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【萌々香 Ⅱ】
📵10 浮遊と、猫の子のように
しおりを挟む馬車の中でも、私のメンタルは削られ続けていた。
「ねえ? やっぱり、それ、見せつけてるの?」
「⋯⋯⋯⋯」
「いつの間にそんな仲良しになったのよ?」
「なってないし」
「目の前でイチャつかれたら、こっちのやる気削がれるんだけど?」
「違うし」
「どこが違うのよ? お膝抱っこされてて、イチャついてませんなんて、誰が信じるのよ?」
「⋯⋯違うもん」
漫画で見るような、ふかふかの座席に黒オーク材の豪奢な馬車⋯⋯ではなく、木目もそのまま雨除けの塗料を塗っただけの装飾もない、板の上に辛うじて厚地の布を張っただけのベンチと背凭れが備え付けられただけの箱型二頭立て馬車だ。
結構、揺れが激しい。話すと舌をかみそうなので、単語っぽい返事のみだ。
愛唯はよく喋れるね?
「何よ。私は、毎日魔物狩りに、この馬車で遠出してるのよ? ⋯⋯慣れたわ」
召喚された翌日に、お試しに草原へ行った時は、お偉いさん達ともっといい馬車に乗ったので、ああいうのに乗ると思ってた。
「下ろしてあげてもいいけど、後悔すると思うよ?」
「いい。現地までマクロンさんを座布団にするよりいい⋯⋯はず」
じゃあ。いつでも戻っていいからね?と言われて、隣の座席に下ろされる。
あが、あががごががが⋯⋯
物も言えないくらい振動が来る上に、お尻めっさ痛い。僅か数分で⋯⋯お尻のお肉死んだ。
「ほらほら。だから、おいで?」
両腕を広げてお迎えしてくれるマクロンさん。
痛いし、辛いけど、素直にお願いします、とは言いづらい。
ガタンと、大きな石を跳ねたらしい振動で、馬車も揺れると言うより縦に跳んだ。
その反動で、お尻や腿裏の筋肉が硬直していた私は踏ん張れずに、二人の足元の狭い床に投げ出される。
「なんで、アンタは平気なのよ?」
有無を言わさず私の脇の下に手を差し込み、猫のように持ち上げて自分の膝に乗せながら、愛唯に答えるマクロンさん。
「浮いてるからね」
「「浮いてる?」」
マクロンさんは、浮いていると言ってるけど、よく解らない。
「それ、生体魔術で出来る事なの?」
「魔力を高めて身に纏うんだ。防御魔術と同じようにね。で、体に触れるものを拒絶するようにすると、魔力の層の分だけ浮くんだよ。
まあ、植物の精と契約してる人なら、蔓や枝葉を出して支えるって手もあるよね」
「⋯⋯嫌味? まだ火の精霊しか憑いてないわよ」
「基本的に相性のいい守護精霊は、最初の試しの珠で自動的に憑いてくれるけど、その後属性を増やそうと思ったら、自分で働きかけて契約しないと」
「それ、どうやるの?」
「まずは精霊を見つけて仲良くなってね」
「それ、どうやるの?」
「⋯⋯これも一種の才能と相性だから、自分で方法を見つけて?」
むくれた愛唯にも丁寧に答えるマクロンさんは、基本的にいい人なんだろう。
愛唯に、あんなに偉そうにされて全く怒る気配がない。
いくら『御遣い様』の聖女でも年端もいかない小娘に、聖騎士に頼られるほど生体魔術と薬剤調合が優れた大人の魔法士が、生意気にも噛みつくような話し方をされて笑っていられるなんて、大人だなぁ。
次話
📵11 メテオストライク?
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