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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
23.妖精王なんです
しおりを挟むこのあたりでは、あまり妖精は見ないらしい。
「昔は結構いたんだけどねぇ」
果物や野菜を擂り下ろし、それを飲み物(こちらではスムージーとは言わないらしい)として店頭で売っている八百屋のおばさんが、サヴィアンヌを見て子を見守る母親のように目を細める。
* * * * * * *
「随分と大きい、気品のある妖精じゃないかい」
そう言って、イチヂクに果糖液をかけたものを差し出してきた。
もちろん、私もシーグも、注文なんかしてない。
露天通りを歩いていたら、突然の事である。
「妖精は、花や花の蜜を食べるんだろ?」
《種族にもよるケド、ワタシは蕾の蜜漬けが主食ヨ》
「イチヂクは、実に見えるかもしれないが、花の集合体なんだよ……って知ってるかね、大妖精なら」
《貰うワ》
うっとりと「ザ・美女!」って顔をして、サヴィアンヌが受け取る。
「いくらですか?」
「何言ってんだい? いつ、アタシが金を出せって言ったのかい」
「え、いえ……」
ただでいいのだろうか? ちょっと、いや、かなり驚いた。
「こちらから差し出しといて、相手が受け取ったら金を取るなんて、押し売りするほど落ちぶれちゃいないよ」
「すみません、大変失礼しました」
「まあ、急に差し出されちゃ、細かい事考える前に驚くか」
ハハハハハ……!!
さっぱりとした性格なのか、怒ってはいないみたい。
「代金をとらないのに、差し出したのか?」
シーグも不思議なのだろう。訊き返していた。
「昔は、そこかしこに妖精がいたもんだけど、最近じゃめっきり見なくなってね。まるで妖精の元締めのような、偉そうで女王様のように品のある妖精を見たもんだから、この辺もよろしく頼むよと、まあ、貢ぎ物のようなもんだね」
鋭い。というか、カラカル地方の妖精王なんです、サヴィアンヌは。言わないけど。
《アンタ、見る目アルワネ》
純粋に、嬉しそうに、目を細めるサヴィアンヌ。
「果物は、南東の高地から仕入れてるけど、野菜と花は、息子たちの畑で穫れたもんなんだ」
《花はよく育ってるけど、野菜に元気がないワネ?》
「花は、下の息子が、南の斜面で手広く育ててる。日もよく当たって、小妖精もたまに見かけるよ」
《いい花畑ナノネ》
そこまでは楽しげに話していたオバサンの、顔が急に曇りだす。
「何がいけないのかねぇ? 上の息子の、野菜畑の穫れ高も落ちて、鮮度はいいのになんとなく旨味も落ちてんだよねぇ。値を下げるか迷ってんだよ」
いい野菜じゃなくなったなら、今までと同じ値で売れないからね。
随分と正直で、自分の息子さん達の野菜や花に誇りを持ってる方なんだな。
《イチヂク、ゴチソウサマ。美味しかったワ。果糖もネ》
「そりゃよかった。気に入ったなら、またいつでも寄って行っておくれよ」
オバサンは歯を見せてにっかり微笑んで、他の客に呼び込みを始める。
その様子をしばらく見ていると、バスケットに昼食を用意した三十歳前後の女性が、背後から天幕に入ってくる。
「お義母さん、お昼をお持ちしました。店番代わりますから、休んでください」
おそらくどちらかの息子さんのお嫁さんなんだろう。耳の後ろで括った清潔そうな髪もそばかすも、活発で明るい人に感じられる。
《……ワガママついでに、アンタの息子の畑を見せてもらえるカシラ?》
腕を組み、なんでなのか偉そうに、サヴィアンヌが命令するかのように宣った。
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今月開催中の、ファンタジー小説大賞に、新作をエントリーしております
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