異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

90.収穫祭前夜の密談

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 来週にはこの国では成人とみなされる歳ではあってもまだまだ子供らしい少女が、馴れぬ世界で一人旅──妖精や精霊、愛犬も一緒だったが──で、気を張っていたところに、最後に闇落ちに遭遇し、咄嗟の危機に精霊を動かしたシオリ。

 年古りた人型を取れる精霊なら会話出来るくらいには『精霊眼』の使い方も成長していたが、まだ、物言わぬ元素精霊や言葉を解さない古種の土着妖精とは意思疏通が出来ないのに、咄嗟に暴走気味に力を開放したのだろう。体内の霊気の流れが少し乱れていた。

 その後も神殿の僧兵に追われ、シーグにしがみついてここまで駆けて来たのだ、肩も背も首もガチガチに凝っていて、血の巡りも悪くなっていたし、城砦壁を飛び越え街に戻るまでは緊張しっぱなしだただろう。

 湯につからせ、食事のあと、かいつまんで何があったのか聞かせてもらい、ドルトスさんが「偉かったな」と、労い慰めると、大粒の涙をこぼし、さっきまでリリティスに抱きしめられながら泣いていたが、今は規則正しい呼吸音を見せて眠っている。

「まあ、実際大変だったろうよ。お嬢ちゃんのお国では、二十歳までは親の庇護のもとに暮らす未成年なんだろう? しっかりしてるようで、どこかアンバランスな子供だ」

 ドルトスさんはそう言って、シオリをいつも可愛がっている。
 娘の幼少期を思い出すとか言っていたっけか。さすがに、幼少期はシオリが落ち込みそうだから言えないが。彼女はいつも、早く大人になりたがっている。

 南の庭に建つ彼女に与えた小屋ではなく、わたしの寝室の隣にある使われていない小部屋──侍従の控室──に火を入れさせ暖めると、泣きつかれたのもあってぐっすり眠っていた。

「幸いなのは、奴らにとって探すべきなのは、精霊をたくさんくっつけた、狼犬を連れている少女シオリだってことだ」
「まだ言い訳も立ちますしね。アリアンロッドとシオリでは容姿も今では違いますし」

 ドルトスさんは、手酌で果実酒を傾けていた。

「セル坊よ。しかし、実際、いつまでも隠しておけねぇんじゃねぇか? 精霊と交渉して一度に集まる数を抑えるっつっても、聞かねえで寄ってくる精霊もいるし、寄り付かず遠巻きにしてても目立つし、原始的な元素精霊は勝手に活性化しちまう」
「ええ」
「前回は光霊を集めて、弱体化と縫い留めただけだったが、今回は、大勢の前で、浄化、滅しちまったんだろ? 複数の僧兵も見てる。
 ましてや、大神殿の正門前で派手にやっちまって、咄嗟に逃げて来たんだから、痕跡はまんま残してきてるだろ。今頃、存在値やなんかすっかり調べられてんじゃねえか?」
「ええ」

 まあ、調べたところで、あの無能どもに正確には感知しきれないだろうがな。それが出来てるなら、とっくに奴らは理由をつけて、押し入ってきてる。この半年、一度も探しに来なかったのだから。シオリが生きているとも思っていないのではないか?

「なんだよ、聞いてねぇのか?」
「聴いてますよ。ドルトスさん。まあ、慌てなくても彼らはまだシオリを特定できていないし、おそらく当分の間は彼らが自力でここへ辿り着くことはないでしょう。
 門のところで頑張っていた僧兵はどうなりました?」

「あいつらこそなんにも出来ないだろうよ。大神官の威光の届かないここへ、力づくで押し通れないし、国王や上位聖職者の委任状も命令書も持ってないから、門前払いで遊んでやったよ。
 探しもんも、曖昧で結局間違えてるしな」

 彼らも、わたしと正面切って揉め事を起こす勇気はないだろうし、正当な理由を持ってこなければ、相手にしてやる気もない。
 ドルトスさんの言うように、シオリがここへ逃げ込めた時点で、戦争を起こすつもりでもなければ、わたし達の勝ちだ。

 しかし、シオリの話を聞いていて、ひとつ不安要素がある。

「ひとつ不安があるとしたら、シーグが、まあ咄嗟とはいえ、ミヤコ達の前で名を呼んでしまった事でしょうか。シオリもまだ話してくれていないし、アリアンロッドから聞いた話ですが、あの『聖女様』はシオリの遠縁らしいですよ。そこから存在値を手繰られる可能性はありますね。ミヤコはシオリを疎んでいるから、自ら近づこうとは思わないでしょうが、大神官達が上手く言い包めるかもしれません。
 彼らが、狼を連れた金髪の少女イコール暗褐色の髪のシオリだと直感しなければいいのですが」
「なに? やっぱり嬢ちゃんは、巫女になる素地を血筋から持ってるのか」
「ええ。姉妹や従姉妹ほどの近さではないらしいですが、精霊術への潜在能力はあると見ていい、というか、あれだけ好かれていますからね。たとえ精霊術の才能がなくても、精霊達は彼女を護るでしょう」

 ドルトスさんは、空になったボトルを摑んで立ち上がる。

「まあ、明日からの収穫祭くらいは楽しもうや。⋯⋯南の城門だけは閉ざしとくか? 諦めの悪い、上司に叱られるのが怖い僧兵達が乗り込んでくるかもしれないしな」
「いえ。いつも通りで」
「おいおい、大丈夫かよ?」
「わたし達にはやましい事はない。逃げ込んだ娘を匿ってもいないし、狼を連れた金髪の少女も知らないからね。年に一度の収穫祭に門を閉していては、痛くもない腹を探られる事になる。シーグは可哀想だが、奴らの前で名を呼んでしまった己を反省してもらうために、収穫祭の間は、小屋から出ないでもらおうかな」
「そうか。狼がいなければ、嬢ちゃんは暗褐色の髪の、ハウザーの町娘だからな。わんこは可哀想だが、仕方ないな」
「必要なら、その、ウィガロの民の家族に口裏を合わせてもらって、親戚だとしてもらう事も考えておこうかな?」
「なるほど。いいかもしれんな。ミヤコの遠縁の娘ではなく、南のウィガロの民という事にするのか。かの家族と行動を共にしてたのは周知の事実だし、ウィガロの民は、妖精を隣人として心豊かに暮らす分、あまりきっちりした国家体制を敷いてないから、木札の有無は誤魔化せるな」

 話はまとまったところで、ドルトスさんに、シオリとミヤコに血縁関係がある事は、シオリの前でも知らない事で通してもらうように頼もうとしたが、逆に「ウィガロの民って事にすんなら、どこぞの聖女様は知らん人間だろうがよ」と返されてしまった。
 ドルトスさんを信用してないような態度を取ってしまい、反省する。

 とにかく、明日から、シオリも楽しみにしていた収穫祭だ。
 精霊も妖精も、シオリがいる事でいつもより盛大に祝福を授けてくれる事だろう。



❈❈❈❈❈❈❈

 ❈ ドルトスはセルティックの父──前領主の友人で、子供の頃から目をかけてもらっていたので、セルティックも人前では領主として呼び捨てにするが、二人の時は、頼りになる父の友人としてさん付けで、目上として接します

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