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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
93.収穫祭③餉
しおりを挟む私が寝ていた、カインハウザー様の寝室に繋がる小部屋にも、当然の事カインハウザー様の寝室にも、この食堂にも、シーグの姿が無い。
「ああ、シーグなら、君の小屋で休んでいるはずだよ。後で食事を持っていくから、まずは君も食べなさい」
「はい」
今までは、私と小屋で寝泊まりして、食事も一緒にここで、本人はあまり気にしてないのか狼のふりを貫くつもりなのか、犬によくないものを抜いた食事をお皿に盛られて、床に座って食べてたっけ⋯⋯
本当は人間だって知ってるので、私の方がちょっとツラいんだけど、近い内に、みんなの前で人化してもらって、ちゃんと公表しよう。うん。
リリティスさんも席に着き、揃って実りへの感謝を祈り、カトラリーに手を伸ばす。
「あの、今までは、ここで一緒に食べてたと思うんですが⋯⋯」
「ああ、彼はしばらく小屋に身を隠しているそうだよ」
「隠れる?」
「そう。今日から収穫祭だからね、巡礼者も隣の皇国から国境を通って来るだろうし、門を開放しないわけには行かない」
「はい」
「昨日は門前払い出来たクロノ僧兵たちも、一般人にまぎれて捜索に来るだろう」
「あ⋯⋯ そうですね」
昨日の事なのに、あれこれあって(お風呂とか寝落ちとか朝風呂とかエステとか着替えとか祝いの言葉とかエスコートとか)忘れてる訳ではないけど思いだすヒマがなかったというか、余裕がなかったというか⋯⋯
「君は、割り札上はシオリではなくフィオリーナだし、金髪ではなく黒に近い濃い栗色だし、正面から見ても僧兵達は気づかないだろう。でも、そこにアリアンロッドやシーグが付き添っていると話は変わってくる」
そう。クロノ神殿で闇落ちの魔怪を滅した時、アリアンロッドが真正面から光の槍を投げつけた。その姿は、その場にいた巡礼客や僧兵、神殿から飛び出してきた人達の目に印象深く焼き付いたに違いない。
目撃者達も、金髪の、複数の精霊と狼犬を連れたシオリ様は、新しい巫女に違いないと証言している。
「だから、人前で本名で呼んでしまった事の反省も含め、外部の人の目につかないように収穫祭が終わるまで、領主館の奥にあって一般人は立ち入らない、君の小屋に身を隠しているそうだよ」
どうしてかな? こちらにお世話になるようになって初めて、カインハウザー様の言う事に違和感を覚える。
でも、気のせいよね。精霊と一生向き合っていく為に、嘘はつかないと、私にも言えない事はあっても、騙したり嘘を言ったりはしないって、誓ってくださったもの。騎士様が、誓いを違えることなんてないわ。
でもなんか悪いな。シーグは小屋にこもっているのに、私だけ収穫祭を楽しむなんて。
「罪悪感があるのかな? 本人も、咄嗟とはいえ、名前を出してしまった事を悔いているんだよ。一度口から出してしまった名は、取り消せないからね。女王陛下や上位精霊なら人の記憶を書き換えられる可能性はあるかもしれないが、あまりにも目撃者が多すぎる上、どうしたって漏れは出るだろうし、上書きした所で何かのきっかけで思い出す事もあるだろう。まさか当日の記憶そのものを消去する訳にもいかないだろうからね。それにすぐに逃げてきたのだろう? 仕方がないさ」
《上書きするヨリ、消す方が楽だケドネ》
「出来るのね⋯⋯」
そう。あれは仕方のない事だった。
あのまま闇落ちを放置して、ハシュさんを失う訳にはいかなかったし、シーグがハシュさんを逃がせてくれていても、その後他の人にも被害は出続けるだろうし、もちろん神官戦士であるハシュさんが、巡礼者達を護らずに逃げてくれるはずもない。
どうしても、アレを放置するという選択肢はなかった。
「それでいいんだよ。君が、アレを放置して自分だけ逃げるなんて思いつきもしなかっただろう事はよくわかるよ。その事を誰も咎めたりしないから。わたしがその場にいたら、君のように光の精霊を武器とする力を持っていれば、同じ事をしただろうね。しかも、わたしは名も顔も知られているから誤魔化せないけれど、やはりそうするよ」
「はい」
もちろん、被害が拡大する前に、美弥子やさくらさんがどうにかしてくれるだろう。でも、それを待っていては、何人の犠牲者が出ていたかわからない。あの場は、ああするのがベストだったと思う。
「ミヤコやサクラがいて、国境までの参道を浄化したのに、神殿のまわりを疎かにしてた神官たちが莫迦なのよ」
「まあ、そう言うな。アレらは盲目なんだ。多少は霊気も読みとれるようだが、毎日過ごす神殿内の澱みも凝りも見えないんだよ。瘴気が発生するまで気がつけない可哀想なヤツらなんだ。責めないでやってくれ」
うん、どうしてかな。はきはきと毒を吐くリリティスさんより、彼らをかばって優しいことを言ってるはずのカインハウザー様の方が、より辛辣で猛毒のような気がするのは。
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