官達に不当な扱いを受けていたか、能力に目覚めたら、いつかカインハウザー様が言ったように、国のため穢れを祓い瘴気を浄化する、最前線での毎日を送らされていたかもしれないのだ。
むしろ、ここは感謝するところだろう。
そう伝えると、蕾が綻ぶようにパァッと表情が華やぎ、嬉しげに《ありがと》と言って笑った。
《よかった。とりあえず、気配を消して憑依してシオリを守護しながら様子を覗ってたけど、あの狼犬もワタシの気配に気づいてたみたいだったし、いつバレるかと冷や冷やしちゃったワ》
「え? シーグも、女王さまの気配に気づいて……た? の?」
《そりゃ、あの狼犬は、風と地の精霊の加護があるみたいだし? 狼のクセに生意気ヨネ。何度か精霊眼で目があったし、喋れるんならバラされるんじゃないかと思ったワヨ》
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次回、Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
53.妖精王と狼犬②
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