異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

文字の大きさ
251 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

89.光の精霊と狼を従えた、黄金より金に輝く少女

しおりを挟む

 光の精霊と狼を従えた、黄金より金に輝く少女 


 信じられない、というか、「信じたくない」だろうか。

 神様が降臨された時に住まう神殿内に、放置すればやがて世界の外から来る悪意に感染してけがれに育つ可能性のある、人々の負の感情が闇の霊気と混ざり合った気配のよどみが、部屋の隅と言わず廊下の端、柱の陰などにわだかまっているだなんて⋯⋯
 しかも、それらは神官たちに感知されず、放置されているだなんて。神聖な場所が、瘴気の素を生み出している?

「人々は何らかの欲を持っている。人に好かれたい、もっといい仕事にきたい、美味しいものを食べたいやきれいな服を着たいでもいい。
 そして、そんなちょっとした願いも、叶わないことも少なくない。
 美味しいものをたらふく食べる、綺麗な服を着る、そういった生活の余裕がない者、好きな仕事にけず、嫌々繰り返す仕事に不満がある者。思うように人に好かれず孤独を感じる者」

 それはそうだろう。何でも思うとおりに生きていける人なんていない。
 何かしら、抑圧された部分は出る。

「その、抑圧された感情が、淀みとなって溜まる。普通ならそのまま、朝日の中の光の精霊の営みに自然浄化される。が、神殿の中に射す光はたいていが、祭壇の近くと、壁際の窓の近くのみだ」

 だが、神殿では、特に祈りを捧げる聖堂では、人々の欲が溜まっていく。

 もっと好かれたい。
 たまには楽がしたい。
 たくさん稼ぎたい。
 美味しいものがもっと食べたい。
 いい成績を残したい。
 ○○が欲しい。
 もっと見て欲しい、構って欲しい。
 あいつが上手くやって、悔しい。
 自分もああしたいこうしたい。

 そういった欲の感情は、それらを我慢する事で溜まっていくし、欲と妬む感情は、我慢して出る抑圧された感情と共に、闇の冷気や外の世界からくる悪意と結合しやすい。

 街の人が多く集まるところ以上に、澱みは発生しやすいけれど、本来なら巫女や精霊術士が居て、浄化していくから問題ない。
 けど、今この国には、巫女はいない。
 美弥子やさくらさんはまだ公表されておらず、現状活動している巫女はいないのだ。

「だから、神聖な領域であるはずの神殿が最も穢れた場所になっていってるんだよ、今は」
「そんな事が⋯⋯」
「そんな中で、正常な状態を保っている綺麗な人間だったから、よく覚えているよ。で? その彼が、シオリと同行していた家族と⋯⋯血縁者なのかな?」
「はい。三番目の子、次男だそうです。ハシュさんを見て、動揺から過呼吸を起こして、下車するタイミングを外してしまい、ズルズルとクロノ大神殿まで戻ってきてしまいました」
『結果的に、早く帰れたけどな』

 ご家族なのに特に会話もなく離れたところから会釈するだけなんて、見ていてこちらが切なくなりました。
 ルーチェさん家族は神殿にはどうしても入れないとかで、そのまま参詣せずにお別れして、

「え? あ、ああ、ただの僧兵じゃなくて、誓いを立てた修道司祭なのか。ご家族とも交流は断つんだね? 中に入れないのは、精霊の加護があるなら、あそこは居心地が悪いだろう」
カインハウザー様の問いに頷いて、紅茶を一口。

「ルーチェさんの乗った馬車が見えなくなる頃、振り返ったら、ハシュさんに凶爪を振り下ろそうとしている闇落ちが見えたんです」

 ガタッ

 立ち上がるカインハウザー様。私の肩や背を触れて確かめ、首筋を撫で脈動を再確認し、そのままもう片方の手で顎をすくい上げて目を合わせる。

「どこも、霊気の乱れもない⋯⋯ね? けがれを浴びたとか、手足が動かないとか」
「大丈夫です。闇落ちとは距離もありましたし、傷つけられてないどころか、噴き出す瘴気にもまき散らかすけがれにも触れてません」

 大きく息を吐き、膝を床について、額を私の肩に乗せるように、すがるように崩れるカインハウザー様。

「ただ、ルーチェさんの、私に良くしてくださったご家族の大切な、私の恩人でもあるハシュさんが襲われるのを見て、耐えられませんでした」
「⋯⋯うん」
「気がついたら、クロノ神殿の鎮守の森にいた風や光、土や樹までの精霊達がハイイログマだったモノを切り裂き、くだいて、串刺しにして、闇落ちは霧のように崩れてなくなりました」
≪トドメはアリアン、頑張った! ⋯⋯セル・ごめんなさい。ヤクソク守れなかった。セル・ベーリン居ないのに、シオ泣くから、クロクロ・きたないのやっつけた、ら、消えちゃった≫

 カインハウザー様の肩に額をくっつけて謝るアリアンロッド。

「騒ぎを聞きつけた神官たちや、美弥子ややくらさんまで出て来て、見つかりそうだったから、フィリシアやサヴォアンヌの目晦ましで、シーグに捕まって逃げ帰って来ました」
「うん。良く無事だったね」

 サヴィアンヌの認識齟齬の魔法や色んな偶然か重なって、かの大神殿では、巨大な狼を連れた、金髪の少女を探しています。
「金髪の少女というのは⋯⋯」
 カインハウザー様も、自身の肩にくっつくアリアンロッドの顔を見る。

「あの場にいた人々は、サヴィアンヌの認識齟齬の魔法に惑わされて、とどめを刺したアリアンロッドとハシュさんを横からさらうようにかばったシーグが印象に残ったのでしょう」
『俺が、シオリって、名前を呼んでしまったから、みんなは、光の精霊を動かせる、狼を連れた、黄金より金色に光る(アリアンロッドを)シオリと思ったらしい』

 僧兵が追ってきた理由は、きいてないけれど、たぶん、ハルカスさんと揉めてたように、報奨をちらつかせて囲い込み、浄化のできる娘として利用するためだろう。

「そういえば、滅したのだな? 斃したとか縫いつけたではなく」
「はい。咄嗟のことで、加減ができませんでした」

 すみませんと小声で謝ると、ドルトスさんに頭をグリグリ撫でられる。

「怖かったな、頑張ったな。たとえバレそうになっても、知人を、まして恩人を、見捨てたら寝覚め悪いよな、うん。お嬢ちゃんは何も間違ってないぞ?」

 お前は間違ってない。今、一番言って欲しかった言葉でもあった。






しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...