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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
101.まだうろつく僧兵
しおりを挟む小屋に戻ると、狼姿のシーグが、テーブルの下に敷かれた山猪の毛皮ラグに伏せていた。
『お帰り』
「うん。ただいま」
元気がない。旅の間の疲れが出ちゃったのかな。
「シーグ、夕飯は⋯⋯」
『カインハウザーが持って来た。収穫祭で振る舞われる果物も少し』
「そう。足りた?」
『ああ。ここでジッとしてるだけだしな』
うっ。私は、成人式に出て、踊って食べたのに、アリアンロッドとシーグはここに隠れていないとイケないのは、罪悪感がないわけではないけれど、人目があると言われれば、どうしようもない。
『言っとくが、拗ねてる訳じゃないぞ?』
「う、うん」
『疑ってるのか? 外に出られない「可哀想な」俺のために、領主自ら、犬の餌と果物を届けてくれたんだ。ここは精霊や妖精がたくさん棲んでるから水も光も風も温度だって不足不満はない』
「うん⋯⋯」
でも、外で楽しそうにお祭りをしているのに、自分は隠れていないとイケないのって、やっぱりつらくないかしら。
ちなみに、カインハウザー様が持って来た件については、私とシーグ、カインハウザー様しかここの扉を開けられないからだろう。サヴィアンヌの施した魔法の鍵は、登録した人物しか扉を開けられないのだ。
「明後日は、お祭りに行ってみる?」
『明後日? 今日は、僧兵は来てなかったのか?』
《来てたみたいだけど、そもそもまる一日も経ってて、逃亡者がいつまでも居るとは思ってないんじゃない? 途中からはお祭りを見てただけよ》
そう。フィリシアが僧兵を見つけていた。朝早く成人式が始まる前に、10人ほど。
金髪の、10歳前後の娘を片っ端から確認していくので、カインハウザー様の祝辞と精霊や妖精の祝福の後すぐに、複数の子供を連れた親から抗議が来ていたらしい。
街の子供は大抵が金髪か亜麻色、薄茶、稀に赤毛なのである。僧兵たちは総当たり戦で探していたらしいが、皆がお昼に屋台や振る舞い酒などに群がる頃、衛士隊の第一隊と第四隊が総勢で、僧兵を町の外に追い出したそうだ。
ちなみに、住宅街の犬を飼っている家も覗かれたらしい。
でも、殆どが牧羊犬と狩猟犬で、狼犬や愛玩犬を飼う家はない。
その事も苦情が来て、クロノ神殿へ正式な抗議を行ったらしく、明日は、大神官や大司教などが謝罪に来るらしい。
「謝罪という名の、街の様子を伺いに来るんだろうな」
『謝罪?』
「明日、大神官と大司教が、祭りを台無しにしたことを謝罪に来るそうよ」
『都合のいい理由をつけて、俺らを探しに来るのか』
「やっぱりそう思う?」
『ああ』
大神官が来たら、私の顔はバレる。大司教は、視ないけど読める人だと言うから、一箇所にとどまって精霊が集中する地点を作ると、私に関係なく、濃厚な霊気の正体を確認に来るかもしれない。
「シーグ、明日は、早朝から北門を出て、ノドルに行こうか」
『爺さんちか?』
「ええ。大神官や大司教が来るんなら、隠れてても精霊の集中点を作らないほうがいいでしょう? もしかしたらお祭りを見に、美弥子達もついて来るかもしれないわ」
『祭りを見に? 誰彼なく踊って、収穫物を飲み食いするだけだろう?』
「私達はね、お祭りの好きな民族なの。慣習や宗教的に関係なくても、お祭りを見たら覗いてみたくなるのよ」
『わからなくはないが⋯⋯』
朝早く、もしかして僧兵が来てる事を警戒して街の中では人型でシーグと北門へ行き、山道に入ったら、狼になってもらってノドルヘ行く事にして、今夜はベッドに入る。
目を閉じると、酔ってカインハウザー様に縋るリリティスさんの姿を思い出したけれど、前にもあったと言うし、体調や介抱など心配することもないのだろう。そう自分を納得させ、間もなく疲れから意識を手放した。
✽✽✽✽✽✽✽
もう、早朝四時に目が覚めるのは生活リズムとなっているのかもしれない。
身支度をして、王都の女官のケープを身に着けフードを目深にかぶり、小屋の外に出る。
少しの霧と、夜露に濡れた草花の青い匂い。花畑のある東の方に、山の陰から朝陽が薄く差していた。
フードを被って顔を伏せたシーグに待っててもらい、お屋敷の台所へ行き、サヴィアンヌの食事──蜜漬けの花蕾の瓶をポーチに入れ、カインハウザー様への一筆書きをセルヴァンスさんに預けると、そそくさと外に出て、シーグと連立って北門へ進む。
街の中はまだ静かで、広場や商店は、昨日の喧騒が嘘のようである。
北門への大通りを挟んで、住宅街が続く。
昨日遅くまで盛り上がったのか、明かりがついている家は少ない。
なんだかんだで北門についた時には朝陽も顔を見せ、北の国境から来る巡礼者が何人か居た。
「フィオリーナ様、お出かけですか?」
「ええ。お世話になった方の所へ、挨拶をしに、ね」
「ああ。山道気をつけて言ってらっしゃいませ」
私が、二週間前にここから旅立って、近隣を歩いたのは、北門の衛士隊の人達は皆知っている。
隊長など責任者格の人達は、私がノドルに滞在していたのも知っているのだろう。
この若い門番は衛士隊の第二隊の小隊長さんで、どうやら元黒翼隊の人でもあるらしい。
こうして見ると、昨日まで気にならなかった、刺繍の入ったリボンで肩甲骨まで伸ばした薄茶の髪を纏めているのが解る。
「シーグ。フィオリーナ様を頼んだよ」
『もちろん』
門に近づく前に、茂みでひと目を避けて狼に戻ってもらっている。
屋敷を人型で出て来て良かったと思うのは、僧兵が二人、武器を持たずに街をふらついていたから。朝も早くから大変だなぁ。まあ、この時間の方が、探しやすいんだろうけど、まさか目の前を歩く東洋人が、探していた『狼を連れた金髪の少女』だとは気づかなかったようだ。
人型と狼のシーグが同一人物だとも思ってないみたいで、シーグなんか試す意味もあったのか、一人の僧兵と挨拶まで交していた。
「いや、無視するのも怪しいかなって」
いくらこの町の人はクロノ神殿に好印象がないとはいえ、すれ違っても無視するのは違うかな。もちろん私も会釈したけど、内心ドキドキだった。
門と国境への参道が見えなくなった頃、シーグに捕まると、あの逃走の時より少し静かに振動を抑えてくれて、でも歩く何倍も早く山道を下る。
≪シオ! どこ行く? アリアンも行く≫
「コールスロウズさんの所よ」
アリアンは、城門を開放している一週間は、街で姿を見せることを禁じられている。でも、町の外で私がどこかへ行くなら、着いてくるだろうと思っていた。神殿の人達が正式訪問するのだし、そのほうがいいとも思った。
軽自動車でゆっくりドライブくらいの猛スピードで走るシーグ。フィリシアが風を調整してくれたので、息苦しくもないし、風が顔を切る冷たさもない。
それでもフードが脱げ、抑えていた霊気が開放されると、たくさんの風霊達が寄ってくる。
以前は半日かけて歩いたのに、シーグに乗せてもらったら一時間ちょっとで着いた。
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−−−−−−
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