異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅳ.幸せに忍び寄る悪夢

3.魔族

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『サヴィアンヌ!! カインハウザーに、総ての民を町に戻して、城門を閉めるように言え!』

 狼のままでは、話す訳にはいかないと判断は出来るくらいは冷静なのかもしれないけど、どこか焦った様子だった。

《なんてこと! ここまで近づくまで気づかないなんテ!! この妖精王サヴィアンヌ様とした事が!!》

 恐ろしい表情で叫んだサヴィアンヌは、人と等身大になって、カインハウザー様に怒鳴りつけた。 

《ここまで気づかズ近寄せてしまった事への謝罪は後日! セルティック! 今すぐ総ての城門を閉メテ!! 不完全デモ、結界を張るワ!!》

「はぁ? 結界? ⋯⋯って、まさか!?」

 ヒラスさんとノル爺さんは、最初、内容が頭に染みなかったのかポカーンとして、ヒラスさんは理解すると怖い顔をして町に走って行った。

 二人よりも早く瞬時に読み取ったカインハウザー様は、リリティスさんに風の精霊の伝言を送らせ、総ての衛士隊が迎撃態勢に入る。

「いいか、無理はするな! 無理だと思ったら、すぐに引け! 躊躇ためらうと間に合わないからな! 黒翼隊の時分の訓練を、魔物退治の前線を思い出せ!! 躊躇ためらうな!!」

「躊躇うな?」

 逃げるのを、だろうか? ドルトスさんの声はいつになく低く、またかなり緊張していて、余裕がないように聴こえた。

「違うよ。お嬢ちゃん。言いたくぁないけどね、この場合は殺人を、だね」
「ええ? 戦争が始まるの?」
「違う。けどそうとも言えるかな? 闇落ち魔怪との戦争だけどね」

 ──魔怪!!

 私達が召喚された理由。異世界からの良くない魔素を含んだ悪意や魔族が界の裂け目から入り込んできて、瘴気を振りまき闇落ちを生み出し、世界を魔界に落とそうとやって来るのを何とかするため。

 その、魔怪が押し寄せてくるの?

「魔獣や闇落ちは、城壁でも物理的に食い止める事は出来るが、魔族は物質体マターボディを持たないから、すり抜けて何処にでも現れる。女王様が結界を張ってくれるそうだが、魔力の強い高位魔族なら転移出来るから、そこは女王様との力比べだな。
 問題は、純粋魔族は剣や槍では斃せない事と、魔に取り憑かれて人でなくなった町の人間を、魔怪として屠れるか、だな。黒翼隊の隊員でも、さすがに知人だと躊躇ちゅうちょするだろうな⋯⋯ なあ? セル坊」

 ギリと唇を噛み締めて、眉を顰め、状況と情報と戦力とを計算しているカインハウザー様。

《正直に言うト、数日しか保たないと思うワ。あの、アリアンが縫い付けたヤツ。あんなのが数体。瘴気を放ちつつ街道を北上して来るカラ、アリアンでは無理カモ。
 ソイツらを生み出した魔族も一体。
 選んデ、セルティック》
「何をでしょうか? 女王陛下」
《その一体の魔族をも寄せつけない結界を一日だけ張ルカ、所々綻びて魔怪の侵入を許すだろうケド数日保つ結界デ、町を護るカ。それトモ⋯⋯》

 真面目な表情かおしたサヴィアンヌと、カインハウザー様が見つめ合う。

《結界は張らズニ、その魔族に活動を妨げる呪いをかけて行動を制限スルカ》

 いつもは素早くより良いものを計算し、即答に近い早さで答えるのに、返事が出来ないカインハウザー様。


 そこへ、フィリシアが悲鳴のような甲高い声で叫んだ。

《セルティック!! こないだの花畑の比じゃない瘴気と、闇落ちの群れよ! 畑は諦めて! 農民は、私が飛ばすわ!!》

 そう言うと、フィリシアが薄く大きく広がって領主館ほど大きくなると空気に溶けるように姿を消す。

 次いで、あちこちで悲鳴が上がる。

「わああ!?」
「オヤジさん!!」
「なんだあ!?」

 空から、畑に出ていたと思われる農民が次々と降ってくるのだ。

「なにごとだぁ? 空から町のモンが降ってくるぞぃ」

 地面に激突する直前に、サヴィアンヌが召喚した妖精郷のキノコの笠が開き、人達がキノコの笠の上で一度バウンドして、軟着陸する。

《ごめんなさい! 激突するのを和らげる余裕はないの!》

 それらを見ていた衛士隊員が、近くの民家で干していたシーツを数人で端を持って広げ、キノコから落ちてくる人を受け止める。
 みんな、事前に知っていた訳でもないのに、素早く連携プレーが出来るのね。

 緊張感が町中に広がり、そこかしこに武装した衛士隊が走り回っている。
 カインハウザー様が将軍だった頃の部隊、黒翼隊の隊員だった人達は、みな一様に黒い鎧を身につけている。

「あれは、見た目怖いがな、防御魔術を付与するのに魔術が染みやすい素材を使うと自然、黒い物になるんだよ。返り血が目立たない利点もあるしな。平和呆けした国軍にはったりを利かせる為じゃないからな?」

 ドルトスさんの解説は、私の緊張を解すためにわざと冗談めかして言っているのだとは思うけれど、事実でもあるんだろう。

「その、行動を制限させる呪いはどれくらい保つ?」
生憎あいにく、概算が出来ないワ。かなり強めの魔族ネ。魔神級じゃないだけマシかしラ? 三日は保たせられると思うケド、その後、アタシ達がどうなってるかは、保証できないワネ》

「それで暴れられないと解ったら、諦めて去ってくれるといいんだがな」
「山から北上してくるとは、大神殿や途中の村はどうなったんだ?」

 ハルカスさんのため息は重いものだったけど、誰も返事を返さない。
 ドルトスさんの質問に、実際に見て来たシーグが狼のまま答える。まあ、みんなの前で人型に戻る訳にもいかないけど。

『神殿は知らねぇが、すぐの村は壊滅だな。元々、瘴気を放ちつつ放置されてただろう? ミヤコ達が浄化して練り歩いたからって村人を戻しても、一度けがれて活力をなくした土地が生き返るには時間がかかる。魔族が通過しただけで、その通り道に居た村人が生きたまま魔怪に早変わりだ。感染した闇落ちの魔怪に襲われた村人も魔怪に、と雪だるま式に増えて、あれはもう無理だな』



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