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Ⅳ.幸せに忍び寄る悪夢
2.地蜂の巣退治【誤変換部分修正】
しおりを挟む美弥子たちは、王都に近い、人口の多い街から順に、郊外へ向けて浄化の旅を進めているらしい。
聞いた話では、美弥子に憑いている光の精霊は、さくらさんの肩に座っている手のひらサイズの小動物の姿をした精霊と比べ物にならないほど大きく、フィリシアのように妙齢の女性の姿をした、視える者には眩しいほどの強い年古りた大精霊らしい。
《あんな強大な大精霊が、それも風や水ではなく光のが、人に手を貸すなんて、珍しい事もあるのね》
フィリシアも首を傾げる。私と行動を共にするようになって、時々人のような仕草をするようになった。
表情も豊かになっていく。
《まあ、それダケ、シオリの事がスキなんでショ?》
サヴィアンヌは元から表情も豊かだったけど、それは個性を持つ妖精だから。
基本、精霊に個性はない。らしい。
個性を持つと、感情が生まれ、感情に左右されるようになると、精霊の存在意義が崩れるから。だそう。
《多くの大精霊が個性的なのハ、ソウ選択して装ってるカラ。長く存在しテ、吸収した知識でたくさん選択肢を持ち、状況を見て選んでいるダケ。世界にとっテより良い方をネ》
その考えや知識の量で反応が違って、個性のように見えるけど、その選択条件が感情ではないとのこと。
《アリアンやフィリシアが精霊として特殊例ナノヨ》
アリアンロッドは、私の感情の欠片を核にしているから、子供のような言動が出来る。
フィリシアも年古りた精霊ならではの知識量と選択肢を持ち、私の影響を受けていく内に、擬似の範囲を超えた個性を獲得したと言う。
そう聞いていると、精霊って、自然現象や魔法を動かすエネルギー源のように思っていたけれど、むしろ、電気や集積回路じゃなくて、霊気と経験則選択肢で動く『プログラム』みたいね?
小さな元素精霊は、その選択肢すらなく、決められた元素の働きを繰り返すだけだし、そう考えると、世界を構築維持する為の基礎プログラムにも思える。
《ぷろぐらむッテ、ナニ?》
大神官や大賢者が私達に刷り込んだこちらの基礎知識(+神様や精霊、魔法などのファンタジーな環境の知識)と、この世界の管理神アルファ様の祝福の恩恵で、私とここの人達の会話は自動的に自然翻訳されるけれど、こちらに元々無い概念の言葉は同時通訳されないみたい。
コンピュータのないこの世界で『プログラム』は、こちらの既成概念と照らし合わせるのが難しい。
計画命令指示書? 作業指示書?
《そういうモノなら、確かに精霊は『プログラム』と言えるカモネ?》
考え方としては近いらしい。
今日は、街の西側に住む畜産家のラリョさんちの裏庭に出来た蜂の巣を駆除に行く。
生憎、蜜蜂の仲間ではないらしいけど、ラリョさんちの働く小人さんのたっての頼みなので、出動である。
フィオちゃん本舗の売り上げには貢献できそうにないけど、慣れたいつものメンバーが手伝ってくれる事になっている。
《ホント、ブラウニーって、面倒くさいわヨネ。ご褒美のミルクもこっそり隅や物陰で与えないとへそ曲げるシ、精神疾患でもあるのかと思うくらい人に姿を見られるのを嫌がるシ。嫌なら茶色い襤褸ばっかり着ないデ、綺麗な恰好でいればいいノヨ》
「襤褸も、デザインによってはおしゃれかも? パッチワーク的な⋯⋯
それに、綺麗な服をあげたら妖精界に還っちゃうんじゃなかった?」
《ほんっとへそ曲がり!》
過去に、価値観や倫理観が同じブラウニーに会ったことがなく、さすがのサヴィアンヌも、ブラウニーとは結婚したことはないらしい。
《まあ、お片付けやお掃除がデキル技能なラ別の妖精でもゲットできたからネ! 物を作ったりお手伝いも、レプラコーンでも出来るし、ドワーフなら職人技だシ? なにもブラウニーに固執する必要はナイワ》
領主館に棲むブラウニーさんは、女の子とおばさんで、女の子はまだ若過ぎて手のひらサイズの子もいるし、ひとり腰の曲がったお婆さんもいる。
人間の子供くらいの大きさのお婆さんブラウニーさんは、料理の下拵えが上手だし、縫い物もミシンなみに手早い。長く存在して、殆どプロ級の家政婦さんである。
私が保護される前までは、領主館の小人族はみんなこっそり夜の内に手伝ったりするくらいだったのに、私がサヴィアンヌを連れて色んな妖精さんと仲良くしているので、今では昼間も出て来て、他のメイドさんが居ても隠れたりせずお手伝いしてくれる。
サヴィアンヌは、どのブラウニーもこれくらい堂々と働けって言うけど、それじゃ本来の、夜中にこっそり小人さんっていうアイデンティティが壊れちゃうわよね。
蜜蜂じゃなくても、花蜜を食料にしている蜂はいるけれど、持ち帰って加工して、巣の一部にしたり幼虫や女王蜂の栄養にするのは蜜蜂だけ。
だった。日本──地球では。
少なくとも、養蜂農家が飼うのは、西洋蜜蜂か日本蜜蜂しか知らない。
ヒラスさんやドルトスさんが先頭に立って、サヴィアンヌの出した習作の羽衣を羽織り、蜂の巣を探す。
防寒にいい羽衣や防水の羽衣など色々あるけれど、今二人が羽織ったのは、見た目メッシュの透け感のある物で、地の精霊の力を縒り集めた効果のおかげで、金属の細いネットと変わらない強さがある。
黒くて細長い蜂が地面に入っていく。
「あそこね?」
「フィオちゃんは下がってて」
ヒラスさんが発煙筒を焚き、蜂が消えた地面に投げ込み、穴から何匹か飛び出してくるけれど、ドルトスさんが虫取り網を素速く振り、すべて捕獲する。
「いつ見ても凄いね、ドルトスさん」
「動体視力と行動予測、剣を振るスピードは若い者にはまだ負けんぞ?」
後は、巣の中で煙に酔った蜂を捕まえて、たくさん蜂の子が詰まった巣を崩して取り除く。
地蜂の仲間かな? 黒スズメバチに似てるけど、地球産のより大きいなぁ。
蜜蜂じゃなくても蜜の巣を作る種族だった。
こういう時、地球の常識や知識は役に立たないね。
《結構いい巣蜜ネ。アタシの分もとっといてチョーダィ》
手のひらサイズの蝶になって、ドルトスさん達の手元に飛んでいくサヴィアンヌ。
「女王陛下。いつもの蜂とは種類が違うのでフィオちゃん本舗の売り物にはならないですよ。ので、差し上げますよ」
ヒラスさんの言葉に、カインハウザー様も頷いている。
《あら、気が利くじゃない? と、言いたいところダケド、何かアル?》
「いえいえ。いつも、我々に手を貸してくださっているお礼です」
「俺ぁ、娘の分まで、妖精の羽衣をもらったからな。こんなもんじゃ足りないが、ぜひ受け取ってくれ」
みんなの感謝を受けて、ドヤ顔で蜂の巣を受け取るサヴィアンヌ。
薬草入りの煙に酔っ払った蜂たちは、木箱に入れられ、街の外の山へ返される。
木箱を背負った狼犬のシーグが、砦の城壁を飛び越え、山へ走って行った。
《ま、途中で蜂たちが目覚めてモ、シーグなら大丈夫デショ》
蜂退治を終え、ラリョさんちのブラウニーからお礼の、妖精の雫が採れる場所を教えてもらい、後は、領主館に戻るだけ。
みんなでわいわい歩いていると、さっき山へ行ったばかりのシーグが戻って来た。
『サヴィアンヌ!! カインハウザーに、総ての民を町に戻して、城門を閉めるように言え!』
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