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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
87.久しぶりのハウザー②
しおりを挟むドルトスさんは、たくさんある中から一番上等に見える妖精の羽衣のワンピース型──インナードレスにするといいとサヴィアンヌが奨めてた──を丁寧にたたみ、湯殿担当のメイドさんが持ってきた薄手の手拭いを風呂敷代わりに包み、懐に仕舞い込んだ。
リリティスさんも、前合わせの浴衣のような、湯着にするのだから水と風の霊気を編み込んだ、うっすら青緑系の光沢のあるものを選び、湯が出てくる大岩の裏で素早く着替えて、久しぶりに一緒に湯に浸かった。
ちなみにドルトスさんは、私やリリティスさんの入浴姿を肴にお酒の続き⋯⋯はやめて、早速、絢織りのインナードレスを娘さんに渡すべく一度帰宅する事にしたらしい。気がつけば居なかった。
「シオリが湯から上がって、何か食べて人心地ついた頃にもう一度くると言っていたよ」
やはり想像通り、一刻も早くあれを娘さんに着せたかったらしい。
奥さんを早くに亡くされて、男手で育てて来た娘さんまで何かある事を恐れているらしく、あまり街の外へ出さないのだとか。
それに現在妊娠初期らしく、冷やしたり穢れになる前の昏い感情の蟠りにすら触れさせたくないとか、とても大切にしているらしいです。
《なら、アレは丁度いいワネ。娘が精霊に好かれるタイプなら、あの織り目の霊気に感応したコが助けてくれるワヨ》
「ねぇ、女王陛下? 私もこれ、頂いてもいいかしら?」
お湯の中で、リリティスさんが、胸を強調させるように張って、湯着の端を摘んでおねだりする。あのお胸は羨ましい。
《イイワヨ。ソレは、本当に、防寒と速乾、通気性だけヨ? 魔法防御はついてないから、肌着か湯着にしかならないワヨ》
「充分よ。これだって、買おうと思ったら、軍の補佐官の収入じゃとても買えないもの。防寒着にもなるなら、冬厚着して動きにくくなるのも防げるわ」
にっこり微笑んで、足を組み直す。なんか、さっきからどうして色っぽい姿勢を見せるのか。キニナル。
《欲張らない子は好キヨ。また、気が向いたら作るかもしれないし、別の在庫を出す気になるかもしれないシ? それも一応、身体に添って少しだけ形を変えるから、重ね着しても嵩張らないはずヨ》
『俺、豊穣神殿からずっと着たままだ』
《あげたんだからイイワヨ。ソレは中々いい出来でデショ? 汚れもつかないし防寒吸汗速乾で、オスのアンタにピッタリなはずヨ》
もちろん、狼の姿で、リリティスさんもいるのにお湯の中に入れるわけもなく、岩の影で伏せの状態で休んでいる。
カインハウザー様も、「シオリが二十歳になったらお供するよ」と笑って館に戻られている。
お湯から上がると、凄いいいタイミングでカインハウザー様が現れて、私を横抱きにして運ぼうとする。
「さすがにもう歩けます」
「残念、履物がないんだ」
言われてみれば、着替えはなぜか、速乾でさらさらの湯着の上から、メリッサさんお手製のキルティングドレスと、砂に塗れていたはずなのに綺麗になっている王都の女官のケープだけで、胸の下を締めるインナーもあの恥ずかしいおしめかおくるみのようなドロワーズ風の下着もない⋯⋯ないんです。メリッサさんいわく、この後は食事とお休みだけだから、身体を楽にするためだって。ああ、ドレスの下が心許ないです。
そして二週間履きっぱなしのミニブーツは、メイドさんが手洗いするとかで持ち去ったまま、代わりが届いてないのである。
「裸足の女性を歩かせるなんて、元騎士としては出来ない相談だなぁ? 残念だね」
にこやかにお姫様抱っこで、館に戻り、懐かしい食堂へ運んで行く。
もちろん、不機嫌なシーグも後をついてくるし、笑いを堪えられない感じのリリティスさんもいる。
椅子におろされると、隣に座るリリティスさんがこっそり耳打ちをしてくれた。
「勝手にチョロチョロ動かないように、わざと靴を持って来させなかったのよ。旅の間、怪我はないか、困った事はないか、精霊に好かれる体質が人目を引いてないか、トラブルに巻き込まれてないか、心配してたの。しばらくは、主に付き合ってあげて?」
靴を履かせない案は、リリティスさんだったの?
食事は、蜂蜜の練りこまれたツイストロールパンと、私の好物と認識されている山猪の柔らか煮込み(豚の角煮?)と、鶏の胸肉を裂いたものがトッピングされた野菜サラダ。果物も、初めて見るものまで盛られていた。
「シオリは、畑には行ったことはあるけれど、果樹園や牧場はないだろう? そのメロウの実は、今からが一番美味しい時期で、明日からの収穫祭でも振る舞われるよ」
響きはメロンに近いけど、見た目は桃に似てる。細かい毛が生えていて、手触りも桃。手にとって、指を横にスライドさせるだけで、つるりと皮が剥ける。
中味も見た目は桃やプラムのようで、酸味は殆ど無く、糖度も粘度も高い、黄桃やバナナ、色んな果物のミックスジュースのような味。一個の果実でミックスフルーツなんて、お得感満点ね。
果物と、久しぶりのメリッサさんのデザートに涙出そうなくらい幸せに浸っていると、娘さんに絢衣のインナードレスを着せて満足したドルトスさんが顔を出した。
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