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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
118.愛し子と愛し子
しおりを挟む最近は見慣れてきた丸太の並ぶ天井。リリティスさんに借りている小屋だ。
カインハウザー様の声に目が覚める。
頭がぼんやりして、もしかしたら寝過ぎたのかな? と思ったけど、
《シオリ、大丈夫? まだ寝てたほうがいいんじゃない? 顔色悪いわ》
と、枕元にいたフィリシアが、のぞき込んできた。
「わたし、ずっと寝てたの?」
《まだ1時間しか経ってないわ。寝てて》
そうは言っても、棚の向こうにカインハウザー様が来てるのなら、顔を出さないと⋯⋯
とりあえず身体を起こし、ベッドから降りると、信仰祭から戻った時のまま、ケープだけ、ハンガーに掛けて壁に下げられていた。
「シオリ、目が覚めたのかい。どこか調子の悪いところはないかい?」
「特には⋯⋯ ちょっと疲れた感じで怠いくらいで、大丈夫です。ご心配おかけしました」
「それは気にしなくていいよ。そんなことより、疲れが溜まっているなら休んでいなさい。様子は確認できたから、わたしは帰るから。ィグナリオンも。明日も無理に参加しなくていいからね」
でも、明日は、精霊や妖精達に恵みへの感謝を表す、大切な日なのに。
「シオリ。領主が休めと言うなら気にせず休め。精霊達も妖精達も、無理をして疲れた顔で暗いシオリを見るのはツラいだろう」
シーグの言う通りかもしれない。精霊たちに無理をしてるところを見せるのはよくないかも⋯⋯
「明日起きて、ダメそうなら休みます」
そう言って、リビングのテーブルの下に目が行くと、少し違和感を感じた。
アリアンロッドの色味が薄く、初めてあった時のように透けている。
そして、床に敷かれていた山猪の毛皮がない。
「毛皮の敷物がない?」
「あれは処分したよ。また、何か別の物を持ってくるから。それまでは冷えるだろう? ベッドに戻ってもう休みなさい。それとも、何か食べるかい?」
「いえ。あんまり食欲ないので、いいで⋯⋯す⋯⋯あれ?」
この感じ⋯⋯前にも? そうだ。穢れを祓った時の⋯⋯
「毛皮を処分した理由はなんですか?」
「今は、気にしなくていいから、休みなさい」
「カインハウザー様」
「疲れが溜まってるから、マイナス思考になるんだろう。なんなら運んであげるから、湯殿に浸かって来るかい?」
「カインハウザー様」
「疲れには甘い物がい⋯⋯」
「カインハウザー様」
はぁ。ため息をついて、椅子に座り直す。
「わかったよ。少しだけ話そう。座りなさい」
「はい」
なんだろう、聞いておかなきゃいけないと思うのに、聞いてはいけない気がする。
頭のどこかで、警報が鳴っている気がする。
「アリアンが希薄なのは⋯⋯」
「君が不安定なのに影響されているのと、力を使い過ぎたせいだね。大丈夫、しばらくしたら戻れるよ」
「私が不安定で、影響? 力を使い過ぎたとは⋯⋯」
だめだ。どこかから聞くなという声がする。でも、聞いておかなければ、後悔する気もする。
《シオリ、無理はしないで》
「毛皮を処分したのは、汚れてしまったのを洗おうとして、つい焦がしてしまったからだよ」
「誰が、ですか?」
「アリアンロッド」
「アリアンが、焦がしたのですか? アリアンに火霊の素養はなかったはずでは?」
「今は素養はなくても、元々合成精霊だ。この先、火霊を取り込むことで、火属性も持つことは可能かもしれないよ」
「そうなんですか? でも、今は使えないんですよね? 火霊」
「物を焦がすのは、何も火だけじゃない」
「落雷、強乾燥時の自然発火⋯⋯ あるいは摩擦熱、でしょうか?」
「そうだ。アリアンロッドには、強い光属性がある」
アリアンが光の精霊力を発揮する時って⋯⋯
「穢れが!?」
椅子を蹴倒して立ち上がり、立ち眩みでふらつきながらテーブルに手をつく。
背後から、シーグ──ィグナリオンが肩を支えてくれる。
「君は、他人に期待しないクセがまだ抜けないんだね」
だんだん、カインハウザー様の声が遠くなっていく。
「大神殿でどんな扱いを受けたのかはだいたい想像がつく。フィリシアやサヴィアンヌが嫌うからね。それに、彼らが期待したような役には立たなそうだからと言って放り出された時、ミヤコ達もいたんだよね? その時、あの子達と何かあったのかな?」
ミヤコは、私がニンゲンジャナイト言ッタ⋯⋯!! 消エテナクナレト、ドコヘデモ行ケト、私ヲ見捨テタノ⋯⋯
「気をしっかり持て。あの子とソリが合わなかったのは仕方ない、諦めなさい。この街の住民は君を受け入れている。例え血縁関係にある者だとしても、違う道を行く事も時には必要だ。だから、あの子に、大神官に何を言われようとも忘れて、ここでフィオリーナ・アリーチュとして暮せばいいだろう?」
「⋯⋯私が、愛し子じゃなくても?」
「何を言って⋯⋯ そんな事は今更だろう? たくさんの精霊が付き纏うのも、妖精と触れ合えるのも、たくさんの魔力を持っているのも、全部纏めて君という個人だろう」
「でも、愛し子だから、最初から好感度が高くて、受け入れる気になるんじゃ⋯⋯」
ィグナリオンに背後から支えられているままの私を、彼ごと抱き寄せるカインハウザー様。
「そんな事を考えていたのか。関係ない。わたしは、精霊に好かれる体質ゆえに、同じ体質の人の影響力は受けない」
「影響⋯⋯うけない?」
「そうだ。なんなら、精霊術を使って攻撃されても効果はない。わたしをとりまく精霊達が無効化するからね」
「無効化⋯⋯?」
「凄いだろう? 魔法や精神攻撃は全く効果ないんだよ、わたしは」
「無敵ですね?」
「そうだね。そのわたしが請け負う。君が愛し子だろうが関係ない。この街のみんなは、ちゃんと君という人間を知って、受け入れ、愛している。仲間だと思っているから、神殿に追われても匿うし、みんな仲良くしたいと願っている」
いつの間にか泣いていたからだろうか、カインハウザー様に抱擁されても、シーグは怒らなかった。内心、穏やかではないだろうけど、いつものように割り込んだり、話を中断したりはしなかった。
「君は人気者だよ? 明日で成人だろう? 今に求婚者が列を成すよ。だが、それは愛し子だからじゃない。シオリ。君だからだよ」
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