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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
91.収穫祭①朝
しおりを挟むこの世界に花火はないのかな?
目が覚めたのは夜明け前。昨夜は早くに寝た。と、思う。まだ明るい内に城門を飛び越えて、カインハウザー様に捕獲されて、久しぶりのお湯に浸かって、食事して⋯⋯
クロノ大神殿であった事を話して、泣き寝入りしてしまった。はっきりと時間はわからないけど、八の刻(20時)を少しまわったくらいだったんじゃないかしら。
もしかして九時間近く寝てる!?
小さくて高い位置にある窓からは、たぶん山の向こうのお日様の、光がいく筋か射し込んでした。
ここ、どこだろう? 領主館に、こんな小さな、ベッドと机と狭いクローゼットくらいの小部屋があったのね。あんな立派な小屋をお借りしなくても、こんな部屋で十分なのに⋯⋯
四畳半くらいだろうか。
不思議なのは、扉が3つもある事。
四畳半の個室の、ベッドの上に高い位置に窓。
正面に茶器など置かれた戸棚が右手、ハンガーラック程度のクローゼットが左にあって、真ん中に扉。
左の壁にも何冊か本が置かれた棚と、鍵が二箇所ついてる木の扉。
右の壁にも、扉があって、こちらは鍵は三箇所でベッドとの間にワゴンがある。扉の右隣りには小さな流し台。
机はなく、ベッドの横に小さいサイドテーブルがある。
客室や個人の部屋というより、何かの控室みたい。
ベッドから降りて、そっと正面の扉を開けると、廊下だった。
見覚えある。カインハウザー様の寝室の近く、だと思う。
左の扉は鍵がかかっていて開かなかった。
右の扉は、鍵はかかってなくて、先の二つは外へ押し開くのに、この扉は内側に引いて開けるようになっていた。
引いてみると、音もなくすっと開く。蝶番もノブもちゃんと手入れされているものらしい。
内側から見た扉はシンプルだったけど、引いて向こう側は、細緻な、果物や花、小動物が彫られた繊細なものだった。
見覚えのある毛の長いラグ。見覚えのある読書用ビューロー。見覚えのあるベッド。
──カインハウザー様のお休みになるお部屋だ。
領主としてのお仕事をなさる書斎とは別に、寛がれるリビング、軽食も摂られるテーブルや椅子のあるサロン、騎士時代の鎧と仕事用やラフなものなどたくさんの衣装が収められているウォーキングクローゼット、読書用のビューローとベッドがありバスルームが併設されている寝室の、四つのプライベートルームをお持ちのカインハウザー様の、寝室だった。
「やあ、おはよう。肩や背の凝りはどうだい? 今日は動けそうかな?」
眩しいっ!!
朝から、きらきらお日様の金髪と、澄み渡る秋の空のような青銀の瞳が、満面の笑みで挨拶をしてくれる。
な、なんだろう、前は、取り立てて美形でもないけどハリウッドスターにいてもおかしくない程度には整っているお顔だなと思っていたのに、造作は変わっていないのに、久しぶりに見るからか、きらきら金髪碧眼の王子様度、上がってません? いや、王子様じゃなくて騎士様なんだけど。
それよりも、主たるカインハウザー様に先に挨拶させちゃった。目を擦りながら、気合いを入れ直し、挨拶をする。
「うぅ。お、はようございマス。寝過ぎちゃいました。身体は、昨夜温泉に入ったのが良かったみたいで、平気です」
「そう、よかった。これから⋯⋯」
あ、また、どこかでポンポンいってる。花火?
「この街にも、花火はあるんですか?」
「ハナビ?」
「ポンポン音がしてます」
「ああ、これは、空砲だよ。風霊を圧縮させて、弾の代わりにこめて、大砲を打つんだ。祝砲みたいなものだね」
祝砲。さすが、元騎士団。そういうことも出来るのね。
「さあ、支度して?」
「え?」
私が目覚めるまで待ってたのかしら、カインハウザー様が支度してと、行った途端、メリッサさんが入って来て、三人のメイドと共に、奥のバスルームへ私を押し込んだ。
* * * * * * *
久しぶりに、端から端まで手入れされてしまった。
私はただの見習いメイド兼パティシエールのはず。何でこんな事に。
「お嬢様はお肌もキメが細かくて、髪もひんやり滑らかで、手入れしがいがあります」
「濃い色の髪と瞳なので、明るい色が映えますね」
「ぷるぷるの唇。爪も膝小僧も可愛いです」
ああ、自分一人でお風呂に入るほうが幾らか気が楽なんだけど。
そして、部屋の主であるカインハウザー様がやはり追い出されていて、硬めの寝台を持ち込んでのエステのような事を頭のてっぺんから両足のつま先まで施される。
そういえば見たことなかったかな、アリアンロッドは、私が磨かれるのをじっと見てた。
≪シオ、ナニシテル? ソレ、楽しい?≫
「楽しいっていうより、楽しみ?」
≪タノシミ?≫
「お肌が生き生きして、綺麗になるの。お洋服も楽しみね?」
本音は、戸惑ってる。
身寄りのない冴えない小娘を磨いて楽しいのか、この人達は、とか、私なんかにこんなこと勿体無いとかある。
けど、私なんかは言わないとカインハウザー様に約束した。
厚意でしてくださってるのだから、別の形でお礼をする事にして、今は感謝して受け止める、つもり。でも、やはり申し訳ない気持ちになる。
精霊で、私と繋がっているアリアンロッドには、感情──戸惑いや困惑は伝わってるように思う。でも、敢えて口には出さない。
やがて、全身磨かれて、蒸しあがった私は、初めて見るワンピースに袖を通させられる。
今日は、ちゃんと胸の下を軽く締めるコルセットに似たビスチェみたいな物と、大きめの長い布を腰に巻き、腿で重ね部分を縛って下腹部を包む、焼売のようなドロワース的な下着もつけている。ビスチェはやはりカップはなかった。ブラジャーもないのよね、この世界。
サヴィアンヌの妖精の羽衣を前合わせにした湯着の上からビスチェを締めるので、湯着の肩部分を引き背の方へ引いて胸の収まりを調整する。パッと見、古代ギリシャのキトン風に見えるが下着である。
「よく似合うよ。シオリ。成人おめでとう。来月の8日で15歳だね。これからは、立派なレディとして扱わなければね」
そう言って、きらきらと微笑みながら、私の肩に両手をおいて、軽く頰に唇を寄せた。
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